『たっちゃん』 バイオリンその③

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             この楽譜はヴィターリの『シャコンヌ』のもの。
             記事に書いた曲の楽譜がちょっと見つかりませんでした。




娘が3歳からバイオリンを習い始めた、ということを、2つ前の記事で書いた。
先生は音大を出たての、若い男の先生。
娘はその先生になついて、また彼も本当にかわいがってくれた。
この前、検索でお名前をひいてみたら、まだまだご活躍の様子。
音信が途絶えて久しいが、それを知って嬉しかった。

その先生は、私たちの住む団地と、ご自分の実家の2か所で教室を開いていた。
年一回の発表会の時期になると、その2教室合同で練習することになっていて、
娘も先生のご実家の方の教室に伺っていた。

そこで一緒になっていた生徒たちの中に、たっちゃん(仮名)という男の子がいた。
たっちゃんは娘と同じ3歳。もう一人3歳の男の子がいて、大勢の生徒たちの中で
その3人が際だって小ささが目立っていた。
年に数回会うだけなので、特に仲良くなったというわけではなかったけれど、
発表会の『きらきら星』などを並んで弾いたりしていたので、
お互いの中に、その姿ははっきり記憶されていたことと思う。

娘が小学校一年生の時、先生が引っ越しをされ、やむなく娘は別の先生につくことになった。
たっちゃんとは、都合3年間くらい、発表会の度に会っていたのかな。
でも、先生が変わって、たっちゃんともそれっきり。
眉毛の濃い、目のくるっとした可愛い男の子だったが…。

前にも話したように、小学校5年生くらいで娘の興味は絵の方にうつり、
バイオリンのお稽古は先細り。ついに中二で止めてしまった。
バイオリンは手すさびに弾くくらいになってしまって、高校2年からは
本格的に美大受験のための塾に通うようになった娘。


ところが、その絵画塾で、娘はたっちゃんと再会するのである!
たっちゃんもいつかバイオリンはやめて、絵の道を選んでいたのである。
最初は二人とも、お互いのことに気づかなかったらしい。
ただ仲良くなって、たっちゃんの名が娘の話の中に時々出てくる。
気づいたのは私である。
その姓名を聞いて、「あれ?昔バイオリン教室で一緒だった子が
確か同じ名だったんじゃないかな?」
そう思って、翌日娘に塾で確かめさせた。

やっぱりその青年は、あの時のたっちゃんだった!
二人がさらに仲良くなったことは言うまでもない。
東京の、市部に私たちは住んでいるが、たっちゃんは3つも4つも離れた市の住人。
絵の大学だって、東京には美大だけで5つもある。
ましてそれらを受験するための絵画塾は、本当に20,30ではきかないだろう。
その中で、どうしてこの幼馴染の二人が偶然にも、同じ塾に通うことになっただろう!

私はたっちゃんとの何か深い縁を感じて、たっちゃんのことが何やら可愛く思え、
娘がたっちゃんと恋人同士にならないかな、とひそかに思っていた。
勿論私がたっちゃんと会うことはない。ただ写真で見るだけ。
娘の話からすると、本当に性格のいい、さわやかなやさしい男の子に育っているようだった。
塾のクリスマス会。大勢の高校生の男女が楽しそうに写真に写っている。
その中で、二人並んで踊っているたっちゃんと娘の姿も!
娘は踊りながら、例のごとく弾けるように笑っていて、その横に
たっちゃんの朗らかな笑顔の、長い脚の若い姿が…。


たっちゃんと娘はどうなっただろうか?

良い友達のままだった。

小さい頃に出会った二人。親しさはあっという間に深さを増して、塾で二人は
とても仲が良かった。でも、そこまで。
たっちゃんはどうだったか知らないのだが、娘にはその頃別に好きな人がいて、
二人は十人ほどの仲良しグループの、その中でも双子の兄妹のように仲のいい
二人のままで終わった。

娘はたっちゃんとはその後、違う大学に行った。
それでも、しばらくの間、連絡はしあっていたようである。
娘の大学仲間の集まりにたっちゃんが顔を出している写真がある。
塾の仲間もその中にはいたし。
たっちゃんが娘の誕生日か何かに書いて送ってくれた
手綴じの自作詩集のようなものが今も家のどこかにしまってある。
娘はそういうことに大雑把でドライだが、私が大事にとっておいてあるのである。

たっちゃん。
優しそうないい子だったが…。

人間の縁というものはつくづく不思議だと思ってしまう。
この広い東京。市部だけで言ったって、私の住む市はそこだけで人口数十万である。
たっちゃんの市はやや少ないがそれでも同じくらいはいる。
その間の市を考えると、200万人以上はいるだろう。
塾で出会う可能性のある区部や市部を考えれば、500万人はいるかもしれない。
そこで幼いころに出会って、何かの縁に結ばれたように、10余年後に偶然出会った二人。

