『笑い声』 其の二



先日は、灯台やフォッグホーンの記事で、人々の屈託のない笑い声について書いた。
思わずこちらもつられて微笑んでしまうような明るい笑い声。

今日は、私がこの上なく美しいと思う笑い声について。

それは幼な子の笑い声である。
幼な子が、きゃっきゃっと笑う、あの声。
でも、普通の笑い声ではなく…んん~、なんと表現すればいいのだろう。
笑いすぎて泣き出す一歩手前の、興奮した子供の笑い声…。
それを私はこの上なく美しいと思う。


こんなことがあった。
郊外から都心に向かう電車の中。車内は空いていた。
私は座席についていた。
1歳になったばかりくらいの幼な子を乳母車に乗せた若い夫婦が乗り込んできた。
子供が少しぐずり出した。
すると、20代後半くらいの若い父親は、立ち上がると子供をベビーカーから
掬い上げ、『高い高い』を始めた。
「ほ~ら!高い高~い!」と叫んで、子供を天井に向けて抱えあげる。
子供は喜んできゃっきゃっと笑う。
車内の人に顔をしかめたりする者はいなかったと思う。
子供をあやす若い父の姿は美しかったから。

子供が喜んで、若いお父さんはだんだん興奮してきた。
「ほらほらほ~ら!高い高い高~い!それっ!」と言って、
子供をさらに高く突き出す。子供の体がお父さんの手から浮くくらいに。
子供は興奮して、ただの笑い声を通り越して、殆ど悲鳴のような笑い声をあげる。

「今に泣きだすな…。」
経験豊かな母親である私(?)は、微笑みながらも、子供の興奮しすぎを危ぶんでいた。
こういう笑い声を通り越すと、子供の興奮は極まって、大抵最後は泣きだすことで
終わるケースが多いのである。

案の定、というか、若い父親は、さらに高く子供を天井に向かって放りあげた。
「ごちん!」という大きな音がして、子供は頭を天井にぶつけてしまった!
火がついたように泣き出す子供。慌てる父親。あきれて子供を受け取る若い母…。
車内の者は、私を含め、このいきさつを微笑みながら見ていた。

「ああ。なんて美しいのだろう!…」

私は、このような若い父の姿を、いつも極めて美しいものに思う。
町を歩いているときなどに、若い父が一人、子供をベビーカーに乗せて
連れ歩いているのなどを見ると、なぜかいつも感動するのである。
どうしてなのだろう。
ひとりの男の子が、大人になって、家族を持ち、父になり、一家の柱となっていく…
そのことがなにか痛ましいような愛しいような気がするからなのであろう。
Mさん、Rさん…私の愛していたかつての教え子たちが、若い母になっているのを
見たときに感じた痛みと同じように。

そうして、そのような子供の、興奮して泣きだす一歩手前くらいの笑い声を
私はこの上なく愛する。

どうしてか。
それは、この人の世の生が、歓喜と、そうして一抹の不安に彩られていることを、
この幼い子がなぜか予感しているような笑い声に思えて仕方がないからである。


今日の一曲。
子供のそんな美しい笑い声が出てくる映像を。
『日陽(ひび)はしづかに発酵し…』。ソ連のアレクサンドル・ソクーロフ監督作品。1988年。
名作の誉れ高い映画です。
笑い声は冒頭のシーンだけに出てきます。

http://www.youtube.com/watch?v=FFsnCyirUcs


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『しだかれて十薬忿怒の息吐けり』

『南亭雑記』の南亭師から頂戴した句。このブログになんともぴったりな句と思い、使わせていただきます。
十薬とはどくだみのこと。どくだみは踏みしだかれると
鮮烈な香りを発します。その青い香りは、さながら虐げられた若者の体から発する忿怒と抗議のエネルギーのよう。
暑い季節には、この強い歌を入口に掲げて、私も一民衆としての想いを熱く語りましょう。

そして季節は秋。
一足早いけれども、同じく南亭師からいただいた、この冬の句も掲げておきましょう。

『埋火に理不尽を焼べどくだみ荘』

埋火(うずみび)は、寝る前に囲炉裏や火鉢の燠火に灰をかぶせて火が消えてしまわぬようにしておいた炭火などのこと。翌朝またこの小さな火を掻き立てて新たな炭をくべ、朝餉の支度にかかるのです…

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