『黒い霧   政治というもの』 ①

一昨日の記事で、『シシリーの黒い霧』というDVDをご紹介した。
これは実際に起こった事件をドキュメンタリータッチで描いた映画。

先の大戦が終了して間もない、1950年、シシリー島の小さな村の家と家の間の
中庭に、ひとりの若者の射殺死体が発見される。
若者の名はサルバトーレ・ジュリアーノ。

http://en.wikipedia.org/wiki/Salvatore_Giuliano

彼は『シシリーのロビン・フッド』と俗に呼ばれることもあるシシリー島の山賊団の首領だった。
なぜそう呼ばれたか、というと、彼が地主などの金持ち階級や警察を襲撃して金品を強奪し、
貧しい者たちに分け与えた、とされるからである。
『とされる』と書いたのは、その義賊云々が、彼がハンサムな青年であったこと、そのカリスマ性や
悲劇性から、マスコミによってつくりだされた虚像であるかもしれないということで。

シチリアは紀元前の時代から、多くの民族に入れ替わり立ち替わり支配され続けてきた。
ギリシャ、ローマ、アラブ人、ノルマン人、フランス、スペイン、そしてイタリア。
1861年、イタリアに統一された後も、島民の暮らしは極端に貧しく、
1920年代はファシスト政権によってさらに抑圧される。
長い間、異民族に蹂躙され続けてきたシチリアの住民たちは、
政府とか政治、自治というものが信じられない。
その隙間に入りこんで、影の政府とでもいうべき勢力を作っていったのが、マフィアである。

サルバトーレ・ジュリアーノもやはり貧しい出自で殆ど教育らしい教育も受けていない。
おりしも時代は第二次世界大戦の真っ最中。
連合軍はシチリアを利用する。ムッソリーニのイタリアを攻めるための拠点として、
枢軸国軍との激しい戦いの末に シチリアを手に入れる。
この勝利にはファシスト政権に反感を持つシチリア・マフィアがアメリカ軍と内応して、
同軍を支援したことも貢献している。

20歳のサルバトーレは、シチリアに上陸してきた連合軍の物資を闇取引して儲けようとする。
が、ある日憲兵隊に見つかり、物資は取り上げられ、 彼自身も憲兵の厳しい取り調べを受ける。
それを恨んだ彼は、山賊団を組織し、徹底的に憲兵隊などと戦うようになる。
地主や警察などから金品を強奪し、貧しいものに配る。地元住民の間に彼に共感し、
彼をあがめるものも多く出てくる。一時は500人を超える大きな山賊団になっていた。
彼を守ろうとする団のメンバーや家族の結束は固い。
しかし彼をつかまえようとする憲兵隊、警察の追及は厳しい。
そこでマフィアと取引して身を守ってもらおうとするのである。
マフィアはシチリアに多くいた山賊団を一掃しようとしていた。
サルバトーレは他の山賊の情報をマフィアに売る。また、一方で警察とも一部通じている。

大方の山賊が一掃されていなくなると、マフィアはもうサルバトーレは必要ない。
サルバトーレは今度はマフィアも敵に回すことになる。
そこら辺は、マフィアと官憲、警察、山賊団…外国の思惑…いろいろなものが
入り乱れて、彼の思想的なスタンスも、彼を襲おうとする者の背後関係も
まったく混沌としてくる。
結局彼は、28歳の年に、従兄弟で自分の片腕でもあったピショッタという男に売られ、
彼に撃たれて死ぬのであるが、その背後で糸を引いていたのが、いったい誰なのか、
長い裁判の後にも不明のままに終わってしまった。
彼を売ったピショッタ自身も、刑務所で毒殺されて死ぬ。
マフィアで仲介役だった人物も後に射殺される・・・。

この大変に入り組んだサルバトーレの射殺事件の背景を、映画は白黒の美しい映像で
追いかける。(ベルリン映画祭で監督賞のほかに黒白撮影賞、音楽賞を受賞している)
あまりドラマ性などなく、主人公のサルバトーレも最初と最後のシーンの死体としてと、
隠れ家に尋ねてきた裏切り者ピショッタと話す声だけ(!)としてしか登場しない。

ひとりの若者の破滅的ともいえる生き方とその死。
歴史のはざまに生まれて、翻弄されて、無残に死んでいった若者の物語、
そうして彼が無慈悲に殺していった者たちの物語が、
ずしんと心に残った。