それでも縁はほどけていく……。
たっちゃんが何をしているか、今ではもうまったくわからない。

ひとはどうして偶然出会い、そうしてまたいつか、別れていくのであろうか。
結ぼれる縁と、ほどけてしまう縁は、どこにその違いがあったのだろうか…。


大小2挺のバイオリンを見ながら、そんな、人間のえにしの不思議さに
想いをいたす、静かな春の宵、でした。



娘が、中学1年の時の発表会で弾いた曲。バッハの『二つのバイオリンのための協奏曲』を
お送りします。一緒に弾いたのは勿論たっちゃんではなく、違う先生のもと、
別な男の子と弾きました。
動画の演奏はなんと、ユーディ・メニューインとダヴィッド・オイストラフ。
伝説のバイオリニスト二人によるものです。


http://www.youtube.com/watch?v=i2dNQH-PXps


この2つのバイオリンの旋律のように、ひととひとの運命が絡み合って、
ときには離れて、また寄り添って、このように美しい音楽を
この世に紡ぎだせるといいのになあ、と考えてしまいます。
動画が長くて、しかも演奏途中で切れていますがあしからず。

なお、楽譜を載せた、ヴィターリの『シャコンヌ』をお聴きになりたい方は
こちらをどうぞ。演奏は、これも20世紀を代表する巨匠ヤッシャ・ハイフェッツ。
http://www.youtube.com/watch?v=pnEaVdIwYzE


お若い方はご存じないと思うので、
ユーディ・メニューインについてはこちら。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A6%E3%83%BC%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%BB%E3%83%A1%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%A4%E3%83%B3
ダヴィッド・オイストラフについてはこちらを。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%80%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%83%E3%83%89%E3%83%BB%E3%82%AA%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%95

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Re: ららさんへ

ららさんのお母さまのご家庭は、本当にバイオリン一家でいらしたんですね。ジュリアードで学ばれて演奏家になられた叔母様…。従兄弟さまも叔父様も…。すごいです。
ららさんの体の中にはそれではバイオリンの音色が染みついていても不思議はないですね。
小さい頃から、チゴイネルワイゼンや、3大バイオリンコンチェルト、バッハ…
いろいろなものをお聴きになって育たれたんですね。
叔父様がお亡くなりになられたとか。心からお悔やみ申し上げます。
偶然とはいえ、この記事をアップしてららさんが見てくださってよかった。

メニューインやオイストラフと言えば、20世紀のバイオリニストの神様のような
ひとたち。その演奏が画像であるなんて、と私もびっくりしました。
すごい掛け合いでしょう。
2つの旋律が、溶け合って、競って、追いかけっこをして、また溶け合って。
記事を書きながら何回もこの競演を聴いて、私もじ~んとしていました。
鳥肌がたつようでさえありました。この二人の共演を聴けたこと。
そして、聞きながら、人の出会いとその別れ…
溶け合って、追いかけっこをして、結ばれてまた糸が切れて…
そういう人の出会いや別れ。えにしの不思議さ、愛しさをなぜかしみじみ感じました。

ほんとね。ららさんとよく同じ想いになることがありますよね。
これも何かのご縁、ということでしょうか。不思議です。
喜んでいただけて嬉しいです。


No title

ヴァイオリンの記事を読ませていただいて、たくさんのことがいっぺんに懐かしく思い浮かんできました。とても不思議なのですが、彼岸花さんの記事はほんとうに昔の思い出と重なるのです。

母の妹はヴァイオリンニスとでジュリアード出た後アメリカに永住、もうひとりの叔母の子ども、従兄弟もアメリカで生まれてヴァイオリンで世界を演奏旅行していたり、今母の実家にいる叔父も都民交響楽団でヴァイオリンを弾いてました。
中野の母の実家はいつもヴァイオリンの音が響いていた記憶があります。母の一番好きだった曲はチゴイネルワイゼン。バイオリンの曲です。ららはバッハのヴァイオリンの曲が好きで、その音色に随分心を救われました。上の協奏曲、聴いて涙が出ました。
そして、人と人の交わった心がどうしていつの間にか離れてしまうのか・・・時の流れの必然が切ないです。
感傷的になっているのはもうひとりの叔父が一週間前に他界したせいなのか・・・
切ないのか懐かしいのかバイオリンの音色が美しいのか
その入り混ざったような感動でした。ありがとうございました。
プロフィール

彼岸花さん

Author:彼岸花さん
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『しだかれて十薬忿怒の息吐けり』

『南亭雑記』の南亭師から頂戴した句。このブログになんともぴったりな句と思い、使わせていただきます。
十薬とはどくだみのこと。どくだみは踏みしだかれると
鮮烈な香りを発します。その青い香りは、さながら虐げられた若者の体から発する忿怒と抗議のエネルギーのよう。
暑い季節には、この強い歌を入口に掲げて、私も一民衆としての想いを熱く語りましょう。

そして季節は秋。
一足早いけれども、同じく南亭師からいただいた、この冬の句も掲げておきましょう。

『埋火に理不尽を焼べどくだみ荘』

埋火(うずみび)は、寝る前に囲炉裏や火鉢の燠火に灰をかぶせて火が消えてしまわぬようにしておいた炭火などのこと。翌朝またこの小さな火を掻き立てて新たな炭をくべ、朝餉の支度にかかるのです…

ペシャワール会
http://www1a.biglobe.ne.jp/peshawar/pekai/signup.html
国境なき医師団
http://www.msf.or.jp/donate/?grid=header02
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