恋する「もの」たち ② 『ウールのセーター』

今年の秋は例年よりずいぶん暖かいのだろうか。
10月の末、というと、寒がりの私などいつもはもっと重ね着を早く
始めているような気がするが。

夏が終わり、秋になっていつもなんとなく恋しく感じるのは、
先にも書いた、清冽な香りの青い蜜柑と、
あとは、秋になって初めて腕を長袖に通す時の、あの感触である。
この場合の長袖は、ポリエステルやレーヨンであってはならない。
薄手の木綿のシャツであらねばならない。

9月半ばくらいの、少し肌寒く感じられる日の夕暮。
そう。ちょうど学校では運動会の練習が盛んに行われている頃の夕暮れ。
初めて長袖に腕を通す時のあの感触が好き。
あたりの空気がもうひんやりしてきているので、その長袖シャツ自体も
ひんやりした感触である。
自分で自分の両の腕(かいな)を抱きしめてみる。
すると、ひんやりした薄手の木綿の生地を通して、
自分の腕の温もりが伝わってくる・・・・・その感触が好き。
自分の命が愛おしくなる瞬間。

この時私は、自分の腕に恋しているのかもしれないな。

次に私が秋になって恋するものは、『ウールのセーター』である。
これは出来れば、上質のウールのセーターであってほしい。
アクリル毛糸などで編んだものであってほしくない。
季節はちょうど今頃から、11月、ジャケットなどを着るようになる前の一時期。
もう、シャツ一枚では、夕暮れなど寒くて震えあがってしまう頃。

一緒に歩いている男の人の温もりを求めて、腕にすがる。
その腕が、このウールのセーターであってほしい。
色はそう・・・・。黒か紺かベージュなどの基本的な色がいい。
これは少し厚手であってほしい。
そうして、今頃多い袖口のだらしなく甘いセーターではなく、
一目か二目ゴム編みの袖口が、きゅっと締まっているセーターであってほしい。
多少けばだっていてもそれは構わない。
むしろ着こなしきって体になじんでいる感じがいい。

最近はこういうセーターって男も女もあまり着なくなったのではなかろうか。
外は寒くても、電車や建物の中は暖房が効きすぎるほど効いている。
厚手のウールのセーターは、もう時代的に少し重いのかもしれない。
セーターというものそのものを着る人が少なくなっているのだろう。
今は、ユニクロなど安価で着やすい衣類が容易に手に入る。
だから、電車や街で若い人たちを観察しても、大抵がこういう
スエット系の上着を寒ければ羽織るようだ。

でも、肌寒い秋の日にしがみつくその腕は、少し厚手のセーターであってほしいな。
ウールは、晴れた秋の日の太陽に」温められたりすると、独特の甘い香りがする。
この香りが好き。
着る人の清潔な体の匂いと、体温とお日さまに温められたウールの匂いが
混じり合っている、なんて、すてきじゃありませんか。

歩いているうちに、驟雨に遭うのもまたいい。
冷たい秋の雨が、いきなりぱらぱらと落ちかかる。
二人で急いで雨宿り先を探すが、お互い少し濡れてしまう。
髪にも衣服にも、銀色の細かい冷たい雨粒が付く。
ようやく見つけた暖かい喫茶店。もうかすかに暖房が入っている。
ハンカチを出して、お互いの髪についた雨粒をはらいあう。
男の人の来ているセーターから立ち昇る、濡れたウールの匂い。
温められて、ちょっと獣くさい、生きものの香り・・・・

ああ、いい!と思いませんか?
女の人ならわかると思うけどなあ。


女の人の上質のウールのセーター。
これにも恋する。
こちらは、厚手であってはならない。
目のつんだ網目の細かい、柔らかな薄手のセーター。
色はそう。鮮やかな色であってほしい。黒や紺ではなく。
グレーか茶かベージュならまだ許せる。
そう。いいのは、落ち着いた深い赤。深い深いみどりいろ。
目の醒めるような深いブルーなど。

これも袖口や、裾や、首回りの編みの緩いものはだめ。
胸にロゴなど入っていてはこれも絶対にだめ。
どんな高級なブランドマークでも。
全体に細身の、小ぶりなつくりであってほしい。
体の美しいラインを際だたせるような。
アクセサリもつけない。体のラインそのものが美しいアクセサリ。

優雅な美しい鳥のような、そんな女の人のきりっとしたセーター姿。
男はこういう女性(ひと)に恋してほしい。

私?
残念ながら、出るべきところが出ていないので(笑)、
あまりすてきなセーター姿ではないのが口惜しいところ。

以上は飽くまで、「かくありたい」という、理想の話(笑)。
「好きな人ならば、何を着ていてもいい」、というのが、現役世代の
本音であろう(笑)。それはそう。確かに。

