『素敵なあなた』

浅田真央がグランプリ(GP)シリーズ第3戦となる中国杯で、一年のブランクを
ものともせず見事優勝。
たいしたものである。
しかも、久しぶりの試合だからと、技の構成面で妥協することなく、ショートプログラム
では、むしろ女子の最高難度と言われるようなプログラムにしてきた。
このチャレンジ精神…本当に頭が下がる…
どれほど強い意志を持っているのか…そう思ってしまう。
浅田真央のストイックさを私は愛する。


浅田真央が、ショートプログラムで選んだ曲『素敵なあなた』は、このブログで一度
取り上げたことがあるのだが、ご記憶の方いらっしゃるだろうか。
私は、この曲がそもそもとても好きなのだが、この曲を素材にして作った、あるヴィデオの遊び心に
すごく惹かれてしまい、ここで紹介したのだった。

真央ちゃんの復活を祝って、もう一度アップしてみようかな。
ぐだぐだしている自分に活を入れる意味でも。


まずは、元歌のイディッシュ語のヴァージョンを。
原曲は1933年のイディッシュのミュージカル。原題は、"Bei mir bist du schejn "。
意味は『私にとって、あなたは美しい』というような意味らしい。
作曲ショローム・セクンダ、作詞ヤコブ・ヤコブス。
イディッシュとは、東欧やドイツにおもに住んでいるアシュケナージ系ユダヤ人の言語のこと。
それを37年にサミー・カーンがアメリカに持ち込んで、以降ジャズの名曲として、
多くのアーテイストがカバーしている。邦題は『素敵なあなた』。

http://www.youtube.com/watch?v=ZUVEq6NC7mM

最初は今の時代からすれば、少しゆっくり過ぎる感じがするかもしれないが、
一分を経過した頃から、テンポの速い軽快な曲となる。



さて。私が紹介したかったのは、この、"Bei mir bist du schejn "を、Waldeckがアレンジした
ヴィデオ・クリップ。"Bei mir bist du schön."
."Waldeck は、90年代に活動を始めたオーストリアのグループで、20年代のタンゴ、30年代のジャズ
などを融合した、不思議な世界を作り出す。

紹介する映像は、Waldeckが、1920年、30年代などの古い映像を切り貼りして、
この曲にぴったりシンクロするように編集したもののようなのである。

ここで使われている20~30年代くらいのショーの演出が、とにかくとても気がきいていて、
楽しいのである。
使われている楽器も、演奏ぶりも、歌手もダンサーもみんな、とても古めかしいのだけれど、
凄くキュートでお洒落。
昔、こんな楽しいショーをやっていたんだなあ。
ベースの人とかダンサーたち、それぞれの動きをよくご覧ください。
ひとりで男と女の抱き合っているように見える衣装や、ベース弾きのパフォーマンスや
ひとりひとりの踊りや演奏姿が本当に楽しい。
それをこういう風にうまく現在の演奏にあてはめたのだとすると、感動的に凄い編集だ。

映像冒頭部の、レコードをプレスしているシーンなども貴重な映像ではなかろうか。
あの、レコード盤がこういうふうにプレスされて、それからスタジオで録音されるシーン
など、あまり見たことないでしょう?
映像の最後では、出来上がったレコードにWaldeck のラベルを貼るところなど
添えてあって、お茶目である。





30~50年代に活躍したアンドリューシスターズというグループも歌っている。
その歌もアップしておこう。
このビデオクリップも、『お熱いのがお好き』のジャック・レモンとか、
ルシル・ポールとかクリストファ・リーとか往年の怪優、迷花(!)が次々と出てきて
なかなか楽しい映像である。

http://www.youtube.com/watch?v=Xe2UXccid40


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『好きな音楽で』


大事な問題が山積して、ああ、あれも書かなければ、このことも触れておかなければ、と
気持ちばかりが先走って、書くエネルギーが追いつかない。
一つ記事を書いては疲れてちょっと休んでいると、
これを書こうと思っていたこともあっという間に世間の早い忘却の速度の中で、
ピントがぼけた話題になっていってしまう…

それに、…
固い記事ばかり書いていると、だんだん気持ちが荒んでくるのを感じるのである…
まあ、自分が勝手にやっていることなので、誰に泣きついてもしようがなく
自分で気持ちのバランスをとっていくしかないのだが、時々、わ~~~っと
どうでもいいや!という捨て鉢な気分になってしまうことはある…。
「もう、世の中のことなんか知らない! 勝手になるようになって!」と尻をまくりたくなる
ことがある。
もともと、少々やくざな気質も根幹に持ってはいるので。

それを思うにつけても、脱原発の記事に特化して、毎回いろんな情報記事をアップ
してくださる方々はどんなに精神的に苦しいだろうと思ってしまう。
どんなにか、ご自分の好きなことをお書きになりたくておいでだろうか、と。

