『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』 まれびと 其の一

想いをうまく伝えたくて、何回か筆を入れて書きなおしています。
音楽、静かな夜にイヤホーンなどつけてお聴きになってみてくださると嬉しいです。
若い方にはどう響くのかなあ。




キューバ革命前夜の頃を舞台にした映画を、立て続けに3本見た。
団塊の世代に属し、学生運動などを肌で感じ取って来た私には、
フィデル・カストロ、チェ・ゲバラなどという名前と、キューバ革命という言葉は、
やはり懐かしさ以上のある種の憧れと痛みを感じずにはいられないものである。
映画は、革命側の視線で描かれたもの、というよりは、
革命前のバティスタ政権下で、うまい汁を吸っていたマフィア組織や
ハバナの熱く燃える夜の雰囲気を描いたものである。
革命前の不穏な時代の空気と、夜の世界で生きる者の非情な掟とがあいまって、
どれもどこか甘く切ないすてきな映画だった。

もっとキューバに関する映画や音楽を知りたい、と思って検索などしていると、
ある映画にぶつかった。

『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』

この映画はアメリカのギタリスト、ライ・クーダーが
たまたま耳にしたキューバの老ミュージシャンたちの音楽に惚れ込んだことから始まる。
彼はつてを辿ってそれらの老人たちを一人一人探し出す。
もうとっくの昔に現役をやめてしまった者、細々と演奏を続けていた者…
いずれにしても、彼らの多くは世間から忘れ去られていた。

その彼らが、旅人ライ・クーダーの眼にとまったことによって、
再び、ミュージシャンとして集結。ライ・クーダーとのセッションが実現する。
それをきっかけに吹きこまれたレコードは1997年のグラミー賞部門賞を受賞。
アルバム名は、これらの老ミュージシャンたちの多くが1940年代キューバにあった
音楽クラブの会員であったこと、
ハバナに『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』というダンス・クラブが
実際にあって、そこで演奏されていた古き良きキューバ音楽を再現しよう、
という、その目的に由来している。
その一連の出来事をヴィム・ベンダースが監督した映画が、1999年の、この
『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』である。
一種のロードムービー。

映画は、カストロとチェ・ゲバラの思い出の写真から始まリ、
ミュージシャンの一人、ギタリストのコンパイ・セグンドがブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブの
跡地を探すシーンに続く。まあ、このコンパイ・セグンドが
年をとっていても粋なこと!
ライ・クーダーが再びキューバを訪れて、イブライム・フェレールの歌を録音する。
アムステルダムでの感動のコンサートシーン。
世間からほぼ忘れ去られた老ミュージシャンたちが、
どういう音楽人生を辿ってきたかが、そのあと一人一人、簡単に紹介されていく。
ストーリーらしきものは何もない。
ただ、簡単な彼らの独白と、演奏シーンなどだけ。
でも、一人一人の顔と演奏が素晴らしいのだ。
長い長い人生を生き抜いた、その歴史の刻み込まれた顔。顔。
70歳,80歳という高齢のミュージシャンたちとライ・クーダーが、
最後にカーネギー・ホールでのコンサートを実現させるそのシーンまで、
全編を通じて、古典的伝統キューバ音楽が流れ続ける、いわば音楽映画である。
でも、退屈しない。深い深い映画。

…と、知ったような口をきいているが、私自身、今回初めてそれらのすべてを
知ったわけで。
でも、このアルバムと映画は、知る人ぞ知る、名アルバム、そして映画音楽の名作なのである。
私がただ知らなくてこれまで来て、今回初めて知って、感激してこれを書いているだけなのだが
それでも、もう一度取り上げてご紹介する価値はあるだろうと思う。

何に感激したか、というと、そのキューバ音楽の演奏の素晴らしさにも
勿論感激したのだが、何よりも、人の人生の味わいというか、
「ああ、人生ってなんと奥深くて面白いものなのだろう!』というそのことに
感動した気がするのである。

民俗学の考えに『まれびと』というものがある。
柳田國男や折口信夫が折に触れこれについて書いているが、
『稀人』というのは、山に生まれ山に生きた『山民』、農業などを営んで
里に定着した『常民』に対し、士農工商の身分制度から離れて生きていた
『辺界の人々』、旅に生き旅に死んでいく遊行の民のことを言う。