特に私がせつなく思ったのは、彼の無知からくる政治的な節操のなさである。
いろんな組織に利用され、自分でもなんとかそういうものを利用して貧困から這い上がろうとし、
また自分の安全を守ろうとして、結局はどの組織か個人からかはわからぬまま、
無残に闇に葬られていくのである。

彼は戦争中は、ファシスト政権のイタリアから独立して、シチリアに自治を
取り戻そうとする、独立義勇軍の闘士であった。映画の最初のシーンで出てくるが、
ここでも政治家は彼のような荒くれの若者たちを利用している。
『独立義勇軍』という名称は、いざ事が失敗したとき、政治家たちが自分たちの
身に追及の手がこないよう、無法な若者が勝手にたちあがって組織した集団だ、と
位置づけるのである。
シチリアの自治は認められた。でも、サルバトーレは窃盗の罪などがあるので
恩赦は受けられないで、官憲に追われ続ける。 

シチリア独立運動。闇物資の取引、そしてマフィアとの連携と山賊団への裏切り。
警察との裏取引・・・。
サルバトーレの生き方は、先の見えない、何か一貫性のない生き方である。
私が特に理解できなかったのは、彼らの組織が引き起こした、メーデーの大殺戮事件。
彼らは1947年に、無防備の社会主義者2000人が開いていた集会場所に向かって発砲し、
11人を射殺し、27人を負傷させ、その後も、各地の社会党や共産党の支部を襲撃する。
なぜ?私にはこのことが一番わからない。
社会主義者と、独立義勇軍、貧困から生まれた義賊的な山賊団組織。
そうして貧しさの中からいつしか生まれたマフィアという巨大な組織…
そのマフィアを必要悪として見て見ぬふりをして長年暮らしてきた住民たち…
根で抱える心情は同じなのではないのか?
権力に抗い貧しさから脱却するために戦う…なぜ、それが、一方が一方を虐殺する?

そこで後ろで糸を引いていたのは誰なのか。社会主義者を憎め!
仲間を裏切れ!と、後ろで無知な若者にささやいたのは誰だったのか?どんな組織だったのか?
これに似たような若者の悲劇がどれほどこれまで、そして今も世界には繰り返し
行われてきたことだろう。

貧困と無知。それはつい暴力という手段と結びつきがちである。

そうして、こうした貧困と無知の泥沼にいる若者に武器を与えて、「戦え」と
囁く『政治』という大きな大きな魔物がこの世には存在する。


単なる古い映画の話。
一本500円で偶然手に入れた、過去のお話。

日本は平和で豊かな国だから、今の日本には関係ない。
本当にそうなのでしょうか…。





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ジャンル : 学問・文化・芸術

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Re: 依里さんへ

依里さん。真剣なコメントをありがとう。

お返事、ここで書こうとし始めたんですが、大きなテーマなので、
記事の形でお答えさせていただくかも。

『かも』といったのは、彼岸花、今日ちょっと体調が悪く、
集中してパソコンに向かえないのです。
大丈夫。明日は元気になっていると思います。
返事、真剣に書きたいので、もう少し待ってくださいね。

No title

内容が濃く、ボリュームもあったので日にちを分けて読ませていただきました。
貧困と無知と暴力。
確かにこれらは切っても切れない関係にあるような気がしますね。
「しょうがない」
そう一言で言いきってしまえば終わりですが、貧困の中に生まれてしまうと、抜け出すのは容易ではなさそうですね。。。
人生を生きるのではなく、人生に翻弄されてしまうから。

月並みですが、豊かな時代の日本で、経済的な苦労をしないで済む環境に生まれただけで、十分満たされているのだと感じました。
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『しだかれて十薬忿怒の息吐けり』

『南亭雑記』の南亭師から頂戴した句。このブログになんともぴったりな句と思い、使わせていただきます。
十薬とはどくだみのこと。どくだみは踏みしだかれると
鮮烈な香りを発します。その青い香りは、さながら虐げられた若者の体から発する忿怒と抗議のエネルギーのよう。
暑い季節には、この強い歌を入口に掲げて、私も一民衆としての想いを熱く語りましょう。

そして季節は秋。
一足早いけれども、同じく南亭師からいただいた、この冬の句も掲げておきましょう。

『埋火に理不尽を焼べどくだみ荘』

埋火(うずみび)は、寝る前に囲炉裏や火鉢の燠火に灰をかぶせて火が消えてしまわぬようにしておいた炭火などのこと。翌朝またこの小さな火を掻き立てて新たな炭をくべ、朝餉の支度にかかるのです…

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