『猫めっ!』

私の家には、同居人がいる。
いや、最近まで、『居た』。

正確に言うと、同居「人」ではなく、同居「鳥」と同居「虫」であった。
その両方がこの2日の間に相次いでいなくなってしまった。
寂しい。

2009_1014_141653-CIMG0127_convert_20091016213350.jpg


これはわたしの侘び住まい。いつもパソコンをやったり本を読んだり縫い物をしたりする
二階の部屋の窓を開けたところ。
もう少し近づいてみよう。

2009_1014_141447-CIMG0125_convert_20091016234504.jpg

そうなんですよ。
実はここに鳩が巣を作っていた。
もう、どれくらい前になるだろう。
この前の激しい台風の少し前からであるから、もうかれこれ2週間以上、
ここで一組のつがいの鳩が卵を抱いていたのである。

最初は、我が家の庭を二羽がやたらと飛び回っていた。
カイヅカイブキの木と木蓮の間を忙しく行き来し、バサバサ羽音をさせて
飛び立つ。
ははあ、巣作りをするな、とは思っていたが放っておいた。

数日後。いつものように朝、窓を開けて、家中の空気を入れ替える。
この部屋の窓も開けて、ふと何か動く物の気配を感じ窓の手すりの少し下に目をやると、
すぐそばまで伸びたカイヅカイブキの木に一羽の鳩がうずくまっていた。
丸い目でこちらを見ている。
怖がっている様子はなく、じっとただ蹲っている。
私がしょっちゅう玄関を出入りするのも見ているので、
この人物は危険がない、とでもわかっているのだろうか。
その日から、そちら側の窓はなるべく開けないようにすることにした。

10月8日。台風18号が日本に上陸。
我が家の方はたいした被害もなくてすんだようだが、
夜半から翌9日明け方にかけての吹き降リは、やはり相当強かった。
前の記事にも書いたとおり、私は普段、二階の雨戸を閉めないで寝る。
しかし、台風のひどそうなときは仕方ないので、夕方明るくても
雨戸をたてる。
その日も、既にいかにも台風らしい南風の吹き降リが始まった中、
雨戸に手をやって、鳩の様子を見る。
カイヅカイブキの枝は大きく風に揺れている。
密な枝の間に作っているとは言うものの、台風の雨はやはり親鳩の体も
巣もびっしょり濡らすであろう。
それでも、母親だろうか、鳩はじっと巣についている。

「おやおや。おまえ。大丈夫?」
声をかけてみる。
鳩は丸い目で確かに私を見ているが、身じろぎもしない。
私は出来るだけ静かに雨戸を閉めた。

翌朝。雨戸を開けると、鳩はそこでじっとまた、私を見つめ返してきた。
「大丈夫だったの。」
鳩は返事などしないが、やはりそう、声を掛けて静かに雨戸を戸袋にしまう。

それからも、そちら側の窓はなるべく開けないようにしておいた。
時々そっとレースのカーテン越しに様子を見る。
窓を開ければ、本当にすぐに手の届きそうな所にいる彼ら。
人間の窓近くに巣を作って却って安心しているのだろうか。
その蹲った姿と丸い目が可愛いので、写真に撮りたいと思ったが、
カメラのズームレンズなどはおそらく怖がるだろうので、我慢しておく。

ところが、である。
一昨昨日の深夜2時ころ。私はまだ灯りを煌々とともして、パソコンに向かっていた。
辺りの家々は寝静まって、物音一つしない。
すると突然、窓の外でものすごい音がして、何かが激しくカイヅカイブキの
枝にぶつかり、さらに地面に何かがどさりと落ちる音がした。
すぐに立って、窓を開けてみる。
部屋からの明かりで、鳩がそこにいるのはうっすら見えた。
そうして、表の道路に慌てて逃げていく黒っぽい猫の姿が。

翌朝。窓を開けて鳩の無事を確かめる。
よかった。巣の周りに多少、抜けた羽のやわらかそうなのが1,2本
ぽわぽわしているのは見えたが、親鳥は変わらず、巣を守っていた。
こちらを丸い目で見返す。身じろぎもしない。

親鳥は猫を見事に撃退したのだ・・・・・。
私はそう思っていた。

しかし、猫はあきらめていなかった。
私が夕暮れ、買い物に出ようとすると、玄関の辺りから黒い姿が
さっと飛び出て、隣家の駐車場の車の下に潜り込むのが見えた。

私は普段、動物に「しっ、しっ!」などと言ったりしない。
しかし、今回は「しっ、しっ!」とつい、黒い猫を追いかけてしまった。
猫は車の下から飛び出て、隣家の塀に飛び乗り、姿を消してしまった。
まだ若い、尻尾の長くて優美な、精悍そうな猫であった。
いつもだったら、見惚れてしまいそうな、野性味を残した生きものの姿であった。

昨日。朝、窓を開けてみた。
鳩はいなくなっていた。あとにはからになった巣だけが。

2009_1014_141534-CIMG0126_convert_20091017021445.jpg

猫に襲われても、一昨日は確かにまだ卵を抱いていた。
すると、夜、私の気づかぬうちにまた襲われたのだろうか。
それとも、ここは危険と、自ら巣を放棄したのだろうか。

こちらは人間の勝手な思い込みで、まるで子供が妊娠中でもあるかのように
気をもんでいたが、鳩たちはたくましい。またすぐに、この庭で巣作りをしようとするだろう。
それまでに、「あの猫めっ!」
ちょっとしつけをしてやらないといけないな。
「鳩を食べるんじゃありません!」
「鳩をおもちゃにしてはいけません!」


