『『日本国憲法をなぜ守りたいか その5 素人が作った憲法? 』


Q4:日本国憲法はGHQの法律には素人の人たちが作った憲法なの?

憲法を自分たちの手でつくり替えなければ、と主張する人々が、よく挙げる
日本国憲法の問題点として、このことがよく言われる。

すなわち、マッカーサーは、遅々として進まぬ、日本政府による憲法草案作りに
業を煮やし、部下の民政局の人々に、憲法草案を作るよう命令する。期間は、2月4日から
1週間とされていた。
確かに、彼らは、憲法学の専門家集団ではなかった。

それでは、幣原喜重郎首相の下、担当相松本烝治をトップにして組織された
『憲法問題調査委員会』(いわゆる松本委員会)の委員は、どういう人々だったのだろうか。

●委員長で担当国務大臣松本松本烝治は、商法学者。東京帝国大学卒業。
東京帝国大学教授。満鉄に移り、副社長となる。第二次山本内閣で法制局長官。
貴族院議員。斎藤内閣商工大臣。その他、多数の会社の役員や日銀参与・理事等
を務める。この間、商法改正やその他の立法に貢献した。
[顧問]
●清水澄(枢密院副議長・学士院会員)
●美濃部達吉(学士院会員、東大名誉教授)
●野村淳治(東大名誉教授)
[委員]
●宮沢俊義(東大教授)
●清宮四郎(東北大教授)
●河村又介(九大教授)
●石黒武重(枢密院書記官長のち法制局長官)
●楢橋渡(法制局長官のち内閣書記官長)
●入江俊郎(法制局第一部長のち法制局次長)
●佐藤達夫(法制局第二部長のち第一部長)
その他にも委員、補助員、嘱託として、錚々たる学者・官僚たちが、これに携わっていた。
法制局長官経験者も多いということは、言わば憲法のプロ集団であると言って
よかろう。いずれも日本を牽引する知性たちである。


一方、民政局側の人々はどんな人々であったのだろうか。
この仕事にあたった民政局メンバーは、25人。それが8つの委員会に分けられた。

●民政局局長コートニー・ホイットニー准将。マッカーサ-の分身とも呼ばれ、その懐刀
 ともなった人物。当時49歳。陸軍航空隊の中尉時代、ワシントン駐留中、コロンビア・
 ナショナル・ロー・スクールの夜間部に通って、法学博士の学位をとっている努力のひと。

●運営委員会の責任者はチャールズ・L・ケーディス大佐。コーネル大学及び
 ハーバード・ロー・スクール卒業。ニューヨークで法律事務所の所属弁護士をしていた。
 連邦公共事業局副法律顧問、第二次大戦ではヨーロッパ戦線の激戦地で戦ってきた。



                  Charles_Kades.jpg
             チャールズ・L・ケーディス。Wikipedeiaからお借りしました。

●マイロ・E・ラウエル陸軍中佐は、スタンフォード大学で学士号を取った後、ハーバード・ロー・
 スクールで学び、さらにスタンフォードに戻って法学博士の学位取得。
 多くの民間会社の顧問弁護士、政府機関の法律顧問、ロサンゼルスの連邦検事補。
 入隊後は憲兵参謀学校、軍政学校、日本占領のための特殊教育機関だった
 シカゴ大学民事要員訓練所。
 ホイットニー准将が民政局長に赴任する前から法規課長として、日本の政党や
 民間の憲法学者と積極的に接触。
 彼は、高野岩三郎、森戸辰男、鈴木安蔵らの民間の憲法研究会の草案を
 精査。すぐに翻訳して上に通して検討を仰いでいる。彼ら民政局のメンバーが
 作った日本国憲法草案の中身には、この鈴木らの民間、憲法研究会の
 書いたものとの類似点が多く見かけられるという。
 このことについては、また詳しく書く。

●アルフレッド・R・ハッシー海軍中佐は、弁護士。ハーバード大学卒業後、バージニア
 大学で法学博士の学位取得。ケーディス、ラウエル、そしてこのハッシーが運営委員会の
 中心人物。弁護士業の傍ら、マサチューセッツ州で公職。州最高裁判所
 会計検査官特別顧問。海軍共同訓練司令部勤務の後、プリンストン大学軍政学校、
 ハーバード大学民事要員訓練所を経て日本へ。

[立法権に関する委員会] 
 民主主義の根っこにあたる議会制度を決める委員会。民政局内でエース格の
 人物が選ばれた。
●フランク・E・ヘイズ陸軍中将。弁護士。当時40歳。ケーディス大佐の右腕。
 シカゴ大学で民間要員訓練所で日本の占領政策の基礎を教育されてGHQに赴任。