元旦に門付けをして歩く万歳、獅子舞など、神事を司る遊行の人々。
まれびとは、土地にしばりつけられ自らは動くことの少ない常民のところに、
神の代理人として、あるときにふらりと訪れる。
常民にとって、まれびとの訪れは、一生に数度、あるいは一生に一回しかないかもしれない
稀な出会い、稀な奇跡の日である。

私は、これらの老ミュージシャンにとって、ライ・クーダーは、
まさにこの『まれびと』のようなものであったのではないかと思うのだ。
かつてキューバがアメリカの強烈な影響下にあった頃。
華やかなダンス音楽が流れ、人々が正装して群れ集い、カジノで遊び、
酒を飲む。裏で暗躍するマフィアも。
そんな時代のハバナのダンスクラブ『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』。
その頃名演奏をしていたミュージシャンたちも、今は歳をとり、
思いだしてくれる人もほとんどいなくなっている。
・・・そこに、まさにまれびとのように、ライ・クーダーという神が訪れ、
彼ら老人たちを発掘し、再び明るい陽のあたる場所にひきだし、
なんとカーネギーホールでの演奏、というところにまで連れていってくれるのである。
ボーカルの中心メンバーとして全編を通じ、出演するイブライム・フェレールという
失礼ながら、一見あまりハンサムとは言えない(でも、彼はほんとにいい顔をしているのです)
だが素晴らしい表現者である老人が、
カーネギーホールでの演奏を前にして(?)夜のニューヨークを歩く。
華やかにネオン輝く夜のマンハッタン。
ライ・クーダーに見出される前、彼は音楽もやめて靴磨き職人をしていたという。
彼にとっては、一生夢に見た街、遠い遠い手の届かぬ憧れの街である。
そこを、なんと自分が実際に歩いている。
カーネギーホールでのコンサート!この自分が!
…その信じられないような奇跡!

そこでの演奏を最後として、老齢のため亡くなっていく者も出、
このメンバーでの『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』は事実上解散するのである。

この人生の不思議なドラマ!
彼らとライ・クーダーの出合いは、ひとつの奇跡。

それにもう私は感動してしまったのである。

長々と書くより、実際に聴いていただきましょう。
これらの音楽を聴きながら、カリブ海の荒い波頭が堤防にぶつかり
高い波しぶきをあげているシーンを思いだすと、キューバに行ったこともないのに
なぜか人生というものの愛しさに泣けてきてしまう私です。
人の人生、ひとつの国の歴史…

『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』のテーマ曲とも言えるこの曲から。
http://www.youtube.com/watch?v=UhHWhRTkVBE

http://www.youtube.com/watch?v=b7huuRDyeQw
二曲目。タイトルの『ベインテ・アニョス』は『二十年』という意味。
あなたに死ぬほど愛されたあの遠い日。20年という歳月がもとに戻って
あなたにまた愛されたら…と、切々と女ごころを歌う。

最後は、映画には使われていないが、カーネギーホールでのコンサート収録曲。
女性ボーカルのオマーラ・ポルトゥオンドの歌唱が素晴らしい。
ピアノのルーべン・ゴンザレスは映画ですでに80歳くらい。
でも、ピアノに向かうと鬼気迫る演奏をしている。

http://www.youtube.com/watch?v=gZbEC5th9ao

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ジャンル : 学問・文化・芸術

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Re: 依里さんへ

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ。

面白い映画、か?というと、そう面白くはないかもしれないんですけど、
人間が生きていくこと…については、何か勇気をもらえる映画だったと思います。
老人たちの皺だらけの顔に刻まれた、それぞれの人生の喜びや悲しみ。
でも、人生、何があるかわかんないよ、こういう奇跡のような出会いもあるよ、
と言っているよう。
何よりも、音楽、というもので結ばれた、ライ・クーダーと老人たち
一人一人の、言葉を越えた交流がいいです。

