『日本国憲法をなぜ守りたいか その4 みっともない憲法?② 』


一つ前の記事で、安倍首相が、日本国憲法を「『みっともない』ので変えたい」と
言っている、ということを書いた。
安倍氏がそう思うその理由は以下の1~3のようなものである(らしい)。
これに、改憲を叫ぶ人々が改憲の必要があると思う理由としてよく挙げるものを
3つほど付け加えよう。赤字部分4~6がそれである。

1.『自分たちの安全を他国に任せますよ、と言っている』
2.『自分たちが専制と隷従、圧迫と偏狭を無くそうと考えているんじゃないのですよ。
 国際社会がそう思っているから、それを褒めてもらおうと、いじましい』
3.『これは日本人が作ったんじゃないんですからね』
4.憲法を急遽書いたGHQの面々は、法律の素人集団である。そんな素人の書いた
 憲法案を、国家の憲法として戴いているのかと思うと、みっともなくて恥ずかしい。
5.この前文でも、日本は自分の国さえ安全で無事であればいいと内向きであっては
 ならないと、ちゃんと言っている。日本は九条を変えて、国際的な安全と平和に
 もっと積極的に関与貢献 して行くべき
だろう。
6.GHQ案を、そのまま大急ぎで直訳したので、憲法の条文が翻訳調で日本語として
 よくない。意味が通じない。


それでは、みっともないと安倍氏などが言う日本国憲法前文を、ここで載せてみよう。
批判の該当部分に下線を引いておく。

日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらと
われらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて
自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることの
ないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を
確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は
国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民が
これを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基く
ものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を
深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの
安全と生存を保持しようと決意した。
われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と
偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を
占めたいと思ふ。
われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、
平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
 われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない
のであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、
自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
 日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成する
ことを誓ふ。



さらに。比較のために、自民党改憲草案の前文も載せておこう。


日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家
であって、国民主権の下、立法、行政及び司法の三権分立に基づいて統治される。
 我が国は、先の大戦による荒廃や幾多の大災害を乗り越えて発展し、今や国際社会
において重要な地位を占めており、平和主義の下、諸外国との友好関係を増進し、
世界の平和と繁栄に貢献する。
 日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、基本的人権を尊重するとともに、
和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する。
 我々は、自由と規律を重んじ、美しい国土と自然環境を守りつつ、教育や科学技術を
振興し、活力ある経済活動を通じてを成長させる。
 日本国民は、良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため、ここに、この憲法を
制定する。




これら1~6の批判についての、私の考えを書いてみる。
順番は、不同である。

Q3:日本国憲法前文は、GHQ草案の直訳で、みっともない文章なの?

確かに、一文が長く主語述語の関係の読み取りにくい文はあるように思う。
だが、私自身は、この前文を読んで、一度もこれをわかりにくいとかみっともないと思った
ことはない。文章としていいかどうか、という判断は、きわめて主観に負うところが多く、
それでは自民党案の文章が素晴らしいかというと、第二小段落『わが国は』以下の文は、
過去と現在とこれから行うことの文がいっしょくたにされている、変な文章である。
しかし、それも私の主観である。どっちの文章が優れている、などとは比べられない。

要するに、大事な問題は中身なのだと私は思う。
現行憲法と、自民党草案とこの二つを比べてみて私が一番に目につくと思うのは、
前者は『国民』主権を強く打ち出し、後者は、短い文章の中にやたら『国』とか『国家』
『郷土』という文言を使っているな、という、その際立った違いである。


現行憲法の翻訳調の欠点をあげつらう者は、ベアテさんの記事のところで書いたように
この憲法案がGHQによって日本側に提示され、民政局スタッフと日本側スタッフが徹夜で
一緒に逐語訳した1946年3月4日から、同年11月3日に公布されるまで、8か月も
あり、その間、以下のような審議が行われていることを見ようとしていないのではないか。


枢密院
1946年(昭和21年)10月29日、「修正帝国憲法改正案」(日本国憲法案)を全会一致で可決した枢密院本会議の模様。
Wikipediaからお借りしました。