こういう、自分で勝手に閉塞感にとらわれている時は、好きな音楽を聴くのがいいなあ…。
今の私の気分に一番ピタッと来るのはこれかな。

1969年のフランス映画『シシリアン』(仏: Le Clan des Siciliens)の主題曲。
作曲エンニオ・モリコーネ。
映画は、アンリ・ヴェルヌイユ監督。ジャン・ギャバン、アラン・ドロン、リノ・ヴァンチュラ主演の
フィルム・ノワール(といっていいかな)である。
これが聴きたいばかりにDVDも買った。
DVDは、残念ながら、英語音声版で、ジャン・ギャバンなど本人たちの吹き替え
らしいのだが、やはりこれらのフランス映画俳優たちが(リノ・ヴァンチュラはイタリア生まれだが)
英語でしゃべっているのは、思いこみのある私には、ちょっと違和感があったかな。
もっとも、シシリアンマフィアが主題で、舞台はニューヨーク、パリと飛ぶのだから、
英語でしゃべっていたっておかしくはないはずなのだけれど、それでもやはり。
たとえどうせ字幕で見るのだから、と思っても、原作がトルストイの小説の映画の主人公たちが
英語でしゃべっていたりするのはどうもやはり感情移入出来なくなってしまうのと同じ。

とにかくこの主題曲は大好きで、何度聞いても私には飽きない…






『クリスマス・イブに』

メリー・クリスマス。みなさん。

なにかと気の滅入るような政情ではあるけれど、しょんぼりしていても仕方がない。
また年が明けたら、元気にやり直すのだと思っていましょう…

いつものように、音楽の贈り物、してみましょうね。
今回はこんな曲を。


CIMG9402.jpg

これは1972年、キングレコードから出た、子供のためのクリスマス曲集です。
発売から3年目くらいに、幼い娘のために買ってやりました。
その頃は団地に住んでいました。
クリスマスケーキを作って、鉢植えの樅の木に飾り付けをして…
チキンの丸焼きを買って、子供も飲めるシャンペン風の飲料も買って…
一所懸命な若い母でした…

このレコード。今はプレイヤーが家にないので、聴くことが出来ません。
でも、とっても大切なレコードなので大事に取ってあります。
いずれ、レコードやカセットテープの音源をCDに変えられる機器を買って
クリスマスの晩に聴きたいと思います。

なぜ大事かって、子供の思い出が籠っているからでも無論あるけれど、
ここに収められたクリスマスソングの、演奏がとにかくめっぽういいのです。
収められている曲は、『ジングルベル』『きよしこの夜』『もろ人こぞりて』などの
定番の曲のほか、『トロイカ』『マルセリ―ノの歌』『ゆめのそり』など
少しだけ選曲の変わったものも入っている。
歌っているのは、ひばり児童合唱団やボニ―・ジャックスなど。

その中でも、特に私と娘がいまでも大好きなのが、この『雪とこども』です。
歌は、『東京少年合唱隊』と書いてある。
素晴らしいです。
なんと綺麗な歌声か、と思う。
『綺麗』と、今書いたけれど、ウイーン少年合唱団などの歌声とまたちょっと違った
美しさだと思います。
ウイーン少年合唱団のそれが、教会の中で歌われる天使の声だとしたら、
この東京少年合唱隊の歌は、日本の…そうだなあ…。
雪に覆われた藁屋根の家に、なおもしんしんと降りかかる粉雪のような歌声だ。
夏で言うならば、夕暮れ時、遠くの木立から聞こえてくるひぐらしの鳴き声のような
いのちの清玲さに満ちた声だ。

レコードはプレイヤーが無いので聴けないし、CDにはなっていないようです。
何とか、あの歌声を皆さんにお届けしたいと、探していたら、それらしいものがありました!
『東京少年少女合唱団』とある。
わたしのレコードの『東京少年合唱隊』と違うのかな。
調べてみたら、東京少年合唱隊は、1951年(私が4歳の時だ!)に創立。
1964年に少女合唱隊と合併して、東京少年少女合唱隊、となったとあります。

さて。同じ演奏だろうか…
伴奏などの楽器のアレンジが多少違うような気はするけれど、子供たちの歌声は、
確かに、私の大好きだった、あの歌声です!

なにがいいか…
それは、その発声の美しさです。
本当に音楽の基礎が出来ている歌声なのです。
喉先だけで出す、しめつけられたような歌声ではない。
お腹の底から胸郭、そして喉を緩やかに通って、鼻から頭の天辺に抜ける声です。
本当にこの頃の子供たちの合唱隊。指導者が基礎をしっかり教えていたんだなあと思います。
そして。

歌詞の一音一音の発声が、ものすごく正確で丁寧でやさしいのです!
例えば、『で』『ご』などの濁音の美しさ。
『れ』『て』『に』など、乱暴に歌うと、汚く聞こえがちな音の発声の丁寧なことったら!

昭和30年代(1955年~)くらいの日本の映画を見ると、女優さん達の声が
本当に綺麗です。この頃は、大人も子供も、今と発声法が違っていた気がする…
もともと鼻濁音で発音する音でなくても、どこかしら
やわらかく鼻にかかった声…いまはそういう話し方のできる人が本当に少ないです。
どんな話し方か?…そうですねえ。いま存命の方では、若尾文子さんの声を聞いて
いただけると、およそお分かりいただけるかと思います。





こんなカード作ってみました。
クリスマスキャンドル立てる代わりに、小さなガラスの樅の木を
24日の冬の日差しの中に置いてみました…


2012クリスマス①


願わくは、すべての子供たちが夢多い子供時代を持つことが出来ますように。


それでは。『雪とこども』お聴きください。





あれ?再生出来ない?
それでは…

http://www.youtube.com/watch?v=mKmlvN-FdLo&feature=share&list=FL26qktQOBjM7rYHgWbBCAJw


