『晩秋の飾り窓 其の三』


私が住むのは、東京郊外のまあ割と大きな街。
それでも、日本という国が徐々に往年の勢いを失い、
高齢化、過疎化していっているのを象徴するように、
いつか街全体が、さびれていく傾向にある。

私がここに越してきてから30年。その間に随分、以前あったものが消えていった。
新しいものが生まれていないわけではない。
でもそれは駅の周辺だけ。
少し離れると、店がいつか、一つ一つと消えていったりする。
2か月ほどそこを通らないでいると、前あった店が無くなったりしているのだ。

この店もその一つ。


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行灯屋さんではなく、作業着を売るお店だった。
工場で働く人が着るグレーの綿ギャバの上着とか、鳶職のお兄さんが着る
ニッカボッカーとか、つなぎ、軍手など、およそ作業関係の衣服小物など
すべてを取り扱っていたように思う。
幹線道路の一本脇道沿いにぽつんと立っていたが、それでもぽつぽつ
客は来て、もう30年ほども商売が続いていた。

私もここで数回買い物を。
娘が受験の画塾に通っていた頃から、ここで、オーバーオール、
日本風に言うと『つなぎ』を時々買ってやっていたのである。
油絵を描く時、衣服が汚れないよう、すぽっと着る。
なんでも、赤いのや黒いの、青いの、5着くらいは買っている。

そこのご主人だろうか、誰が作るかは知らねども、いつからか、店の
ショーウィンドウにこんなものが飾られるようになった。
ミニチュアの行灯。夕暮れになるとこういう風にぽっと灯がともる。

「まあ、細かい細工! きっと楽しく作ってるんだろうなあ!」
そう思いながら、ここを通ると覗いて見ていた。
最近は娘がもっぱらアクリル絵の具で机代わりの炬燵で小さめの絵を
描くようになったので、もうつなぎを買いに来ることもなく、
どなたがこれらを作っているのか訊ねる機会も無くなっていた。

これは今年4月のある夕暮れにそっと撮らせてもらった写真。
ところが、この夏には、この店。閉じてしまって無人となってしまった。
長年のご愛顧に感謝する、という貼り紙があるのみ。
建物自体もその後取り壊され、後に何か立つ気配もない。

いつか、立ち寄って詳しく話を聞こうと思っていたのだが。
写真を撮るとき、一声かけてみるべきだったなあ。
どんな人が、どんなこころで作っていたろうか…。
商売をやめて、ここの人はこれからどこでどうして生きていくろうか。

時は流れ、人は変わっていく…。
街は生きている。
いつかまた、ここに人は住むであろう。
しかしながら、ひととのふれあいの機会は時を逃せば過ぎていく。

きっと折角の力作。多くの人に見てもらいたかったろう。
断りもなくなんだけれど、ここにご紹介して、作った人の楽しいこころを
お伝えしたいと思う。



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『しだかれて十薬忿怒の息吐けり』

『南亭雑記』の南亭師から頂戴した句。このブログになんともぴったりな句と思い、使わせていただきます。
十薬とはどくだみのこと。どくだみは踏みしだかれると
鮮烈な香りを発します。その青い香りは、さながら虐げられた若者の体から発する忿怒と抗議のエネルギーのよう。
暑い季節には、この強い歌を入口に掲げて、私も一民衆としての想いを熱く語りましょう。

そして季節は秋。
一足早いけれども、同じく南亭師からいただいた、この冬の句も掲げておきましょう。

『埋火に理不尽を焼べどくだみ荘』

埋火(うずみび)は、寝る前に囲炉裏や火鉢の燠火に灰をかぶせて火が消えてしまわぬようにしておいた炭火などのこと。翌朝またこの小さな火を掻き立てて新たな炭をくべ、朝餉の支度にかかるのです…

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