『時を超えて、一人のひとの人生を深く想うということ ② 』

さて。ここからは、また、私らしく『だ、である』体で書いて行こうか。

人間を『ホモ・ルーデンス』(遊ぶ人)と定義した、オランダの歴史学者ホイジンガ。
遊戯が人間活動の本質であり,文化を生み出す根源だとする人間観である。
そう言う観点からすると、①で取り上げたジョルジュ・ペレックなどという作家は、
そうしてE、e という活字を一切使わないフランス語の実験小説のそれを、やはり
E、e という活字を使わずに英語に訳したギルバート・アデアというイギリス人も、
また、日本語の音で一番多い「い」や、いの段の音、き、し、ち、に…などを使わずに
日本語に訳した塩塚秀一郎という人も、なんと壮大な、失礼だが何の役にも立たない
言語的遊戯をしている人々なのであろう!
まさに、『ホモ・ルーデンス(遊ぶ人)』としての人間の、面目躍如の代表みたいな人々である。

実は私が彼等のことを知ることになったのも、ひょんなことからだった。
昨年の5月頃だったろうか、なんのためだったか理由は忘れたが、『日本語に、一番多く
出てくる音ってなんなのだろう』と考えて、検索してみたことがあったのだ。
その結果が、①にも書いたとおり、『い』という音だったわけで。
そのついでに、じゃあ、英語ではなんというアルファベットなのだろう?と思って検索している
過程で、ジョルジュ・ペレックというフランス人作家が、E、eの文字を一切使わず、小説を書いて、
しかも、それを英語に訳したイギリス人がいる!という話にぶつかったのである……

へええっ!面白いなあ!
こういう手の類の遊びが大好きな私は、さらに調べて行くと、①で紹介したサイモン・シン『暗号解読』
に、英文版の方が載っているということを突き止めた。
で、私、買いましたよ~。この『暗号解読』という500ページ近くある分厚い本を。
わずかその1ページを見るために。 …まあ、少しおかず代節約すればいいや、と思って。
この本自体も、暗号の歴史というものから現代の最先端数学、物理学(なんと暗号の世界の
近未来は、量子暗号というものにまで行き着きつつあるそうな!)について縦横に語って、
そういうことに興味のある方には非常に面白い本であるだろう。私はまだ読んでいないが。

愉快だなあ、面白いなあ…
こういう一見無駄かもしれないけれど、人間の遊びごころ全開のこうした知的遊戯が好きな
私は、いつか、ペレックやアデア、そして『暗号解読』の本のことを、暇があったらブログ記事に
してみようと思って、パソコンのお気に入りに入れて保存して、そのままになっていたのである……

                *

ジョルジュ・ペレックの名をふたたび私の記憶の底から呼び戻すきっかけになったのは、
今回、ノーベル文学賞を獲得したのが、フランス人作家パトリック・モディアノだということを知ってからだ!
パトリック・モディアノ。その名を知る人も、その作品を読んだことのある人も、日本では少ないであろう。
しかし、フランスでは、『モディアノ中毒』という言葉があるくらい、熱狂的に好きな人は好き、
という作家である。
私自身は、ある時期から…そう…1980年代くらいかなぁ…そう。ちょうどかの村上春樹や
村上龍などの出て来た頃から、殆ど現代の小説というものを読まなくなって
(ドキュメンタリーなどの方が好きになった)、まして海外の現代作家に手が伸びるということなどもなく、
パトリック・モディアノは、たまたま知り合いに勧められて読んだから知った。

日本版Wikipediaなどで検索しても、

パトリック・モディアノ(Patrick Modiano、1945年7月30日 - )は、フランスのパリ近郊
オー=ド=セーヌ県ブローニュ=ビヤンクール生まれの作家。歌手のマリー・モディアノは娘。
ある人物や自己のアイデンティティなど、何かを探し求めるという作品が多い。
ミステリー的要素を含んだ物語と叙情的な文の運びから、フランスでは「モディアノ中毒」という
言葉があるほど人気が高い。2014年ノーベル文学賞受賞。
フランスで最も権威のある文学賞であるゴンクール賞やアカデミー・フランセーズ賞の
受賞作家としては初のノーベル文学賞受賞者となった。


わずかこれだけでそっけない。
少し大きな本屋でも、モディアノの作品を置いているところは結構少ない。
その作風と主題は、なんというのだろうなあ…自分が生まれる前の両親などの生きていた時代を
ある理由があって探偵のように調べることになる主人公、というのが多い。
過去に生きていた人々が歩いたパリの街などを実際に歩いて辿りながら、現在の自分の
実生活がそこに交錯していく。主人公が現在の生活ですれ違うたくさんの登場人物たちは、
当然、現代にぽっと湧いて生まれた存在ではなく、10年前、20年前、30年前…という
過去の時代を過ごしてきていて、それが、主人公が探索している人物と、ひょっとして偶然、
過去においてその生が交錯したことがあったのではないか、
というようなストーリーが多い。
だが、探し求めるその人物の足跡も、現在において知りあっている生身の人間たちも、
過去にどのような経歴を持っていたのか、どんな毎日を過ごしていたのか、
経済的基盤をどこにおいていた人々なのか、その本名や住所や職業や出自にさえ
疑わしいところなど出てきて、話は、過去に行ったり現代に戻ったりすることと相まって、
甚だ淡くて曖昧な印象なのである。
しかも、探索がテーマでありながら、その探索結果は、ついに明らかにされることのないまま
本は終わってしまう!
くっきりした劇的なものがたり展開を求める人には、なんとも曖昧ではっきりしなくて
イライラするかもしれない…

