『この国の行方 ⑥-2』

この政権とそれを取り巻く人々の、『反知性主義』とでも言うべき、人間の根本原理への
無理解と軽視が、今、もっとも如実に表れて出でているのが
『自由』とか、『平等』とか、『民主主義』とか『法治主義』とかいった、
近代が生んだ諸々の理想や価値観への無理解と軽視、積極的無視、

であろう。

これらの概念やそれを具体化した社会制度を築き上げるために、人間はどれほど多くの
汗と涙を流し、ときに命までもを捧げて来たであろうか。
例えば言論の自由、例えば集会結社の自由、例えば法の下の平等……
人間がそれらを普遍的価値として認識し、現実に自分たちの社会に成文律として確立して
いくまでに、どれほど、どれほど多くの先人たちの労苦があったことであろうか…
世界には、いまだに、それらの自由どころか、生存権さえ国民に保障されていない国々がたくさんある…
日本だって、わずか70年前まではそうだったのだ。小林多喜二…、三木清…
どれほど多くの人が、自由のために戦い、そしてそのために投獄、拷問、虐殺や刑死、
拷問の果ての死に至ったか知れない…多くの多くの血や涙が流されてきたのである…

この政権には、そうした、重い重い価値への、なんというかなぁ…軽薄なおちょくり、
といった言葉や態度があまりにも目立つ。


●沖縄二紙が気にくわないからと言って、『潰してしまえ』と発言したあの、元NHK経営委員の
百田氏。それは、自民党の若手国会議員の勉強会である文化芸術懇話会に講師として
招かれた際の(本人いわくオフレコ)発言である。
『沖縄の米兵が犯したレイプ犯罪よりも、沖縄県全体で沖縄人自身が起こしたレイプ犯罪の方が、
はるかに率が高い』などというひどい発言も、軍隊を保有しないバヌアツ、ナウル両国を、
『家に例えると、くそ貧乏長屋で、泥棒も入らない』などという発言は、およそまともな神経では
考えられない侮辱的発言である。このような人が、公共放送NHKの元経営委員として、NHKに
送りこまれていたのである。このところのNHK報道の偏向ぶりは、目に余るものがある。

●同じ『文化芸術懇話会』では、参加議員から、『マスコミを懲らしめるには広告料収入がなくなるのが
一番。経団連に働きかけて欲しい』『悪影響を与えている番組を発表し、そのスポンサーを
列挙すればいい』などという、政権に批判的な報道は規制すべきだという意見が出た。
この会合には37人が参加した。官邸からは加藤勝信官房副長官が出席してもいる。上記百田尚樹氏の
言もこの会合で飛び出したものだ。
これは言論の自由への圧力かけそのものではないか!!!

●若手の先っぱしりだけではない。昨年の衆院選前に、自民党は在京テレビ各局の自民党担当の
責任者を自民党本部4階の一室に個別に呼び出し、『報道の公平中立』を求める文書を渡した。
そこには、ゲスト出演者の選定、番組で取り上げるテーマ、出演者の発言の回数や時間、
街頭インタビューの取り上げ方にまで細かい要請が記されていたという。
『報道の公平中立』は無論のこと、ジャーナリズムが守るべき原則であろう。
しかし、それを例えば、議席をほんの少ししか持たぬ弱小政党が、自分たちにも発言の場をくれ、
自分たちの活動も報道してくれ、と要請するのと、今、政権を握っている与党が党本部に担当者を呼びつけて
『公平中立に報道するように』と『要請』するのとでは本質的にわけが違うと思うのだ。
政権与党からの『要請』は、『政治的圧力』と紙一重である。
それこそ報道の自由への過介入と言えはすまいか。

●国会周辺で秘密保護法への反対を訴える一般市民を石破幹事長(当時)が、
『単なる絶叫戦術はテロ行為とその本質においてあまり変わらないように思われる』と発言。
これなども憲法第21条で保障された国民の『集会の自由』を貶め
国民が政治に参加しその意志を伝えるわずかな正当な機会であるデモを侮辱する発言ではなかろうか。
その国会前デモや集会は、いつも私が報告として書くように、警官隊による立ち入り禁止エリアや
分断がどんどん厳しくなっていっている…誰がこれを警官隊に命令しているのか…
(私自身は、警官隊を非難しても仕方がないと思っている。闘うべき相手はその上にいる連中である。
警官隊も、警備をしながら、集会参加者の演説などを聴くともなし聴いているであろう。
警官隊、自衛隊員…これらの人々をさえも共感させるような運動でなければ、と私は思っている。)