1946年3月4日。GHQ草案を、日米双方協力して逐語訳。
3月6日。マッカーサー、天皇の了承を得た後、『憲法改正草案要綱』として発表。
4月22日。枢密院で審議開始。
6月8日。枢密院で可決。第90帝国議会に提案される。
8月24日。衆議院で一部修正を経て、可決。貴族院に送られる。
10月6日。貴族院で再び一部修正を行なった後、可決。
       修正があったため再び衆議院に戻される。
10月7日。衆議院で修正部分を含め、可決。再び枢密院に送られる。
10月26日。枢密院において修正部分について審議された後、可決。
1946年11月3日、日本国憲法として、公布。

現憲法の前文も含め、GHQの押しつけで急遽作られたので、文章が英語からの
直訳調でみっともない、改憲すべきと言うべき人々は、上記のこれだけの審議の
間、なぜ、関係者たちはもっとこなれた文章にしなかったのだろう?と、そちらを
問題にした方がいいだろう。これだけの期間があれば、こと文章そのものに
関しては、修正の機会はあったはず。 その文のこなれていないことまでもをGHQの
押しつけのせいにして、今ごろぐずぐず言うのはどうだろう。



次に。小さなことなので、ことさらに取り上げる必要もないのであるが。
現日本国憲法の前文で、首相が
『自分たちが専制と隷従、圧迫と偏狭を無くそうと考えているんじゃないのですよ。
 国際社会がそう思っているから、それを褒めてもらおうと、(いじましい云々と続く)』
と批判している下線部の箇所は、明らかに、首相の読解ミスじゃないかと私は思う。
ここだ。
『われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に
除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。』

この文章のどこにも、日本は自分たちではそれらの努力をしないで国際社会に
委ねてしまうとか、少しできたからと言って国際社会に褒めてもらおうとか、
そんな、それこそ『いじましい』ことなど書いていない。

『名誉ある地位を占めたいと思ふ』という表現は、むしろそれとは真逆で、日本が
『平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去』することにおいて、
国際社会に率先してこれを努める、という、強い決意の表明である!と私は解する。

日本国憲法前文の素晴らしいところは、敗戦国日本が、戦争の惨禍を引き起こした
ことの深い反省の上に立ち再び同じ過ちを繰り返さないこと、また、国民主権という
新しい理想の下、今度は、国際社会と協調して、国内においてもこの世界からも
不幸をなくしていくことに自ら貢献していくという強い決意と希望を語っているところだ
と私は思うのである。


以上。改憲すべきという人々の主な主張1~6の、2と6について書いた。
1、3、4、5については、続けて書く。
この前文には、さらにもっと深い意味が込められていると私は思うが、それも次の記事にしよう。







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Re:んさんへ

んさん。こんにちは。

> 都知事さんよぉ~!てめぇに都合の良いヤツを誰も第三者なんて思わねぇよ!

ほんとですよね。
第三者というのは、当事者からもその明確な反対者からも、基本的には
独立した機関でなければ。
ところが、日本の第三者機関といわれるものが、時に極めて怪しいもので
あることが多いのが問題ですね。
象徴的なのが、東京電力福島第一原発事故後に刷新されたはずの原子力安全委員会。
『原子力ムラ』の内部の人間がなるのでは意味がない。
島崎氏などは、地質学でしたっけ、原子力ムラの外のかたでしたから、極めて
慎重で厳しい姿勢を取っていらっしゃいましたが、短い期間で辞任されてしまわれた。
田中委員長のような原子力ムラ内部の方が委員長を続けていらっしゃる限り、
公正な判断は下せないだろうと思います。
舛添氏の件も、身近な人選では意味がない。