『ちょっと息抜き』

次にまた、固い記事を書かなきゃならないので、その前にちょっと
軽いお遊びを。

え~と、Yさん、こんなの作ってみましたよ。
windowsのムービーメーカーという機能を使えば、撮りためた写真、
音楽を入れてこういうふうに自分で楽しめるし、You Tubeにも
アップできました♪
ざっと急いで作ってみたので、写真など、まだ厳選してないし、
音楽も、とりあえず、という感じですが。


すこししたら、これは一度消去します。
今度またゆっくり、写真をちゃんと選んで別なものを作ってみたいと思います。^^



『音楽の贈り物』


…やりきれない気分。
そんな時は、音楽でしょうか…

色っぽい歌詞なんですが、なんだかこんな歌が聴きたくて。








『音楽の贈り物』



sung by Sting 





他のヴァージョンがお聴きになりたい方は、次をどうぞ。

続きを読む

『音楽の贈り物』


怒りの記事ばかりになっています。
それでもおいでくださりお読みいただいている皆さまに感謝。
でも、いい加減読むのに疲れた、という方もたくさんおいでになるのでは(笑)。

お詫びに、音楽の贈り物いたしましょう。
前にも一度ご紹介したことがあると思いますが、今の私の想いに
合うものですから。
この日本が負ってしまった、この想像を絶する大災害と、
原発事故がもたらした喪失の2重の悲しみと怒りに。

でも、みなさん。
彼岸花、半端な気持ちで、今のシリーズの記事は書いておりません。
大袈裟かもしれないけれど、言わば、私のこれまでの全存在をかけて、
これで疲れきって散ってもいい、くらいの気持ちで書いています。
どうか、気が重くてもお読みくださいね。
その後の判断は、みなさんお一人お一人の胸の内に。

それでは音楽、お送りします。





J.S.バッハ作曲『マタイ受難曲』第39番。アリア『Erbarme Dich(「憐れみ給え、わが神よ」)』
ロイ・グッドマン指揮ブランデンブルグ・コンソート。カウンターテナー:マイケル・チャンス。

『静かな激情』

東北地方太平洋岸は、いま…

私の住む関東地方も、今、重苦しい空気に包まれている。
東京も、すっかり元気がない。
地震と福島の第一原発の事故が、重苦しく人々のこころを覆っているのだ。

夕方自転車で買い物に出た。
帰り、ほんの小さな雨粒がポツリポツリと落ちてきた。
すれ違った老夫婦の奥さんの方が、空を見上げて、

「ねえ、今、ここに、雨があたっちゃったわよ。」

そう旦那に言って、自分の額を服の袖で拭った。
二人は顔を見合わせ、急に足を速めた。
私も自転車を急がせた。
ああ。なんで、雨ひとつぶがこの恐怖を呼ぶ?
雨に罪はなかろうものを…

私は東京の西郊に籠っているので、都心の様子はわからないけれど、
昨日仕事で都心に出た娘は、その暗さに驚いていた。
新宿の伊勢丹百貨店も、お店の明かりを落として、
外資系の化粧品のブースは真っ暗で人けもなく。
国内の化粧品のブースには明かりがついていたらしいが。
卒業式をとり行わない大学もあるという。
海外からのアーティストの公演は、いくつも中止になり。

まあ、東京は、これまでが、言ってみれば贅沢過ぎたのだ。
少し、虚飾をいささか取り払って、人間の本来の体に戻るのもいいことだろう。

しかし。それを自分たちで考えて選択する、ということと、
外部からの強制的事情によって、それに抗うすべもなく、ただ従う、ということは
別物だという気がする。
そこに私は、怒りを感じるのである。

こうなった根本の原因を考えてみるがいい。
東京という大都会に住み、その便利さを享受してきた私たちは、
こうなる道をまっすぐ、考えもせずに導かれてきたのではなかったろうか?
それはしかも、今恐怖に怯えているかの地などの犠牲の上に立った便利さだったのだ。
文句を言う筋合いがあろうか?
私も含めたおとなしい羊たちは、もっと前に、自ら気づいて、
牧夫の誤りを糾すべきではなかったのだろうか?


4つ頭を並べて、質問にさえ答えられないで青ざめているT電社員の顔…。
それさえ今は責める気になれない。彼らもある意味、犠牲者である。
背後にいる、もっと大きなもの…。それは実は一企業とか、
一政府とか、一県市町村とか、そう言う具体的なものでさえなく、
人間の飽くなき欲望という、大きなものである、という気が今、私はしている。

だが、ああ。まあ。今は言うまい。

今は、人間の底力を信じたい。
昨日(…ああ、もう一昨日だ…)、原子炉3号機に見事長時間にわたる放水という
任務を成し遂げて帰還し、報道陣に答えている東京消防庁の3隊長たちのあの顔!
なんと、美しかったことであろう!