●『三連休が明ければ、国民も(今、国会前に集結している学生たちも、集団的自衛権のことなど)
忘れるであろう』、などという発言は、国民を愚民としか見ていない政権の驕りを示す
発言ではなかろうか。

●『法の下の平等』は、この政権で守られているであろうか。安倍政権の経済政策は、富めるものに
手厚く、貧しいものにどこまでも厳しい。
・生活に困窮して家賃を滞納し、公営住宅から強制退去させられる当日、中学2年の一人娘を殺害
したとして起訴された千葉県の母親。わずか月12,800円の家賃が払えず、2年間滞納した
果ての強制退去措置であったという…。
・新幹線で焼身自殺を遂げ、罪もない女性を巻き添え死させてしまった、あの71歳の男性は、
35年間真面目に働いて年金を納めて来たが、年金額は月12万円。その中から、健康保険料や
住民税、家賃も払わなければならなかった。
彼が当日、油の入ったリュックを背負って家を出て、駅の方へ俯きがちにとぼとぼと歩いていく映像が
街の防犯カメラに撮られていたのを見た。
子殺しや、関係ない他人を巻き込んでの自殺など、無論許されるはずがない!
しかし、それはわかっていても、あの男性の悄然とした最後の日の姿は、私の心にしみついて
離れない…。

貧富の格差は拡大している…。日産など一流企業のトップの給与は社員の142倍の9億円近くとか
それに近いとか。会社に正社員として勤めていられるならまだいい。
この国の非正規雇用率は、男性22%、女性は57%。労働者全体では30%を超える。
安倍政権の元、労働者派遣法改悪で、さらにこの労働条件は悪化を辿るであろう。

一票の格差の是正も、当事者の国会議員に任せていたのでは、思いきった改革ができるわけがない。
今の国会議員選出方法は明らかにおかしい。安倍第二次内閣が成立した2012年の衆院選。
自民党の獲得票の全有権者に占める絶対得票率は小選挙区が24.67%。比例代表は15.99%。
ところが、自民党が獲得した議席は小選挙区で定数の79%にあたる237議席、比例代表は、
同31・67%の57議席だった。
国民の4人に一人の支持しかない小選挙区で80%近くの議席って、どう考えたって変だろう!
結果的に、衆議院での与党(自公)の議席率は、325/480で3分の2超、となった。

繰りごとを言うようだが、この得票率の低さであった安倍政権が、国民の全面的白紙委任を
これで得でもしたかのように、数の論理で、日本を戦争の出来る普通の国にするという、
国のかたちを根底から変えてしまうような法案を、強行採決して決めてしまうというのは、
どう考えたって納得できない。

●6月。自民党のリベラル系若手議員が作った 「過去を学び『分厚い保守政治』を目指す若手議員の会」
の勉強会が、小林よしのり氏を講師に招いて行われることになっていたのだが、それが
上からの指令で急に中止になった。 理由は「国会が空転しているため」ということだった。
ところが、安倍応援団の「文化芸術懇話会」の方は、同じ時期に開かれ、そこで例の百田発言
などが出たのである。
自民党はかつて比較的リベラルとされる派閥などもあって、一つの会派が独善と暴走に
陥らないようけん制する役割を果たしていた。
ところが、今の自民党には、小選挙区での公認を得られなくなるという怖れもあって、
安倍政権に違う考えもぶつけてみることのできる議員たちがいなくなってしまった。
若手議員たちが、それではまずいと、こうして勉強会を開こうとすれば、上からやんわりと
圧力がかかる…
政権内の異論は許さぬという締め付けが強くなって、自民党公明党の与党は今、
安倍首相の独裁政治になってしまっている…。