ウールのセーターでも寒くなったら・・・・
たっぷりしたツイードのコートかジャケットを羽織ってほしいけれど、
これも今は、こういうものを着る人は、ほんとに少なくなりました・・・・・。
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テーマ : 思うこと
ジャンル : 学問・文化・芸術

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Re: morinofさんへ

> 大変返事が遅くなってしまいました。
> morinofさん、ありがとうございます、と申し上げれば、通じていただけますでしょうか。
>
> 昔のセーターは上質でした。というより、それしかなかったんですね。
> 今では考えられないことですが、大変に家が貧しかった私でさえ、暮れに
> 母がカナリア色の純毛の毛糸を買って、編み物の仕事をしている人に頼んで
> すてきなセーターを新調してくれた記憶があります。
> それを大事に着て、大事に洗って、糸がいよいよいたんだり
> 小さくなって着られなくなってきたりしたら、ほどいて湯気にあてて、また編み直す、
> ということをしていました。
> ウールのセーターの甘い匂いが大好きでした。
> それとは一転、濡れた時のけもの臭い匂いさえ。
>
> 英国の小説やそこの暮らしを書いた随筆などを読むと、今でも
> 紳士が上質のセーターの肘が抜けたのに接ぎをあてて、それをかえって
> お洒落としているということがわかったりします。
> 今は新しいものをわざわざ破いたり洗いざらしたり、接ぎを当てたり、
> 面白いと言えば面白いですが、妙な時代となりました。
>
> morinofさんは、さすがに造形作家でおいでになるだけに、色々なものの
> 素材にお詳しくていらっしゃいますね。
> 匂いボタン、もそうですが、布地のことなどもよくご存じみたい。
> ヘリンボーンという織り模様も私は好きで、娘のもの、自分のもの、
> だいぶ冬のコートやジャケットなどにその布地を使いました。
> 今年も一枚縫ったばかり(笑)。
> ボタンは勿論布の色と質感にピッタリのものを探してつけました。
>
> mmorinofさんのシャツは、細かい模様なんでしょうね。

No title

 読ませて戴きながら、あのウールのセーターの甘やかな匂い思い出しました。
子供のころ肘が抜けると肘当て布で繕って着ていましたねえ。
今は仕事柄、木屑が付くと取れなくなるので着られないのが残念です。
 先日ヘリンボーンの地味茶色のシャツを買いました。
若いころ、年配の人が着ているのを見て羨ましかったものです。
髪も胡麻塩になり、やっとこんな地味臭いのも似合う歳になりました。

No title

薄手の柔らかい上質のセーター・・・
触れるその暖かい感触は決って胸にじ~んときます。
ららは、洗濯機で洗えるようなものしか着ないけれど
袖口が締まった柔らかい繊細な感触の細い毛糸のセーターは
いつも母が来ていました。
大切に着て、大切に洗い、大切にしまう、、、
そのセーターへの愛情が、
そのまま母のセーターの柔らかさ。
その心が愛しくて
その残されたセーターに
まだ手を通すことが出来ずにいます。

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No title

 洗ったら駄目だと言われたので、ぼくはそれを一度も洗った
ことがありません。彼岸花さんのセーターのイメージとは違うかも
しれませんが、ぼくはセーターといえば「カウチンセーター」を想い
だすのです。ダウンジャケットもダッフルコートもツィードのJKも、ゆっ
たり着るとソレっぽくなく、ぱつんぱつんに着ても野暮ったく見えないく
らい、身体はしめる必要あり!ってな感じでしょうか?

 洗ったら駄目だと言うので、「汚れたらどうするの?」と訊くと、
「汚さないように着てください」ですって。教えを守ったそのカウチン
はぼくのタンスの中にありました。30年も経ちました。汗やホコリ、
風の匂い、なによりぼくの青春が。

 彼岸花さんの書く文章は素敵だ。ありがとうございます。

HOBO

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『しだかれて十薬忿怒の息吐けり』

『南亭雑記』の南亭師から頂戴した句。このブログになんともぴったりな句と思い、使わせていただきます。
十薬とはどくだみのこと。どくだみは踏みしだかれると
鮮烈な香りを発します。その青い香りは、さながら虐げられた若者の体から発する忿怒と抗議のエネルギーのよう。
暑い季節には、この強い歌を入口に掲げて、私も一民衆としての想いを熱く語りましょう。

そして季節は秋。
一足早いけれども、同じく南亭師からいただいた、この冬の句も掲げておきましょう。

『埋火に理不尽を焼べどくだみ荘』

埋火(うずみび)は、寝る前に囲炉裏や火鉢の燠火に灰をかぶせて火が消えてしまわぬようにしておいた炭火などのこと。翌朝またこの小さな火を掻き立てて新たな炭をくべ、朝餉の支度にかかるのです…

ペシャワール会
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国境なき医師団
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