私が電気をあかあかと灯して、外を降る雨の音を悲しいものに聴きながら
こんな文を書いている今も、別働隊が、深夜、高い放射能を持つ建屋に向けて、
放水作業をしていることであろうか。

何もかもが瓦礫となってしまった故郷の地で、避難場所で今、寒さに震えながら
明日のことも思えずにいる人々。
被災地の人々を気遣いながら、なにか自分にもできないであろうかと考えている、
日本の他の地域の人々。
そうして、地震に襲われたその上に、さらに原発の事故に遭遇し、
屋内退避、自主退避、そのいずれであろうと、生活の基本である食料、燃料、
水、移動のためのガソリン、医薬品…すべてを得られず、
目に見えぬ放射線の恐怖に怯えつつ、
暗い夜を息をひそめながら過ごしているであろう人々。

ああ!それらが、皆、この同じ夜の空の下にいる!
悲しくも美しき この連帯感よ…。


ああ!わたしは、美しい歌を歌いたかったのだ。
春を告げる鶯のように、
胸を張って、高らかに、美しい歌を歌いたいのだ!
明日が穢れるなどということを知らなかった、純朴な昨日という日に戻って、
高らかに美しい歌を歌いたかったのだ!

ちょうど今、ラジオでは、昨夕、ウィーンフィルが、定期プログラムの前に、
日本の被災者たちに向けて哀悼と見舞いのメッセージを発してくれたということを伝え、
そこで最初に弾かれたダニエル・バレンボイム指揮、
モーツアルトの『ピアノ協奏曲第23番、第2楽章アダージョ』を、
マウリツィオ・ポリーニの演奏で流している。

悲しみに満ちた美しい演奏である。

ああ!私も歌を歌いたいのだ!
胸一杯に春の気を吸いこむことを恐れる必要もなく…

高らかに、人生に恋する歌を歌いたかったのだ!

美しい歌を。
翳りなき歌を。





ウイーン・フィル。マウリツィオ・ポリーニの演奏。ただし、指揮はカール・べーム。




『音楽の贈り物』

グレン・グールド。

この彼の姿を見ていると、涙が出てくる。
ピアノに生き、ピアノに死す。
人間と言うものが辿りつける崇高の境地。

この天災、そうしてこの人災で、一体何人の
尊い命が失われていくのであろう。

ああ。ひとは かくも生きられたであろうものを!


">


この美しい調べを聴き、この美しい手を見ただけで、
私も、この世に生まれてきた甲斐があったというものだ…




『こういう時こそ美しいものを』

嘆いたり怒ったり。
泣いたり笑ったり。

自分でも、つくづく激しい気性だと思います。

明日は笑っていたいなあ…。

こんな気分の時こそ、美しいものが必要かもしれない。
音楽の贈り物。みなさまにお届けします。

映画『アルゼンチンタンゴ 伝説のマエストロたち』の中で
使われていた、タンゴの名曲。
『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』と共に、私の大好きな音楽映画。
この映画を見に行ったころ、私はある悲しみを胸に抱えていたのだけれど、
今は、そんな悲しみさえ、懐かしいものに感じる。

この曲は、私の、大事な大事な思い出の曲。






貼り付け画像だとご覧になれないかたはこちらで。
http://www.youtube.com/watch?v=ADR6qO0zlFk



『Dance Me to the End of Love 』

いつも留守宅を訪ねてくださる皆様に感謝をこめて。

こんな曲をお送りします。

戻ってくるのはまだまだ先になりそうですけれど。



">






『M 姉に』




アストール・ピアソラ作曲『リベルタンゴ』(1974年)。

ピアソラはアルゼンチンのバンドネオン奏者、作曲家。
従来のアルゼンチンタンゴに飽き足らず、クラシック音楽、ジャズの要素などを
取り入れ、その上にアルゼンチンタンゴの持つ美しい旋律を乗せて、
タンゴを革命的に変えたひと。

私はタンゴの曲も踊りもとても好き。
しかしながら、国際ダンス選手権などに見る競技用ダンスのタンゴの踊りは、
あまりにもアクロバティックになってしまっていて好きではない。

この映像のダンサーたちの振り付けのストイックさが、私がタンゴに望むものに
比較的近かったので、ご紹介してみた(ほんとはもっと抑制されたものがいいけれど)。
アルゼンチンの街かどで、普通の市民が辻音楽士のバンドネオンの演奏に合わせて踊る。
ちょっとした舗道の空き地で踊るのであるから、競技用タンゴのように、
両手を鳥のように打ち広げたり、めまぐるしく体勢を変えたり、激しく動き回ったりは
しないのである。
男と女が、情の向くままにつと抱き合って踊り始める。
そうして、踊るにつれ、情感は高まっていくのだけれど、その情感は
抱き寄せる男の手の力や、男の首にかけた女の手指の熱さ…
そんなところにぐっとこもっていくだけ。
男と女の情が高まれば高まるほど、踊りは逆に抑制されてストイックになっていく…
男と女の情が絡み合うように、二人の足だけがせつなく絡み合う。
そんなタンゴが私は好きである。

映画『セント・オブ・ウーマン』の中でアル・パチーノがタンゴを踊るシーンが素晴らしい。
(『リベルタンゴ』が終わった後に出てくる画面下の映像の中にあります。)
その時の曲は、カルロス・ガルデル作曲の『ポル・ウナ・カべーサ』。 
このときのアル・パチーノも、ほとんど大きな動きはしない。
その抑制が、何ともいえず、官能的なのである。

タンゴは恋の甘さも苦さも知りつくした大人の踊り。

これを、優しかった義理の姉に捧げたい。



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『満月の夜に 』


今日は満月である。
昼のうちは晴れていたが、夕方になって東京辺りの空は薄雲がかかってきてしまった。
遅い買い物に出た時も、月は雲の向こうに滲んだ姿を見せていた。

それでも、9時。外に出てみると、こんな月が。
雲ひとつなく澄んだ夜空に月だけ明るいというのは無論美しいけれど、
今夜は、むらくもが月のまわりを彩っていて、それもまた面白く風情がある。

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あなたはこの月をご覧になっていらっしゃるだろうか?

