『待ってな!』



夕方5時半少し過ぎ。遅い買い物を終えて、いつもの川原の道を歩いていた。
5時半と言っても、もう、とっぷり日は暮れて、辺りは暗い。

今日は、木枯らしを想わせるような、だいぶ冷たい風が吹いて、
道端の枯れかけたコスモスや桜の葉を揺らしていた。
ああ。もう秋というより、気配はなんだか初冬の感じである。


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今年は気持ちのいい天気の日が本当に少なかったなあ。
夏は史上まれに見る暑さの夏。
9月になっても暑く、ようやく気候の美しい10月になったと思ったら、
曇りや雨のはっきりしない天気が続いている。
あああ。秋もいつの間にか終わり。なんだかさびしいよう・・・

そんなことを考えながら、とぼとぼと自転車を引いて歩く。
前方には街灯がぽつんと立って、青白い光でその周辺だけを照らしている。
桜の木がだいぶ紅葉してきたのが、それでもその光で見てとれた。
冷たい風にざわざわと葉むらが揺れている。

と。川沿いの家から、二人の少年が出てきた。
ひとりはその家の子。一人は友人らしく、自転車にまたがると、
あっという間に去っていった。
二人は小学5年生くらいか。

「じゃあな。」去っていく方の少年が振り返って言った。
「じゃあね。」残った方の少年も言う。
「待ってな~。今、持ってきてやるから!」自転車から大きな声で言った。

同じ年だと思うが、去っていく少年の方は体格がいいのか、少し声が低くなりかけている。
対して、残された少年の方は、まだ甲高い、少年の細い声である。
その、兄らしい声が「待ってな。」という。
「今、持ってきてやるから。」という。

「ああ、いいなあ。」
私はなんとなくそう思った。
「待ってな。」って、いい言葉じゃないか。
「今、持ってきてやるから。」これも、なんと優しい口ぶりで言われたことか!
…いいなあ。なにを持ってきてくれるというのだろう。


「う~ん。」幼い声が叫び返した。
「黒曜石だよ~。間違わないでね~。」
「わかった~!」遠くから返事が。

黒曜石!
ああ、こんな夕暮れの、こんな場面になんとふさわしい物質ではないか。

黒曜石…。少年たちの瞳のように黒々と濡れて輝く石……。






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テーマ : 思うこと
ジャンル : 学問・文化・芸術

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Re: 夕惟さんへ

夕惟さん、嬉しいです。

実は、私、この記事、自分でもとても気に入っているんです。
だから、夕惟さんが初めにこの記事に目をとめてくださって
コメント入れようとしてくださってたと知って、とっても嬉しいのです。
自分にとって大事なものに、どなたかが反応してくださるって
とても感激しますよね。

記事がうまく書けてるから、とかいうことではないんです。
もうあたりが暗くなってしまったある秋の夕暮れ。その時のね、
川原の道の暗さや一つぽつんとたっている街灯の青白い光。
そうして、何より、少年たちの声と、その会話が、
私にはとても美しく鮮やかなものに思えたんです。

『待ってな!』『今、持って来てやるから!』
・・・ああ、いいなあ。なんてやさしい言葉でしょう!
私も、誰かにそういう風に言われてみたいな(笑)
でも、これは、おっしゃるように、少年期の子供たちの会話だったから
美しかったのだと思います。
人生の長い旅路の中でも、とりわけ淡く美しい少年期、少女期というもの。

そして、持って来てくれるものが、なんと!黒曜石だというでしょう!

こんな暗い夕暮れ、この場面になんとふさわしいものだったんだろう。
黒曜石以外に考えられないじゃないか!

そう思うくらいぴったりなものでした。
ああ!美しい一瞬!・・・そう思いました。

だからね、夕惟さんがこの記事に反応してくださったこと、とっても嬉しいの。
ありがとうございます、夕惟さん。

No title


なんだか良い風景だなぁ~と思いました。
【冬陽】の写真もそうですけど、
心がほっこりするような感じですね^^

私が好きな長野まゆみさんという作家さんのお話に、
少年2人が出てくるお話があって、なんだか思い出しました。

男の子同士にしかないやりとりもあって、
もちろん女の子同士だけのやりとりもあって。
(あ、小学校高学年の頃の男女別で呼ばれる保健室を思い出しました。)
そういうのを経験しながら大人になるんですねぇ。