                     *


今回、日本弁護士連合会、元最高裁判所判事、元内閣法制局長官、憲法学者などの、
いわば法曹関係者や法律の専門家が、集団的自衛権の行使を含む安保関連法案について
次々と立ち上がっているのは、集団的自衛権行使の違憲性も無論だが、
安倍政権の、法治主義や立憲主義、憲法の国民主権の原理などへの
無理解や、否、わかっていながらの横着な無視、軽視に、法治国家としての
重大な危機をかつてなく感じたからなのではなかったろうか。



ある一時期の一つの政府が、権力を一手に握ってしまう…その恐ろしさは、ナチスの悪業、
戦争中の日本の軍閥政治…それらの歴史を見れば、容易にわかる。
『この国の行方』シリーズの前の方の記事で書いている通り時の政権が不当に権力を一手に
握ってしまう弊害やそれが国民にもたらす不幸を防止するための縛り

は、近代社会においては二重三重四重…に設けられている。

●日本においては、まず第一に憲法
●時の政権が暴走してしまうことをとどめる第二の大きな壁は、無論、『三権分立』
思想と仕組みである。
●だが実際には、衆議院の第一党から内閣総理大臣がほぼ慣習的に選ばれるということから、
衆議院の多数派は、時の内閣と一体化し、立法府行政府双方での一党支配が起こる、という
重大な弊害も当然出てくる。
そのために二院制があるのである。いつも繰り返し言っているが、参議院は決してなくしてはいけない。
『決められる政治』ほど怖いものはない。
参議院が政権の暴走を止める、という働きを十分に果たすような選挙制度の改革が必要だし、
そのような見識を持つ人物を、わたしたちは国会に送り込まなければならない。
内閣法制局も、政治の暴走を防ぐ、きつい縛りの一つであった。第二次安倍政権が、
それまでの内閣法制局の慣習を破って、安倍総理に親しい小松長官を送り込むまでは。
内閣府内におかれた内閣法制局も、これまでは内閣内の『法の番人』、として
憲法に違反する法制など出さないよう厳密にチェックする役割を果たしてきた…。

●だが、行政府が…ときの一政権が圧倒的権力を一手に掌握して悪政を行うことへの
最後の歯止めは、国民自身の声である!
国民が、デモや、パブコメや公聴会や、意見メールなどや、そうしてもっとも大事な投票行為によって、
理不尽な政治にノー!という抗議を発する。…それが一番大きな力なのである。
国民主権とはそういうことなのだ。
国民は国家のためにあるのではない。国家が国民のためにあるのだ。
そうしてそれは、ただ漫然とその権利を享受していては、いつまた、国民の持つ諸権利を
奪ったりないがしろにする政治が行われるようになるかもしれない。
だから。

『第十二条  この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の
不断の努力によつて、これを保持しなければならない』




しかし。
この政権は、これらの縛りを全部外してしまった…
まず、内閣法制局人事の慣行に逆らい、法制局長官に、安倍首相と思想の近い小松氏を
外務省から呼んで長官の座に据えた。これは、内閣法制局が時の内閣の僕になるという
悪しき前例を作ってしまった。
そして、何より罪が重いのは、何よりも許せないのは、
国の最高法規としての憲法を、安保法案という下位の法に従わせる
という、すなわち、時の内閣の恣意によって憲法を必要に応じいかようにも解釈できるという、
悪しき前例を、これまた作ってしまった、ということであろう。
それは単に集団的自衛権行使容認の問題に限らない。
一度そうした手法が許されてしまったら、これから、どの政権が、どんなちゃぶ台返しをやるか
もうわからなくなってしまったのである!
国民が…議会が…長い間知恵を絞って、これでいこう、これを守っていこうと決めて守って来たことを、
一内閣が恣意によって、いとも簡単にひっ繰り返す。
それが許されるなら、もう憲法などないも同然である!
どんな変更だって、数の論理で押し切れてしまう!

これは、明らかに『行政権』の逸脱である。憲法が許す範囲を越えている!
そして、それは三権分立の破壊であり、国民主権への冒涜であり、文明国家
としての規範=立憲主義や法治主義の破壊行為である!