月を題材にしたオペラ曲にしようか、ベートーベンの月光ソナタにしようか、
とも思ったが、どちらも、今日の雲に彩られた月には似合わない。
ムードたっぷりのこんな曲にしよう。
サキソフォンは、イタリアのアルトサックスの名手。ファウスト・パぺッティ。
映画『鞄を持った女』(1961年)でもテーマを吹いている。

甘いアルトサックスの響きをお楽しみください。

http://www.youtube.com/watch?v=QqCcIH-IxHc





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『VITAS』

VITAS・・・ 

そう言って、果たしてどのくらいの人が知っているのだろう。
今頃知ったのはひょっとして私だけ?

1981年、ラトビア生まれ。ロシアで活躍する歌手、作曲家、作詞家、ファッションデザイナー。
1981年生まれというと、現在29歳くらいか。
彼がロシアで、たぐいまれなソプラニスタ(男声の最高音域をもつ者)として、初めて人々の耳目を
驚かせたのは、19歳のときである。

日本でも、2006年頃からいくつかのテレビ番組で取り上げられたようだが、
音楽界の事情に疎い私。果たして彼が今、日本でどのくらいの知名度があるのか
とんとわからない。
皆さんはご存知でいらっしゃるだろうか。もうすっごく有名なのだろうか。
それとも、テレビをたまたま見たことのある人にかすかに印象に残る程度なのかしら。

私は彼を、実は、You Tubeで、アメリカ以外のヒット曲などを求めて聴いているときに
たまたま出会った。アメリカのものは、多少遅れても、そのヒット事情などが
伝わってくるけれど、今、イタリアではドイツでは?…となると、殆ど私などにはわからない。
先日ご紹介した、ウクライナの若き砂絵師の女性。彼女の映像にもそうやって出会った。

まずは、聴いていただきましょう。
彼の歌声は、一説には『5オクターブ半の音域』と言われているそう。
出来たらイヤホンで聞いてみてください。その声の細部まで聴きとれますから。




これは日本で彼が初めて紹介された時の映像。
いちばんその音域の広さなどの彼の特徴が出ているので取り上げてみた。
私はこれを初めて見たとき、正直言ってかなり感動した。

彼は、なんだか言ってみれば、そう、『際もの』っぽい。
この流し眼。この歌い方。この全体から漂う妖しい雰囲気。
ネット上などでは実はすでに彼を知る人は多くいて、その眼付などのことが
面白おかしく取り上げられているようだ。

これは芸術なのか、それともなんだか『俗っぽいもの』なのか。
一歩間違えば、際ものとして音楽界の歴史に残らないかもしれない。
でも、一部のコアなファンには強烈な引力をもつであろう。
彼は自分で作詞作曲もする。また舞台衣装などは自分でデザインする。
その趣味は、う~ん、という感じがなくもないけれど。
まあ、服作りの趣味のことは、あまり人のことは言えないけれど(笑)。

う~ん、魅かれるなあ。
一度聴き、一度見たら、忘れられなくなりそうな歌唱である。

もう一曲聴いていただきましょうか。
私は実はこの曲で、さらに彼を高く評価するようになりました。




鶴が相手を求めて悲しげに張りあげる声…
それを、恋の歌にしている。作曲はVITASである。 
変わった歌である。しかしその鮮烈さ。これはやはりもう芸術と言うしかない。
その悲しげな叫び、さまざまなニュアンスある表現を駆使した歌唱…

なぜ、私はこれに魅かれるのだろう…

彼の顔や姿。別にそれには魅かれない。
やはり何よりその歌の実力。
そう…、それから彼がラトビアの人だからかな。
あの旧ソ連の国から、こういうものが出るか!という驚きと、「やっぱりな」という
妙な納得。

私はロシア民族、まあ旧ソ連時代もそうだが、の芸術性の高さには常に一目置いてきた。
ヴァイオリン、ピアノなどの名だたる演奏家を輩出し、レ二ングラード、ボリショイバレエ団、
赤軍合唱団など、音楽、舞台芸術、また絵画、映画などでも、世界に大きな影響と
喜びを与える芸術を生んだ国である。
それから、ロシアの文豪たち。
トルストイ、ドストエフスキー、チェーホフ、ツルゲーネフ…
ロシア文学を語り出したら、きりがない。

政治上の好みは置いておいて、私はいつもロシア、ウクライナ、グルジア、ラトビア、ベラルーシ・・・
旧ソ連圏の国々の人々の、この芸術に対する志向の高さはなんなのだろうと、
昔から不思議でならなかった。
おそらくそれは、寒い厳しい大地そのものが生みだした感性なのではないかと思っている。

例えば、ロシア、ウクライナなどの、アイススケート、とりわけアイスダンスにおいての
芸術性の高さ。シンクロナイズドスイミングでの同じく芸術性、などを見れば、
彼らに何か独特の、崇高な美の感覚があるのがわかるのではないだろうか。

