『一人で映画もまた楽し』


この頃、一人で映画に行くことを覚えた。
…まだ3回ぽっきりだけど。

観たもの?
『This Is It』と『アバター』と(笑)。
最近観に行ったのは、古いモノクロ映画で、『鉄道員』。

若い皆さんは勿論ご存じないでしょう。
1956年のイタリア映画。
製作カルロ・ポンティ
監督・主演ピエトロ・ジェルミ
音楽カルロ・ルスティケリ。

映画を見たことのない方でも、テーマ曲はどこかで聞いたことがあるかも。
http://www.youtube.com/watch?v=1QhnSON63_U


頑固一徹で酒飲みの父親をピエトロ・ジェルミが自ら演じる。
50歳のマルコッチは鉄道の機関士。
彼は自分の家庭が崩壊しかかっているのに気付かない。
長男は働かず、長女は、妊娠して仕方なしに結婚しては貰うものの夫との間は
うまくいっていない。
ただ一つ希望だった赤ん坊は死産してしまい、若い夫婦は
さらに心が離れてしまう。満たされない彼女は昔の男友達と不倫。

それを知った父親は彼女を打擲。娘も止めに入った長男も家を出ていってしまう。
残されたのは、マルコッチと、辛抱強い妻と幼い末っ子サンドロだけ。

家長のマルコッチ自身も、自らが列車の操縦しているときに飛び込み自殺の
男を轢いてしまう。列車を再び動きださせるも、茫然としていたマルコッチは、
駅で赤信号を見落とし、あわや別の列車と正面衝突という
不始末を起こしてしまう。彼は厳しい取り調べの末、機関士の職からはずされてしまう。

おりしも、鉄道会社の労働組合は、待遇改善を求めて全面ストライキに入っている。
愛する仕事を奪われ収入も少なくなっていたマルコッチは、スト破りをしてしまう。
ストは成功。喜びに沸きかえる労働者たち。
だが、マルコッチは、『スト破り』として、もう仲間には入れてもらえない。
酒におぼれ、家にも帰らないマルコッチ・・・。

イタリアンリアリズムの名作と言われる映画。
これでもかこれでもか、というくらい、次から次に、マルコッチの一家には
悪いことが次々に起こる。
映画は幼いサンドロの視点で描かれる。

最後は、崩壊しかかったこの一家が再び、クリスマスの夜に
皆集まって…、というところで、父マルコッチは亡くなってしまうのだが、
救いはあるものの、まあ、何とも暗いテーマの映画である。

今のひとが観るとどうなのかな。あまりにも、型どおりの不幸で単純すぎるように
思うかな。私も、久しぶりに劇場で見ていて、最初のうち、そう思った。
でもやはり、いつの間にか涙が頬を伝っていた… 。

考えてみれば、派遣切りの嵐の吹き荒れていた昨年、一昨年。
正社員でも突然失職 、という悪夢が現実であった日本。
今だって、景気は完全に回復しているわけではなく、『鉄道員』のこの一家と
同じような悲劇を経験した家庭もたくさんあったのでは。

でも、何かが決定的に違うのだな。
一つは、映画の作られた1956年ころは、まだ皆が貧しかったということだ。
今は、一部生活に苦しむ人がいるとは言っても、全体としての生活のレベルは
昔と圧倒的に違う。

いま一つは、だからこそ、今の貧困には救いがないということだろう。
皆が貧しかったころ。そこには人の助け合いや共感という人情が溢れていた。
映画は救いのない状況を描き出していても、そこにはこの人情の温かみが
濃く流れて、見るものはそれにどっぷり浸かって涙を流せるのである。
今の貧困には、そういうウェットなところがない。
人の視線は乾いている。
『自己責任』などという冷たい言葉がまかり通って、何か人のこころは
殺伐と乾いて来てしまっている。

そう思ってしまうのだがどうだろうか。

と言っても私が昔に帰りたい、というわけではない。
末っ子のサンドロはちょうど私と同い年くらいである。
私も、職のない兄が自棄酒を飲んで暴れたり、姉が恋破れて子供を堕胎するのなどを
幼い目で見てきた。兄が金を得るために、血を売って来た日のことなども。

映画は甘く悲しく悲惨を描く。でも、現実の悲惨は、決して美しいものなどではなかったな。

それでも不思議。やはりいい映画はいいのである。
滴るような親子の情愛。隣人たちの温かさ…
音楽が何しろ魂を揺さぶる。
そうしてサンドロのけがれなき目の美しさ。

長女役を演じたのは、シルヴァ・コシナ。
グレース・ケリーやエヴァ・ガードナーなどとは違う、親しみやすい美貌かな。
でも、そう役に恵まれた女優さんというわけではなかったような。
時代のお色気路線に飲み込まれてしまった感がある。
知的な顔立ちの、演技もうまい女優さんであったと思うが、残念なことである。



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さて。次の一人映画は、何を観るのかな…。
まだわかりません。
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ジャンル : 学問・文化・芸術

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Re: 依里さんへ

絵はね、ただ、見てそっくりに写すのは昔からよくいたずら書きしてたの。
でも、自分の独創性などというものはちっともありません(笑)。
だから、褒められたりすると恥ずかしいです。
ただ、なんとなく最近また描きたくなったの。

映画。学生の頃一人で行かれてたんですね。
私ももっと若いころから、そうすることを覚えてたらよかったなあ。

この『鉄道員』は、本当に次から次に不幸が一家を襲うんですけど、
でも、冷たくはないの。一家が根本のところでお互いを愛し合っているからです。
愛情が強いがゆえに行き違いがおこってしまう。