ぜひ、お友達に借りて、見てくださいね。
私は、ツタヤディスカスという、ネットのお店で借りたの。
でも、手元に置いておきたくなったので、買うことにしました。

キューバはね、実は私も現状はよく知りません。
なんとなくのイメージがあるだけ。
ブエナ・ビスタ…で見るキューバの町並みは、古くなって汚れた感じです。
ニューヨークとは大違い。
でも、別の動画で見たりするキューバは、楽園のように美しい風景。
共産主義のいいところ、悪いところ、旧キューバのいいところ悪いところ、
新キューバのそれ…、何もかもが混然一体となって、
でも音楽を聴けばわかるように、民衆のエネルギーと哀愁とにあふれてる、
そんな国なんじゃないかな、と想像(笑)しています。

本。よんでますよ~。ありがとう~。

No title

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ
共産主義を称賛する知人がいるのですが、その彼がこの映画を一押ししていました。
こうしてあらすじを拝見すると、見てみたくなりますね。
問題は近所にレンタルDVD店がないことです。。。
その知人が持っていたら、借りられるかどうか聞いてみようと思います。

私はキューバの事はよく知らないのですが、キューバ―と言うとやはり“革命”と言うキーワードが思い浮かび、何だか少し憧れてしまう所があります。実際は、そんなに美しいものではないのかもしれませんが。。。
それとあの独特な音楽。西洋の音楽とはまた異なるジャンルで魅力的ですね。どうも私は音楽にも疎いので、これまた彼に聞いてみようかと思っています。

Re: 乙山さんへ

乙山さん、コメントと、リンクのお申し出、ありがとうございます。
どうぞこちらこそよろしくお願いいたします。

『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』
なんだか私だけが知らなかったみたい(笑)。
今日も娘に「キューバの音楽でね」と話し始めたとたんに、
「何、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ?」と出鼻をくじかれ、
「あ、知ってるの?」と訊くと、「CD 持ってるよ。ママにもだいぶ前に
聴かせたじゃない」と笑われてしまいました。

ショック。その時はいいと思わなかったのでしょうか。
でも、音楽も本と同じで、出会った時が、読み時、聴き時なのかもしれません。
音楽に関してまるで幼稚園児のような私。
皆さんにいろいろ教えていただいて少しづつ聴くようになって、
ようやくほんのほんの少し、聴く耳が育ってきた、ということでしょうか。
「永遠のモータウン」。よさそうですね。
と言っても、今さっき調べて知ったばかりなんですけど(笑)。
シュープりームズやテンプテーションズはよく聴いて知っていても、
そのバックで誰がドラムスを叩き、ベースを弾いているか、などと
当時は考えて見ませんでした。
ぜひ見てみますね。

ライ・クーダーもそうですが、音楽が本当に好きで好きでたまらないという
アーテイストを見ていると、こちらも楽しくなってしまいますね。
ブエナ・ビスタ…の老人たちの演奏している時のいい顔!

私ももっともっといろいろ聴いて素晴らしい音楽の世界の一端を
もう少し覗いてみたいです。

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ

こんにちは。
『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』見ましたよ。
これは、と思ってDVDで焼いて保存しているくらいです。
『永遠のモータウン』もDVDに焼いて保存しています。

乙山のまったく知らなかったミュージシャンたちが、
かつて演奏をしていて、
今はほかの生活をしていることに思いを深くしました。

ライ・クーダーってほんとにいい仕事しますよね。
1960年代の終わりからスタジオ・ミュージシャンとして活動しているんです。
ローリング・ストーンズのバックでギターを弾いたりとか。

乙山のウェブログからそちらにリンク張らせていただきますね。
よろしいでしょうか?

Re: HOBOさんへ 

HOBOさん。ありがとうございます。

なんだかこの映像を見てこれらの音楽を聴いたとき、ガツーン!
とノックアウトを食らったような気がしたんです。
音楽や本を人に紹介するとき、「これは私だけの特殊な趣味なのかな?」
とか、「これってもう時代遅れなのかな?」とか、多少自分の選ぶセンスに
不安を持ちつつ出して見ることが多いのですが、
これに関しては、そんなことどうでもいいような気がしました。
素晴らしいから素晴らしい、それだけだって思って。