●ガイ・J・スゥオープ海軍中佐は、小学校卒業という。たくさんの職を渡り歩いたのち、
 ペンシルバニア州政府の予算局長、プエルトリコ総督、内務省準州担当局長、
 ハリスバーグ選出民主党下院議員などを歴任した経歴の持ち主。
 海軍に入った後は、コロンビア大学海軍軍政学校卒業、サイパンを経て東京に。
 ルーズベルトのニューディール政策の信奉者であった。

●オズボーン・ハウギ海軍中尉
 31歳。セイント・オーラフ大学卒業後、週刊誌記者。海軍プリンストン大学軍政学校
 及びスタンフォード民事要員訓練所を経て日本占領のスタッフに選ばれた。

[行政権に関する委員会]
●責任者サイラス・ピーク博士は民間人。コロンビア大学で博士号取得。コロンビア大学助教授。
 中国を専門とする歴史家。戦前に2年間、日本の大学で教鞭をとっている。
 民政局内での知日派。

●ミルトン・J・エスマン中尉は、コーネル大学政治学科を卒業、プリンストン大学で
 政治学と行政学の博士号取得。合衆国人事院勤務の後、バージニア大学軍政学校、
 ハーバード民事要員訓練所を経てGHQに。
 専門はヨーロッパ近代政治。

[地方行政に関する委員会]
●セシル・ティルトン陸軍少佐は、ハワイ大学、コネテイカット大学の教授。連邦政府
 物価局の特別行政官。保守的。日本の地方自治体の完全な改革を目指す。
 都道府県知事、また町村長も、公選制に改革。

[財政に関する委員会]
●フランク・リゾー陸軍大尉は、コーネル大学で、経済学、財政学、国際関係論を学び、
 ケーディス大佐が最も信頼する人物の一人だった。ケーディスが日本を去った後、
 民政局次長を引き継ぎ、後、民政局長。戦後も日本にとどまり、日米経済に貢献。
 後に勲一等瑞宝章を日本政府から受けている。

主な人物たちの経歴であるが、どうだろうか。彼らは確かに『憲法学』の専門家
ではない。だが、経歴を見てもわかる通り、軍人としても民間人としても、一流の人々
であったと思われる。博士号取得者も多い。
これらの人々が、本国アメリカでさえ実現できていない民主主義の理想を、この
敗戦国日本で実現しようと、名誉心や欲得など抜きにして、ほんとうに若々しい
熱意と好奇心と情熱を持って、憲法草案作成という任務に携わったのである。
その様子は、先に紹介したベアテ・シロタ・ゴードンの『1945年のクリスマス』という
本に生き生きと描き出されている。

                  ***

さて。この日本の側の憲法作成関係者たちと、GHQ民政局の人々との経歴を
ひき比べて、日本側はプロ集団だったの、アメリカ側は素人集団だったのと、戦後70年
にもなる今の憲法論議であれこれ言っても虚しいことである。
要するに大事なのは、どちらがより真剣であって、生まれたもののどちらがより優れて
いると後世の人々が判断してきたか、ではあるまいか。
ただ。アメリカ民政局の草案作成者たちが、ただの憲法の素人の軍人たちであった、
そのことがイコール、彼らの作った草案が、『恥ずかしい』ような内容のものであった、
という論法には反論しておきたい。
学歴がどうのこうのといいたいわけでもない。ただ資料として挙げておく。
彼らは、民間人として軍人としておそらく一流の優れた人々であったろう、ということは
出来上がったものの質の高さがそのまま示しているのではなかろうか。
どれほど経歴的に優れていると思われる人々が携わったことでも、その『志向するもの』が
そもそも狭い低いものであるならば、生まれてくるものの質は推して知るべし。

そのことだけ、ここでは書いて、次には、幣原内閣が松本烝治を担当相として、日本の
一流の憲法学者や官僚を集めて作った『憲法改正要綱』と、GHQ案の中身の比較に行く。











  

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『しだかれて十薬忿怒の息吐けり』

『南亭雑記』の南亭師から頂戴した句。このブログになんともぴったりな句と思い、使わせていただきます。
十薬とはどくだみのこと。どくだみは踏みしだかれると
鮮烈な香りを発します。その青い香りは、さながら虐げられた若者の体から発する忿怒と抗議のエネルギーのよう。
暑い季節には、この強い歌を入口に掲げて、私も一民衆としての想いを熱く語りましょう。

そして季節は秋。
一足早いけれども、同じく南亭師からいただいた、この冬の句も掲げておきましょう。

『埋火に理不尽を焼べどくだみ荘』

埋火(うずみび)は、寝る前に囲炉裏や火鉢の燠火に灰をかぶせて火が消えてしまわぬようにしておいた炭火などのこと。翌朝またこの小さな火を掻き立てて新たな炭をくべ、朝餉の支度にかかるのです…

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