                     *


9.『知』の否定~其の三 』
この下に続きます。

        ↓


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Re:鍵コメさんへ

鍵コメさん。こんばんは。
おお!ありがとうございます。
早速つけ加えさせていただきますね。
どんどん反対声明出す動きが広がっていっていますね。
でも、あちら側も必死。どんな手を打ってでも通そうとしてくるでしょう。

だけど、若い人々が目覚めたというのは大きい。
若い人の一部であったとしても、これで政治に目を向ける人は確実に増えて
来ると思います。
政治を自分たちに引き寄せて考えるようになる…それはとっても大きなこと。
希望を持っていきたいですね。

少しおうちの方は落ち着かれたとのこと。精神的にもさぞお疲れだったでしょう。
どうぞこれからもご無理をなさらないでくださいね。それでなくても苛酷な夏です…

いつもありがとうございます。^^

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Re: 鍵コメさんへ

鍵コメさん、こんばんは。

地球温暖化は、本当に心配です。
日本の技術は、こういう方面でも世界に貢献できるものを持っている。
本当に今すぐ、戦争法制など廃案にして、日本が世界に貢献できる本当の道を
選んでほしいです。
それは戦争や紛争を無くすことに尽力する道。
エネルギー消費の無駄をなくし、地球温暖化防止に貢献する道。
つまり、安倍政権の『この道しかない』というのと全く反対の道を行くことですね。

『国民のために国がある(国<国民)、というより、
国民自身が国という全体のシステムをつくっていくのだ(国=国民)。。というイメージ』

おお!まったくその通りですね!
国民の質が、その国の質。
国民が、良くも悪くも国を作っていくのです。
憲法12条の前半の部分はまさにそのことの戒めですね。
本当によく出来た憲法です…

その世論というものを形成していく2本柱が、教育と報道、だと私思うんですよ。
この記事の6-③は、そのことについて書いてあります…
この二つが特定の思想を持つ政権に握られてしまったら、本当に危ない。
戦前戦中の日本がそうでした…
今また、その気配が濃厚にして来ています。
…本当に国民は頑張りどころなんですけれどね~…まだまだ声は小さいと思います。
もっともっと大きなうねりになっていかねば…。

立派な政治家を育てるにはどうしたらいいか。
まず第一は、ろくでもない政治家を落選させることですね。^^
そうして、見込みのある政治家は積極的に応援していくのです。
今はtwitterなど便利な道具がすぐ手元にあるのだから。
高校生、大学生などが立ち上がりつつあるのは希望ですね。
これも、危なっかしいところがあるから、大人たちは小さなことでいちゃもんを
つけるのでなく、後からしっかり支えてあげないといけない。
若い芽を伸ばしてやらないといけないです。大人たちが防風林になってあげるの。

そして。若い人たちは大人の背中を見て育つのだから、大人たち自身が
自分の良心に照らして恥じない生き方をすることですよね。
そういう意味で、あの、『安保法制は違憲』と言ってくれた、長谷部、小林、笹田
の三人の憲法学者に、本当に私は感謝しています…
あの三人の発言が、流れを変えてくれたんですもの。
黙り込んでしまっていた私自身に、立ち上がる勇気を与えてくれたのも、
あのお三方なんですよ。

さて。わたしもまた頑張って記事書いていきます。ありがとうございます♪





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『しだかれて十薬忿怒の息吐けり』

『南亭雑記』の南亭師から頂戴した句。このブログになんともぴったりな句と思い、使わせていただきます。
十薬とはどくだみのこと。どくだみは踏みしだかれると
鮮烈な香りを発します。その青い香りは、さながら虐げられた若者の体から発する忿怒と抗議のエネルギーのよう。
暑い季節には、この強い歌を入口に掲げて、私も一民衆としての想いを熱く語りましょう。

そして季節は秋。
一足早いけれども、同じく南亭師からいただいた、この冬の句も掲げておきましょう。

『埋火に理不尽を焼べどくだみ荘』

埋火(うずみび)は、寝る前に囲炉裏や火鉢の燠火に灰をかぶせて火が消えてしまわぬようにしておいた炭火などのこと。翌朝またこの小さな火を掻き立てて新たな炭をくべ、朝餉の支度にかかるのです…

ペシャワール会
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