さて、もう一人の住人は、いや、同居「虫」は、カネタタキである。
カネタタキ。ご存じだろうか。
体の長さ、僅か1センチにも満たないほどの、小さな小さな秋の虫である。
薄い金属の鐘でも叩いているかのように、チッ、チッ、チッ、と、
深夜、家のどこかで鳴く。
どこにいるのだろうと探しても見つからない。
あまりに小さいのと、あまりに思っている大きさと違うので、見つかりにくいのである。
それなのに、鳴き声は驚くほど大きい。
家の外で鳴くコオロギも、数がずんと減ってきた。
一匹か2匹、かろうじて生き残って、相手を探して寂しげに鳴いている。
このカネタタキは勿論外の植え込みなどでも鳴くが、
小さいので人家に入り込んで、天井や家具の隙間などで鳴く。
体の大きさに似合わず、声は大きくよく通る。
通常11月の中ごろまでは、家のどこかで、寂しげに鳴いているものだが、
今年のカネタタキは、一昨日あたりから鳴き声が聞こえなくなってしまった。

めっきり寒くなった11月の深夜、一人で起きている者の夜伽でもしてくれようと
いうかのように、チッ、チッ、チッ、チッ、チッと、7声ほど鳴く虫の声を聞くのは
なかなかに風情のあるものである。

あの我が家の小さな虫の同居人は、いったいどこへ行ってしまったのだろう。

秋の虫について書かれたもの中で、私の好きな、短編が一つある。
作者は小泉八雲こと、ラフカディオ・ハーン。
私の大好きな作家。
タイトルは「草雲雀」。
小さなコオロギに似た、草雲雀、という虫が、
家人の怠慢のために死んでしまった。
故郷を遠く離れて東洋の小国に流れ着き、そこに骨を埋めようとしている
孤独な人間の魂と、小さな虫の魂が束の間出会って触れあった。
そんな気持ちを作者は抱いている。
ところがその虫の死によって、急に部屋に満ちてきた空虚感・・・・。
ストーリーも何もない淡い掌編である。
でも、なぜか私は好き。

夕方5時。これを書いている今も、外では一匹だけコオロギが鳴いている。
皆に遅れてうまれてきた彼は、伴侶を見つけることが出来るのだろうか。
今日は小雨もぱらぱら落ちて、うす寒い夕暮れである。
スポンサーサイト

テーマ : 思うこと
ジャンル : 学問・文化・芸術

コメントの投稿

非公開コメント

No title

私は彼岸花さんの語り口調が好きです。
特に小泉八雲の書いた物語の説明のくだり・・・
>孤独な人間の魂と、小さな虫の魂が束の間『出会って触れあった』。

こんな書き方ができるようなブロガーになりたいなぁ・・・と。
勉強以上にセンスの問題が大ですがね。(苦笑)

No title

こんばんは。ららのベッドの横の窓のすぐ向こうに
カイズカイブキがあります。
そこにもし鳩が巣を作って、
それを猫が取ってしまったら・・・
考えただけで哀しくなります。猫も鳥も大好きなんです。
いのちがいのちを食す・・・哀しい自然の掟ですね。

さっきお風呂に入っていました、窓をあけて。
そうしたら、そとで彼岸花さんの家にいたカネタタキがやってきました。早くもならず遅くもならず、チッ、チッ、チッ、・・・
私は今ここにいる、何度も何度もそう訴えているようでした。

No title

うふっ! 読める! れんげ、ちゃんと読めてるよ~~~!
なんか、急に近くに感じるっ!! うれし♪
また来るねぇ~! 尚コメントの返事は気にしないで。
勝手に、遊びにきて、お茶飲んで帰るから~~~♪ じゃ!
プロフィール

彼岸花さん

Author:彼岸花さん
リンク、トラックバックご自由に。

『しだかれて十薬忿怒の息吐けり』

『南亭雑記』の南亭師から頂戴した句。このブログになんともぴったりな句と思い、使わせていただきます。
十薬とはどくだみのこと。どくだみは踏みしだかれると
鮮烈な香りを発します。その青い香りは、さながら虐げられた若者の体から発する忿怒と抗議のエネルギーのよう。
暑い季節には、この強い歌を入口に掲げて、私も一民衆としての想いを熱く語りましょう。

そして季節は秋。
一足早いけれども、同じく南亭師からいただいた、この冬の句も掲げておきましょう。

『埋火に理不尽を焼べどくだみ荘』

埋火(うずみび)は、寝る前に囲炉裏や火鉢の燠火に灰をかぶせて火が消えてしまわぬようにしておいた炭火などのこと。翌朝またこの小さな火を掻き立てて新たな炭をくべ、朝餉の支度にかかるのです…

ペシャワール会
http://www1a.biglobe.ne.jp/peshawar/pekai/signup.html
国境なき医師団
http://www.msf.or.jp/donate/?grid=header02
最新記事
最新コメント
リンク
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
カレンダー
06 | 2017/07 | 08
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2カウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
QRコード
QRコード