広島。大忙しですね。^^
世界中が見守っています…

Re: motomasaong さんへ

motomasaong さん。こんにちは。はじめまして。

ご訪問とコメント、ありがとうございます。
motomasaong さんのブログ。拝見させていただきました。
今の日本国憲法と、自民党改憲案の比較。
とてもわかりやすかったです。
私も、最終的には、motomasaong さんがなさったように、条文ごとに
自民党改憲案と現行憲法の比較をしたいと思っているのですが、
なかなかそこまで行けません…今までも、一部やってきてはいるのですが。
motomasaong さんの分析は、自民党改憲案が通ったら、こういうことが
おきてしまうぞ!ということを、具体例をもって示されていらっしゃることですね。
憲法は、どこか遠い難しいことのように思っている人は多いのじゃないかと
思いますが、とんでもない、憲法の条文が改悪されると私たちの生が
こんなふうに抑えつけられてしまうんだぞ、ということ。それをわかりやすく
まとめてくだっている…
自民党の改憲案は、ほんと、醜悪という以外ありません。
安倍政権は、戦中のゾンビたちの復活、です。
経済問題だけでなんとなく安倍政権を支持している人は多いのでしょうが、
安倍氏とその周辺の人々の背負っているもの、目指しているものの背景を
考えれば、彼らを支持することは、あの戦前戦中の日本に戻りたい、というのと
同じこと。
motomasaong さんのあの記事は、それを体の感覚として感じさせてくれますね。

ありがとうございます。
私も、ここでこれからもコツコツ書いていってみたいと思います。

水曜日には第三者を・・・

をいをいをい!
都知事さんよぉ~!てめぇに都合の良いヤツを誰も第三者なんて思わねぇよ!

あ、我が県は都知事の公私混同騒動なんか構ってる場合じゃなかったよ。

今日の報道では、平和公園周辺のマンホール全部開けて確認後に施錠?した後に封印作業をしてましたよ。

広島県警だけでは手が回らないみたいで、大阪府警が応援に来てる(大阪以外にも来てるかも?)画像も流れてたなぁ・・・

国民主権の抹殺が目的です。

拙文ですが、
安倍と与党の憲法草案の問題点を、
大日本帝国憲法、
現行の平和憲法と、
比較して解析して見ました。
拙ブログの、
「平和憲法抹殺」を、
是非、御一読なさってください。
このままでは、
取り返しのつかないことになります。
「現代謡曲集 能」の翁 元雅です。

Re: んさんへ

んさん。おはようございます。

ほんとにね。やりたい放題ですものね。
政治を私物化している…
どうしてそれなのに、もっと激しい批判が起こらないかなあ…
この国が徐々に変えられていきつつあること、国民も眼を見開いて
いてほしい。
軍学共同に、これまで何十年間も拒否姿勢を貫いてきた日本学術会議が
2日前、その姿勢の見直しを発表しましたね。
もともと大学など学問研究への予算の少ない日本。安倍政権になって、
大学への締め付けはさらに厳しくなり、一方で自分たちの方針に協力的な
者には飴をばらまく。まるで踏み絵のようなことを行っています。
その圧力に屈する大学や学者研究者が増えているのでしょう。
『自由な学問の死』です。それが将来どのようなことをもたらすか。
…もう、そんなことばかりですよね。この政権は。

んさん。ありがとうございます!

馬鹿

言う者が馬鹿!みたいな・・・?

政府与党よ、そんなに「何時までも思うが侭の政治を」国民は許さないと思うよ。
プロフィール

彼岸花さん

Author:彼岸花さん
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『しだかれて十薬忿怒の息吐けり』

『南亭雑記』の南亭師から頂戴した句。このブログになんともぴったりな句と思い、使わせていただきます。
十薬とはどくだみのこと。どくだみは踏みしだかれると
鮮烈な香りを発します。その青い香りは、さながら虐げられた若者の体から発する忿怒と抗議のエネルギーのよう。
暑い季節には、この強い歌を入口に掲げて、私も一民衆としての想いを熱く語りましょう。

そして季節は秋。
一足早いけれども、同じく南亭師からいただいた、この冬の句も掲げておきましょう。

『埋火に理不尽を焼べどくだみ荘』

埋火(うずみび)は、寝る前に囲炉裏や火鉢の燠火に灰をかぶせて火が消えてしまわぬようにしておいた炭火などのこと。翌朝またこの小さな火を掻き立てて新たな炭をくべ、朝餉の支度にかかるのです…

ペシャワール会
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