しかし、読み終えた後に残るいわゆる読後感は、なぜだか極めて淡く綺麗なのである……

                  *

さて。
モディアノがノーベル賞と聞いて、なぜ、私は、パソコンの中に1年前にしまい込んでおいた
ジョルジュ・ペレックのことを思い出したか。
モディアノがノーベル賞貰ったか、へええ…と思いつつ、少しモディアノを検索していたら、
『モディアノとペレック』と二人の名を並べて論じてあるサイトにぶつかった。

「あれ?ジョルジュ・ペレックってどこかで聞いた名前だな…ひょっとして?」と思って、
パソコンの『お気に入り』の中を探しまわって、ジョルジュ・ペレックの名をふたたび
自分のパソコンの中に見出した時はなんだか嬉しかったなあ!
そういう意味では、わたしもまた、一人の人を探しまわる…という、他人にとっては無駄な
遊びを、時間をかけてしていたことになる…。
ペレックのことは、①で書いたように、Eを使わない小説を書いたということ、
回文の当時におけるフランス記録をうちたてたとかいった、実験的手法の作家である
ということ以外は、ユダヤ系で母が収容所でなくなっている、ということ以外、
作品も読んだことないし、ほとんど知らないに等しい私だったが、
「これ、短いけれど、いい書評だよなぁ」と思って、『試験飛行』というこのサイトの
ペレックに関するこの記事を、昨年保存しておいたのだ。
http://d.hatena.ne.jp/seul/20130102/1357145187

私が「ああ、いい書評だなあ!」と思った部分を引用させていただく。

『言語の可能性を追求し続けたといえば聞こえは良いが、この作家は、
言ってみれば、その短い生涯を、なんの役にも立たない言葉遊びに費やしたような感じである。

だが、底抜けに陽気で馬鹿げた『小さな自転車』の中にただようミントのような一抹の悲しさを
感じられる読者、または『隠滅』のなかで、抹殺された「E」の悲痛な声にならない叫び声を
聞き取れる読者には、ペレックが決してイロモノ作家なんかではないことがわかるだろう。
この饒舌な作家の真の魅力とは、行間に漂う、書かれ得なかった、どうしようもない哀しさなのである。


残された孤独な創作ノートには、次のような走り書きを読むことができる。
Je vis dans le cahier.(わたしはこのノートの中で生きている)
幼くして両親を亡くし、文学という檻の中に閉じ込められたペレックは、それでも、これからも、
その作品の中で嬉々として生き続けてゆくだろう。


ね。いい書評だとお思いになりませんか?
ペレックを読んでいないのに、なんだか泣けてくる。

                    *

さて。パトリック・モディアノと、1年前ひょんなことからその名を知ることになったジョルジュ・ペレック。
二人が共にユダヤ系の両親を持つフランス人作家であって、両親たちがあの強制収容所に
入れられるところだった、入れられて亡くなった、という共通の出自を持っている、という
ところから来てもいるのだが、実は『モディアノとペレック』とその名を並べて論じる人がいるほどに、
密接なしかし淡い関わり合いを持つ作家たちだった、ということを知って、私がどんなに感動したか。

長くなるので、再び、ここでいったん切りましょう。③に続きます。




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Re: 鍵コメさんへ

鍵コメさあん!お忙しそうですね~。
がんばりすぎてからだ壊さないようにしてくださいよ~。
ああ、近くだったら手伝えるのになあ……

私もあと少しです。一度風邪をこじらせるとなかなか治らないので困ります。
もうかれこれ一カ月近く…
もう少し辛抱して、ぶりかえさないようおとなしくしていることにします。
ほんとにからだ気をつけてくださいよ。^^

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『しだかれて十薬忿怒の息吐けり』

『南亭雑記』の南亭師から頂戴した句。このブログになんともぴったりな句と思い、使わせていただきます。
十薬とはどくだみのこと。どくだみは踏みしだかれると
鮮烈な香りを発します。その青い香りは、さながら虐げられた若者の体から発する忿怒と抗議のエネルギーのよう。
暑い季節には、この強い歌を入口に掲げて、私も一民衆としての想いを熱く語りましょう。

そして季節は秋。
一足早いけれども、同じく南亭師からいただいた、この冬の句も掲げておきましょう。

『埋火に理不尽を焼べどくだみ荘』

埋火(うずみび)は、寝る前に囲炉裏や火鉢の燠火に灰をかぶせて火が消えてしまわぬようにしておいた炭火などのこと。翌朝またこの小さな火を掻き立てて新たな炭をくべ、朝餉の支度にかかるのです…

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