『笑い声』 其の三


私は花火大会というものが大好きである。
一人ででも行きたいくらい好き。
線香花火もいいが、やはり夜空に打ち上げられて豪快に花咲き、消えていくあの打ち上げ花火が。
お腹にズド~ンと響くあの音もたまらない。
毎年、我が家の近くの野球場で花火が上がる。
球場の中は出るときが大変なので、外にいつも決まって花火を見る場所がある。
そこは早くから数十組もの人が敷物を敷いて、ビールを飲んだりしながら
花火を近くで堪能する。
花火大会の司会の女性のうるさい声も、音楽も、ここからならあまり聞こえないで済むし。
あのうるささは願い下げ。

数年前、私の席の隣に、4、5歳くらいの女の子を連れた一家が陣取っていた。
可愛い柄の浴衣を着せられている。その女の子の声がとても美しかったのである。
その子は、花火が夜空に上がるたびに、胡坐をかいた祖父の片膝からぴょんと立ち上がって、
「まあ!きれい!」
「うわあ!きれい!」
と、手を打ちあわせ、笑顔になって、声をあげて感動するのである。
そうして、祖父の方をにっこりして振り返る。おじいさんっ子なのかな。
私は最初のうち面白がって見ていたが、そのうち、不思議な感動が
胸の内に湧き上がってきた。
この子の声の澄んできれいなこと。笑い声の美しいこと!
そうしてその言葉のきれいなこと!
その、ぴょんと飛び上がって手を打ちあわせる仕草の少女らしいこと!

大体、今の人は、あまり「まあ!」と言って感動しないでしょう(笑)。
「うわ!」とか「わあ!」とか「ひええ!」とか「すっげ!」とかは言っても。

一時間半ほどの打ち上げの間中、その子は、「まあ!きれい!」と、
ぴょん!と飛び上がって手をたたきながら言い続けていた。
私の予想に反して、あとになって興奮して疲れて泣きだす、などということもなく…

きっとやさしい祖父母と両親が、大事にやさしく育てている子に違いない。
ああ。いい子だったなあ…。
「まあ!きれい!」…
あの声は本当に澄んで美しかったなあ……

もうじきまた、その花火大会の日がやってくる。
私はもう、ここ数年、見に行っていない…。


              *


梶井基次郎に『城のある町にて』という作品がある。
軽い結核を病み、しかも幼い異母妹を失って傷心の梶井が、姉の住む
伊勢の松阪に療養に行った時のことを描いた作品。
その中の『手品と花火』に、主人公がある夕暮れ、城にのぼって、
遠くの市で上げる花火を見つめる美しいシーンがある。

『星水母ほどのさやけさに光っては消える』…

そんな遠い花火も、私は大好き。
遠く…ぴんぽん球ほどの大きさで、淡く浮き上がっては消える音のない花火。








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『しだかれて十薬忿怒の息吐けり』

『南亭雑記』の南亭師から頂戴した句。このブログになんともぴったりな句と思い、使わせていただきます。
十薬とはどくだみのこと。どくだみは踏みしだかれると
鮮烈な香りを発します。その青い香りは、さながら虐げられた若者の体から発する忿怒と抗議のエネルギーのよう。
暑い季節には、この強い歌を入口に掲げて、私も一民衆としての想いを熱く語りましょう。

そして季節は秋。
一足早いけれども、同じく南亭師からいただいた、この冬の句も掲げておきましょう。

『埋火に理不尽を焼べどくだみ荘』

埋火(うずみび)は、寝る前に囲炉裏や火鉢の燠火に灰をかぶせて火が消えてしまわぬようにしておいた炭火などのこと。翌朝またこの小さな火を掻き立てて新たな炭をくべ、朝餉の支度にかかるのです…

ペシャワール会
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