なんて、感慨にふけってしまいました。

実は、こちらの日記に先にコメントさせていただこうと思っていたのですが、
書かれて近い日記の方が良いかなぁ~なんて思い、
先日初めてのコメントをしました。^^

Re: 乙山さんへ

乙山さん。こんばんは。

わかりますよ。少年たちのその気持ち。
私はかつて少女だった(笑)。少女は少女らしいものを集めていましたけれど、
男の子たちのコレクションには、別種の憧れもありましたよ。
それこそ、黒曜石の欠けたのとか、蝋石とか古い鍵とか、錆びた競技用の笛とか、
知恵の輪の部分とか、曲がった釘とか(笑)。

乙山さんは、子供時代のことを以前書いていらっしゃいましたが、
自分の世界を特に強く色濃くお持ちのお子さまでいらしたような。

学校の手洗い場の、コンクリートの流しに、石をこすりつけて
研磨する少年…。その姿が浮かぶようです。
少年の世界、というのは、何ものにも冒しがたい、一種のユートピアである
ような気がします。

我が家にも、どこかに黒曜石の小さなかけらが今もあるはずです。
娘が小学校5年のとき、八ヶ岳で林間学校があって、黒曜石を一人一かけらずつ
持ち帰ってきました。(ちゃんとしたルートによってです。笑)
桃の節句の蝋燭人形の『あずさ』のように、私がぽいと捨てようとすると、
その時も娘に「ダメダメ~ッ!」と怒られましたから、きっと
彼女のガラクタ入れに、今も探せばあるはずです。

夕暮れにふと聞いた少年たちの会話。
それがなにか耳に美しく残って消えません。




宝物

彼岸花さん、こんばんは。
黒曜石は彼らにとって何にも代えがたい宝物。
少年は、寄り道や散歩の途中で、
人が見たらつまらないと思えるものや、くだらないものに
心を奪われ、大事にしまっておくものなんです。

かつて少年だった乙山もそうでした。
河原で変わった石を見つけては、それを大事に持って帰るのです。
それを水道で洗ったり、布で何度も磨いたりして、
大事に保管しておくんですね。

それでどうなるものでもないし、人に認めてもらえるものでもない。
だけど当人にとってはそれが宝物なんだから仕方がない。
学校の、手洗い場なんかに行って、こすりつけて研磨するんです。
丸くなって、持ちやすくなったらもう大喜びでした。

Re: れんげちゃんへ

確かに。レアメタル持ってきて!って頼まれても困りますよね。

黒曜石持って来てやる、とやさしい声で請け合った友達の少年のように、
中国のひとも、「う~ん、待ってな!今、持って来てやるから!」
って、優しく言ってくれないかなあ(笑)。

れんげちゃん、ありがとう~。

No title

うん、良かった。・・・レアメタルとかじゃなくて。(笑)

Re: waravinoさんへ

ね。waravinoさん。ちょっといいでしょう?

この感じ、わかってくださって嬉しいです。

今日は東京はほんとに木枯らし一号かな、と思うような
冷たい風が夕方から夜にかけて吹いていました。
家のガラス戸などの建具が、ときおり隙間風でカタカタと音を立てる。

そんな夕暮れ。通りすがりの少年たちの会話です。
なんということもない。その後どうなったのか、黒曜石を何のために
取りに行ってくれようとしたのかなど、一切わかりません。
ただ、その会話が、写真のような暗い川原で聞こえてきた。
その状況が、「ああ、いいなあ!」と思えたんです。

『黒曜石』という、その、音の響きと、私が思い浮かべたその石の姿も。
すべてが、暗さを急に増した晩秋の夕暮れらしく、なんだか美しいワンシーンだったのでした。




こんばんわ^^

ちょっといいですね~。これ。続きが気になりますね~@@;
物語のプロローグのようです。
やはり。続きがあるに違いない?黒曜石どうするんだろう?
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彼岸花さん

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『しだかれて十薬忿怒の息吐けり』

『南亭雑記』の南亭師から頂戴した句。このブログになんともぴったりな句と思い、使わせていただきます。
十薬とはどくだみのこと。どくだみは踏みしだかれると
鮮烈な香りを発します。その青い香りは、さながら虐げられた若者の体から発する忿怒と抗議のエネルギーのよう。
暑い季節には、この強い歌を入口に掲げて、私も一民衆としての想いを熱く語りましょう。

そして季節は秋。
一足早いけれども、同じく南亭師からいただいた、この冬の句も掲げておきましょう。

『埋火に理不尽を焼べどくだみ荘』

埋火(うずみび)は、寝る前に囲炉裏や火鉢の燠火に灰をかぶせて火が消えてしまわぬようにしておいた炭火などのこと。翌朝またこの小さな火を掻き立てて新たな炭をくべ、朝餉の支度にかかるのです…

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