VITAS。
私はこの人に、その流れを感じたのである。
「この音楽は、他の国からは生まれないよな~!」という、独特の個性。

あと、私が妙に感動したのは、先日の砂絵師の映像でもそうだったが、観客の態度である。
なんというのかな。全身全霊で聴きいっている、見入っている、という感じ。
VITASの歌に微笑んだり、涙を拭ったりしているその姿。
バックのオーケストラの女性たちの顔の表情も見てほしい。

私はそれにも、「ちょっとまいったな」と思ってしまった。
旧ソ連圏の国々の人々は、寒い、おおむね苛酷な大地に生きている。
そうした人々が芸術という喜びに求めるものは、自然が美しくおおむね穏やかで
海に囲まれた小さな国日本、楽しみが他にもたくさんある日本の人々の、
求めるものと多少違っていて当然なのかもしれない。
どちらがいいとかいう問題ではもちろんなく、いろいろな楽しみ方があっていいと思うが。


ロシアやウクライナなどの人々が、芸術や娯楽に対し求めるもの…
それは、おそらくきわめて切実で、ある意味一種の飢えにも似た渇迎。
そんな真剣さが観客の顔にはあった。それが私には美しく見えたのである。

VITASがその一見、「ケレン」にも見える外見の奥底に抱えるもの、
その背に背負う重層的な文化…
『一つの大地の生みだす芸術の奥の深さ』…

歌の背後に見えるそうした諸々のものにも私は感動したのだったかもしれない。
それはラテンの音楽やイディッシュの音楽を聴いたときには、またそこに違った風景を見、
その歌の背後に見え隠れするものに感動するのと同じことである。












テーマ : 思うこと
ジャンル : 学問・文化・芸術

『音楽の贈り物』 14

ちょっと茶目っ気を出して、ブログ来訪の方5000人達成と初めてから一年目の
サプライズ企画をしたら、皆さまから本当に温かいお言葉をいただき、
彼岸花、大感激しています。
皆さま、本当にありがとうございます。そしていつもありがとうございます。

もう一度あらためてお礼。と言ってもいつものように音楽をお送りすることくらいしか
できません。

秋になったら、みなさんに聴いていただこうと思って、ずうっと温めていた
曲があります。それをお贈りしたいと思います。


イヴ・モンタン。フランスを代表するシャンソン歌手、そして大映画スターでした。

彼を見いだし、そして育てたのは、かの偉大な、伝説の名シャンソン歌手エデイット・ピアフ。
彼女は、モンタンのマルセイユ訛りを矯正してやり、シャンソンを一から教え込みました。
二人は愛人の関係でもありました。
歌は後に彼の持ち歌としてシャンソンの名曲となった『枯葉』。



http://www.youtube.com/watch?v=JWfsp8kwJto
(貼り付け画面でご覧になれない方はこちらでどうぞ)

映画のワンシーンで彼は歌っています。すでに目茶苦茶上手い!
彼がここで着ているあっさりとした茶色のシャツとズボン。
これも彼が自分の舞台衣装としてマルセイユの若者風の派手なジャケットと帽子姿で
現われたとき、ピアフがやめさせたのだそうです。それで彼はこんなあっさりした
シャツとズボン姿を選び、以降これが彼のトレードマークとなりました。

モンタンは後に、これもフランスを代表する演技派の大女優シモーヌ・シニョレと
結婚します。しかしモンタンは、マリリン・モンローとハリウッドで共演したのをきっかけに
愛人関係になってしまいます。それを知ったシモーヌ・シニョレはくるしみぬいて、
ついに自殺未遂まで起こします。
シニョレとはずっと連れ添いますが、彼女が亡くなったときのモンタンの悲しみは
とても激しかったそうです。
モンタン自身が1991年に70歳で亡くなったときは、フランス全体が
悲しみに包まれたといいます。

ああ、ここに見る男と女の関係!
彼らはそれぞれに偉大な歌手であり俳優です。
しかし、ひとりの男として女として、激しくそして優しく愛しぬきます。

男が女を育て、女が男を育てる…

大人の愛が匂い立つよう。
それがまた、彼の歌を演技を、深い味のあるものに熟させていったのでしょう。

イヴ・モンタン。男の色香が匂い立つようです。
若き日のモンタンと同じ、『枯葉』を聴いていただきましょう。
どちらもそれぞれの味わいがあって私は好きですが、まあ、大人のモンタンの
何とも言えない魅力。お楽しみください。
男の色香、と今、言ったばかりだけれど、人間の達する深み、というものが、
この舞台の彼の語り、歌、そして姿全体から滲み出ている気がします。




http://www.youtube.com/watch?v=kLlBOmDpn1s

『枯葉』の歌詞がまた切ないのです。
失ってしまった恋をせつなく想う歌。
歌の意味を知って聴けば、また更に味わい深いことでしょう。

続きを読む

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『音楽の贈り物』 15

良い季節になりました。


秋の日ざしが金色。

後で久しぶりに川原の道でも散歩してこようかな。
ここしばらくあまり歩いていませんでした。

カーテン越しの金色の光の中に沈んでいると、こんな曲を聴きたくなりました。
コンパイ・セグンド。
5月14日、『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』をご紹介したとき、
80を超えてなお、ダンディで凄い色気のあるひととして触れています。
パナマ帽を粋に少しかしげてかぶり、葉巻をくゆらす。
まあ、その眼付の色っぽいこと!
そのコンパイ・セグンドが一人で歌う歌をご紹介しましょう。

