『余情というもの 其の二 』  「愛しき(かなしき)もの」その四 


『余情』ということでもう少し話してみたい。

前の記事で、訪問者の目の前でドアをすぐに閉めてしまうことは
余情がない、と書いた。

同じような感覚で、私はまた、夕暮れになると早々と雨戸やカーテンを
ひいてしまうこともあまり好きでない。
我が家の周りは、根っからの地元の人が多く住みついているせいか、
そういう構造の家が多いからか、夕方5時になると、
家々が一斉にガラガラピッシャーン!と大きな音をたてて雨戸をたてはじめる。
夏の夕方の5時と言えば、まだ明るい。
それなのに、雨戸をたてて、人々は暗い家に閉じこもるのである。
薄暗くなった部屋に早くから電気をともして、人々は何を語らうのであろうか。

私は、だんだん暗くなっていく部屋で本を読んだり縫い物をしたりするのが好きである。
日が西に傾き、だんだん部屋の中も影が濃くなっていって、
いよいよ作業ができにくくなる、というまで、灯りはなるべくともしたくない。
刻々と色を変えていく空を窓から見ていたいと思う。

大失敗だったのは、数年前に障子からカーテンに替えたこと。
上下の部屋を合わせると、我が家には12枚の障子がかつてあった。
毎年張り替えをしていたわけではないが、それでも2年に一度くらいは
年の暮れに12枚の障子の張り替えをしていた。
これが一人でやると結構大変な作業なのである。

そこでついに業を煮やして数年前、全部をカーテンに替えてしまった。
そこで発生したこと。障子越しに日が暮れる、夜が明けるというのを
感じるのは、なかなかに余韻のあるものであったのだが、
カーテンにはその余韻が乏しいのである。
レースのカーテンなら、同じことじゃないか、と思われるかもしれないが、
これが微妙に違うのである。
レースのカーテンは光を吸収しないが、障子は夕暮れの弱くなった外の明かりも
吸収して、それを部屋全体に柔らかく分散する。
そのおぼろげな明るさの中にいるのは、まるで静かな水底に
休んでいるようで、なかなかにいいものであった。

また、眠れぬ夜、明け方までラジオを聞いて、夜が白々と明けていくのを
見ている朝もある。
まだ外は暗い、4時20分。
ヒヨドリが、キキッと遠くで第一声を発する。鳴きながらだんだん近づいてくる。
冬でもほぼ同じ時間帯である。
そのうちだんだん辺りが明るくなっていくと、雀が数羽、窓のすぐ外の
雨戸のあたりで、チッ、チチッ、と低く鳴き交わし始める。
眠れぬままに明るくなっていく障子に目をやっていると、朝日が隣家の建物の間から
斜めにあたるようになり、そこを、鳥影がさっと鮮やかにかすめて過ぎるのが
見えたりする。
やがて8時半頃になると、庭の木蓮の枝あたりで、鳩が眠たげな声を
上げるようになる。
これらを皆、一枚の紙越しに見聞きするというところが、障子という建具。
なかなかに余情を醸す、いいものであったのだが、
う~ん。勿体ないことをしてしまったかもしれない。
カーテンも、材質を選べば障子と同じ効果を持つものもあるかもしれないのだが。

まあ、私などがこんな風につたないことを書き散らすまでもなく、
日本の建物や事物の陰影の美しさについては、文豪谷崎潤一郎が
「陰翳礼讃」という本で見事に書いてくれているので、
興味のある方はどうぞ。

私がもう一つ、これこそ「余情の美」だなあ、と思うのは、
季節は過ぎてしまったが、あの、線香花火である。
燃え尽きてもう落ちそうなのだが落ちないでいる小さな火の玉から、
静かに流れ出続ける、細い柳のようなかすかなほのお。




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『しだかれて十薬忿怒の息吐けり』

『南亭雑記』の南亭師から頂戴した句。このブログになんともぴったりな句と思い、使わせていただきます。
十薬とはどくだみのこと。どくだみは踏みしだかれると
鮮烈な香りを発します。その青い香りは、さながら虐げられた若者の体から発する忿怒と抗議のエネルギーのよう。
暑い季節には、この強い歌を入口に掲げて、私も一民衆としての想いを熱く語りましょう。

そして季節は秋。
一足早いけれども、同じく南亭師からいただいた、この冬の句も掲げておきましょう。

『埋火に理不尽を焼べどくだみ荘』

埋火(うずみび)は、寝る前に囲炉裏や火鉢の燠火に灰をかぶせて火が消えてしまわぬようにしておいた炭火などのこと。翌朝またこの小さな火を掻き立てて新たな炭をくべ、朝餉の支度にかかるのです…

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