本当にHOBOさんがおっしゃるように、言葉はいらない、いいわけも説明もいらない、
という感じでした。
『朗読者』は、人に教えていただいて読んだのですが、これも私には
ガツーン!という感じがしました。
何かね、ひとつの作品というのでなく、それが重層的に背負っている何か、を
感じてしまうんです。だから、これはすごい!ということに迷いがなく。

思えば大変に乏しい私の音楽体験ではありますが、やはり何人か、何組かは
そういう思いにさせられるアーティストがいらっしゃいます。
もっともっと自由に音楽を聴いて、そういう好きなものを増やしていけたらいいな、
と、遅ればせながら思っています。

ライ・クーダーも恥ずかしいけれど、この映画を見るまではよく知らずにいました。
でも、ここでの演奏ぶり、そうしてこれらの老ミュージシャンたちと
セッションしている時の楽しげな顔を見ていれば、どんな人か、
本質的なことが見てとれたような気がしています。
きっとデヴィッド・リンドレーという方もそんなひとなのでしょう。
探して見てみますね。
ジャクソン・ブラウン。3月に来日されていた?
この方も私はよく知らないのです(笑)。ただ、ロイ・オービソンの
あるアルバムをこれまた人に教えていただいたとき、ジャクソン・ブラウンを見て、
なんてもの静かそうな控えめな感じのいい人なんだろう!とそれだけで
信じてしまいました。またその時、ブルース・スプリングスティーンも
初めて見て、「あっ!このひともう絶対いい人!」とこれも信じてしまいました。
音楽を心から、子供のように楽しげにやっている笑顔を見てそう思いました。

音楽性についてはよくまだわからないから、顔や雰囲気で。
そうして、どなたかに教えていただいたアーティストのことを別の方が
書いてらっしゃると、「あっ、あっ!あたしその人知ってる~!」(笑)

このように、聴き手としては、私はまだ本当によちよち歩きなのです(笑)。

でも、本質って、音楽経験に関係なく胸に滲み入ってくるものなのではないかと
思うときもあります。
また。いろいろ教えてくださいね。ありがとうございました。
HOBOさんに褒めていただけて嬉しかったです!

やってくれました!

彼岸花さん、
やってくれますね。言葉はいりません。
ライクーダーはそんな人で。
むかしからB級好きの天才アーティストで、日本の質屋で買ったような
エレキのピッアップをフェンダーのギターに自分で加工したり、
チープな音で豊かな表現をするひとですから、ぼくも当然この作品には
泣かされました。もうひとりデビッド•リンドレーもそんな感じのギターリストですが、
このふたりについては言葉にできない世界があります。ただただあこがれます。
エリック•クラプトンのようにアルマーニのスーツを着て女を連れて歩いてもカッコいい、
そんなかっこ良さとは質のちがう『別格』の雰囲気がありますもの。
ぜひ、ジャクソン•ブラウンの横でひたすらサポートに徹しながら重厚な主張をする
デビット•リンドレーのプレイも観てみてください。ライとつながる世界があるはずです。
それにしても、彼岸花さん、センス良すぎです。やってくれます。

それこそ、『朗読者』にしてもそうですが『背景』というものがある物語は、
良い悪いのレベルではないですね。
いやいや、アリガトウございました。


HOBO
プロフィール

彼岸花さん

Author:彼岸花さん
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『しだかれて十薬忿怒の息吐けり』

『南亭雑記』の南亭師から頂戴した句。このブログになんともぴったりな句と思い、使わせていただきます。
十薬とはどくだみのこと。どくだみは踏みしだかれると
鮮烈な香りを発します。その青い香りは、さながら虐げられた若者の体から発する忿怒と抗議のエネルギーのよう。
暑い季節には、この強い歌を入口に掲げて、私も一民衆としての想いを熱く語りましょう。

そして季節は秋。
一足早いけれども、同じく南亭師からいただいた、この冬の句も掲げておきましょう。

『埋火に理不尽を焼べどくだみ荘』

埋火(うずみび)は、寝る前に囲炉裏や火鉢の燠火に灰をかぶせて火が消えてしまわぬようにしておいた炭火などのこと。翌朝またこの小さな火を掻き立てて新たな炭をくべ、朝餉の支度にかかるのです…

ペシャワール会
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国境なき医師団
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