日本語では、『あなたに私の命をあげます』とでもいう意味のタイトルです。

http://www.youtube.com/watch?v=3Nn_ff4Dqyc


もう一曲。

シャルル・アズナブール。
『二つのギター』。



 
…大人の歌です。まいります。
日本では、若い歌手ばかりがもてはやされる傾向にあります。
それはそれでいいのだけれど、新しい息吹は常に必要なのだけれど、一方で
こういう、60,70,80になってなお、自分の生きざまを
歌に刻み込んだような素晴らしい歌唱の出来る人を聴く機会がもっとあってもいいと思うのです。
そういう宝とも言うべき人に活躍してもらえる文化は、いつ消えてしまったのでしょうか。


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ジャンル : 学問・文化・芸術

『音楽の贈り物』 14

ああ、カーテン越しの秋の日が、金色です。
昨日の大雨もすっきりと上がって、素晴らしい天気。
まだ水気を含んだ青空が、なんだかどこか懐かしい遠い国を想わせます。
そぞろ旅ごころが誘われる季節。

こんな曲をお送りしましょう。



ロス・パンチョス。
メキシコ人のアルフレッド・ヒル と、チューチョ・ナバロ、
プエルトリコ人のエルナンド・アビレス によって、1944年に結成された
ラテン音楽の楽団であり、1981年までは「トリオ・ロス・パンチョス(Trío Los Panchos)」
と名乗っていた。(以上、Wiki による)

メキシコをはじめとする中南米諸国だけでなく、アメリカでも人気を博し、
そして、日本にも数多く訪ねてきて、ある世代以上の人にはファンが多いです。
若い方にはどう映るか知れないけれど、とにかく、このヴォーカルの
素晴らしさをお聴きください。
優れた音楽はきっと世代を超えて、好き嫌いはともかく、その凄みだけは
伝わるのではないかと思います。

ビデオクリップに登場する女性も可愛らしい。
英米圏の女性とはまた違う、キュートで小柄な体に、
滴るような女性の色気と熱い情念がぎゅうっと詰まっているような、
そんな感じがします。

こんな秋の空にふさわしい曲だとお思いになりませんか。
んっ。秋の夜にも良いかもしれませんね。


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『音楽の贈り物』 ①

朝の器楽曲をお贈りしましょう。


東京もいよいよ梅雨入り。
朝から雨です。これからしばらく続く梅雨空。

そんなとき。
あなたのおこころが晴れますように祈りながら
私の好きなタンゴの名曲を。

本当は、私の聴き慣れたアルフレッド・ハウゼ楽団の演奏ので
お届したかったのですが、画像がどうも…。
今日は、青空の画像でお送りしたかったので、マントバーニ・オーケストラので
お聴きください。











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『 What a sky 』

昨日今日と、空がとても美しかった。

昨日。午後。突然の激しい雨。
驚いて外を見ると、空は晴れている。
雨は断続的に降ったりやんだりを繰り返した。

「虹が出るかも!」と思って、ベランダに飛び出す。出ていない。
外に出て、河原まで行った。晴れているのに、雨粒が顔にあたる。

2010_0526_153024-CIMG2042_convert_20100528204357.jpg

やっぱり出ていなかった。こんな感じの雲の時は駄目なのだろう 。
こちらは晴れて、北の方の空に雨雲がかかってそこらが雨でなくては。
虹が出る空は、もう少し季節が先かな…。

そして、今日。

今日の空。

2010_0527_153453-CIMG2067_convert_20100528210315.jpg

吸い込まれてしまいそうである。

2010_0527_153903-CIMG2068_convert_20100528210915.jpg

気持ちよさそうに、ひとり、空を漂うこんなまるっこい子もいた。



こんな空だと、普段見慣れた景色も、なんだか違って見える。

2010_0527_154951-CIMG2079_convert_20100528212856.jpg


2010_0527_161059-CIMG2104_convert_20100528212058.jpg

なんだか、南国的に見えるから不思議。
プエルトリコや地中海のカーサとは言わないけれど。


2010_0527_155155-CIMG2082_convert_20100528213325.jpg

雲のお供え餅? 『三』の文字? 誰かからのメッセージ?




2010_0527_160911-CIMG2102_convert_20100528214100.jpg

あ~~~。ほんとに綺麗な青だ。
心の悲しみも屈託も、みんな吸い取ってくれそうな、深い深い色。

・・・あの空の彼方に何があるのかな・・・。




この記事をご覧になってらっしゃるあなたのところの空はいかがでしたか?