それに、友人知人たちがやはり根本のところで温かく描かれています。
人間の善性にまだ希望を抱いていた時代、という気がします。

今は無関心。あるいは関心を持っていることを隠そうとしますね。
もたれたくもない、というふりをする。
ふりをしているうちに、それが習い性になってしまいつつあるのでしょうか。
いずれにしても寂しいことです。

トラックバック、ぜひどうぞ。明日また読みに伺いますね~。
ありがとう。

> 悪い事が立て続けに起こるストーリー、私には何だかリアル感伴って感じられそうな気がします。大した経験もないのにも関わらず。。。
> 私は情緒的発達が遅れたものの、自分自身は苦労をしていないと思います。
> 大変な事はやはり経済的な事や、人間の尊厳に関わる事であるように思います。
>
> 今の時代、様々なものが豊富ですが、気持ちが欠けているのは分かる気がします。
> 私が十代の頃は、ちょうど校内暴力が沈静化し始め、普通に見える子らがいろいろ問題を起こし始めた時代でした。
> 誰もが感情のないガラス玉のような目をしていて、互いの腹の内を疑っている。その当時も今も、それが常であるように思います。
>
> この記事にトラバ申請しました。
> 全く関係のない話ですが、映画鑑賞繋がりで・・・。

No title

いつも思いますが、絵がお上手ですね。
絵と音楽の才能を持つというのは、本当に憧れます。

さて、一人映画鑑賞ですが、私は二十歳前後、よく一人鑑賞していました。授業に出るまでの間や、出た後の中途半端な時間に。。。
今は二人でする事が多く、不思議な感じがします。

悪い事が立て続けに起こるストーリー、私には何だかリアル感伴って感じられそうな気がします。大した経験もないのにも関わらず。。。
私は情緒的発達が遅れたものの、自分自身は苦労をしていないと思います。
大変な事はやはり経済的な事や、人間の尊厳に関わる事であるように思います。

今の時代、様々なものが豊富ですが、気持ちが欠けているのは分かる気がします。
私が十代の頃は、ちょうど校内暴力が沈静化し始め、普通に見える子らがいろいろ問題を起こし始めた時代でした。
誰もが感情のないガラス玉のような目をしていて、互いの腹の内を疑っている。その当時も今も、それが常であるように思います。

この記事にトラバ申請しました。
全く関係のない話ですが、映画鑑賞繋がりで・・・。

Re: asobo さんへ

asobo さんも、シルヴァ・コシナお好きでいらっしゃるんですか!
すごく嬉しいです。
遠くまで列車に乗って観にいらっしゃるほどお好きでいらしたんですね。
下手くそな絵でもアップしてよかった!(笑)

実は、シルヴァ・コシナを見ると、私はいつも次姉のことを想うのです。
勿論こんなに綺麗なひとではとてもとてもありませんけれど、
なんとなく、顔の肉付き、といいますか、あごのきゅっと締まった感じとか、
鼻から頬骨にかけての、中高な顔の造作と言いますか、
感じがなんとなく姉を想わせるのです。

そうして、この『鉄道員』で彼女が演じた役どころ。
ジュリアの生き方も姉を想わせて。
姉の方がもっとやくざでしたけど(笑)。
でも、私と次姉の歳の差の感じなども、ちょうどこのサンドロとジュリアと
同じくらいでしたし。
幼い日の私もいつも、このサンドリーノと同じような憧れと悲しい目で、
綺麗な姉のことをみつめていた気がします。

劇場で見るのと、テレビの小さな画面で見るのとはやはり大違いですね。
ここにアップしたYou Tubeの音が、割と映画館での音を
よく出していて、それを聴くと、一週間ほど前、『鉄道員』を
劇場で見た時の感覚をまざまざと思い出して、また、行きたくなってしまいます。

いい映画たくさんたくさんあるのに、それらを皆リバイバル上映
してくれないかなあ、と思ってしまいます。

ありがとうございました。


No title

シルヴァ・コシナはぼくが心から愛した女優のひとり。
幼い頃から彼女が出ている映画があれば、遠くの街まで列車に乗って見に行っていました。
かつてはリバイバルといって古い映画を見る機会が結構ありましたね。
昔ほどではないけど、最近また古い映画お見る機会が増えてうれしいですね。
映画はやっぱり映画館で見てこそ、って木がします。
プロフィール

彼岸花さん

Author:彼岸花さん
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『しだかれて十薬忿怒の息吐けり』

『南亭雑記』の南亭師から頂戴した句。このブログになんともぴったりな句と思い、使わせていただきます。
十薬とはどくだみのこと。どくだみは踏みしだかれると
鮮烈な香りを発します。その青い香りは、さながら虐げられた若者の体から発する忿怒と抗議のエネルギーのよう。
暑い季節には、この強い歌を入口に掲げて、私も一民衆としての想いを熱く語りましょう。

そして季節は秋。
一足早いけれども、同じく南亭師からいただいた、この冬の句も掲げておきましょう。

『埋火に理不尽を焼べどくだみ荘』

埋火(うずみび)は、寝る前に囲炉裏や火鉢の燠火に灰をかぶせて火が消えてしまわぬようにしておいた炭火などのこと。翌朝またこの小さな火を掻き立てて新たな炭をくべ、朝餉の支度にかかるのです…

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