週末の夜。
皆さんは今晩は遅くまで起きていらっしゃるかもしれませんね。
それではそんなあなたのために、今宵も音楽をお送りします。

http://www.youtube.com/watch?v=YJiziWpeD4o




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『東京』

『東京』…

『東京』、っていったい私にとってなんなんのだろう。

40数年前、九州の高校を終えた私は、何が何でも東京に出なくっちゃ、
と思って、とにかく東京に出てきた。

高校が工業系だったので、電子部品を作る、大田区の一応東証一部上場企業の
会社に就職。技術課に配属された。
40数年前の今頃。私は花のOLだった(笑)。
母が工面して買ってくれた、渋い良い色合いの金茶色のスーツや、綺麗な赤紫色の
ツーピースなどを着て、歌にもなったあの『池上線』に乗って通勤していた。
髪は短くして、いまよりほっぺたなどもふっくらとして。
お昼時になると、技術職などデスクワークの社員も、工場の方の社員も、
一斉に大きな社員食堂へ。
食事が終わると、芝生の上で、お定まりのバレーボールを課の人々と(笑)。

住まいは、田無というところ。東京の西の方にあるので、今は西東京市、と
名前が変わっている。大田区からはずいぶん遠い。
なぜそのような遠くに住んだか、というと、次姉が結婚してそこに住んでいたから。
やくざな気質の次姉はあてにできないと知りつつ、やはりあてにして、
一緒に住ませてもらったのである。

義兄は穏やかないい人だった。2歳になったばかりの男の子を目の中に入れても
痛くない、というほど可愛がっていた。
それなのに、姉と義兄は、私が行って一か月もしないうちに離婚。
夫婦間のことは余人にはわからないけれど、どうしてあんないい義兄さんと
別れたいというのか、若い私にはまったく姉の気持ちが理解できなかった。
私が行く前から、夫婦間は揉めていたのだろうが、私が同居したことが
その時期を早めたようで、やさしい義兄になにかすまない気がした。

義兄は会社を辞めて九州に帰り、姉と私と小さな甥が東京に残った。

そこからさあ、糸の切れた凧のような姉は、本来のやくざな性格丸出し。
私と子供を連れて、転々。

この姉といっしょにいては、自分の生活もだめになると思った私は、
一人で小さなアパートを借りて、一人暮らしを始めた。
3畳一間の小さな私の城。
そして、梅雨がもうすぐ始まるという、ちょうど本当に今頃の季節だったな。
私は、大学へ行く勉強をするために会社を辞めた。

そこから先は長くなるので話しません(笑)。

それから約半世紀。
いま、私は、東京と言っても、都心に出るのに小一時間もかかるようなところに
住んでいる。『花の都』に住んでいる、という実感は全くない。

ああ。東京って、私にとってなんだったのかな。

私にはそんな人はいなかったけれど(本当?)、これからご紹介する歌のように、
付き合っていた男性(ひと)のもとを去って、ひとり東京に出てきた女性(ひと)は
たくさんいただろうな。逆に、付き合っている女性(ひと)をこころならずもあとに残して、
東京に出てきた男性(ひと)もたくさんいただろうな。
残された者にとって、東京は、遠い憧れの街、愛する人の住む、
その名を耳にするさえせつない『花の都』だったんだろうな。
また、残して来た者にとっても、生きていくのにせつない街東京、だったんだろうな。

なんでこんなことを思い出したか、というと、会社を辞めたのがちょうど
季節が今頃であったし、ある映画を見たから。
『ボッカチオ’70』という、オムニバス映画。
60年代に作られた映画だが、当時を代表する名監督デ・シーカやフェリーニ、
ヴィスコンティ、モニチェッリが競作している。
その中に、会社が終わってわ~っと大勢の労働者が出てくるシーンがあって、
その空気感が、まったく私が勤めていた頃のことを思い出させたからである。
普段、たった2カ月しかいなかった会社のことなど思い出しもしないのに、
ふと珍しく懐かしくなったのである。
何しろあそこで私の『東京』は始まったのだったから。

ああ。『東京』…。
住んでいながら、私には遠い街である。

こんな歌、お送りします。
これは、さかごろうさんの記事のトラックバックと言えるかもしれません。

さかごろうさん。いきなりずっと前の記事http://fairground.blog78.fc2.com/blog-entry-908.html
の利用させていただきますが、ごめんなさい。


それでは、歌をどうぞ。
http://www.youtube.com/watch?v=LPoiY0jlyWE


東京タワー…。
この映像に出てくるけれど、いくらスカイなんとかが出来ても、
私には、東京はやはり東京タワーだ。

私は東京タワーを愛し続ける…。
『東京』をいつもちょっぴり複雑な想いで見つめる…。

だって、私は『東京』に恋して失恋したから。
そうして、いまもなお、『東京』に恋し続けている気がするから。

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プロフィール

彼岸花さん

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『しだかれて十薬忿怒の息吐けり』

『南亭雑記』の南亭師から頂戴した句。このブログになんともぴったりな句と思い、使わせていただきます。
十薬とはどくだみのこと。どくだみは踏みしだかれると
鮮烈な香りを発します。その青い香りは、さながら虐げられた若者の体から発する忿怒と抗議のエネルギーのよう。
暑い季節には、この強い歌を入口に掲げて、私も一民衆としての想いを熱く語りましょう。

そして季節は秋。
一足早いけれども、同じく南亭師からいただいた、この冬の句も掲げておきましょう。

『埋火に理不尽を焼べどくだみ荘』

埋火(うずみび)は、寝る前に囲炉裏や火鉢の燠火に灰をかぶせて火が消えてしまわぬようにしておいた炭火などのこと。翌朝またこの小さな火を掻き立てて新たな炭をくべ、朝餉の支度にかかるのです…

ペシャワール会
http://www1a.biglobe.ne.jp/peshawar/pekai/signup.html
国境なき医師団
http://www.msf.or.jp/donate/?grid=header02
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