『悲しいクリスマス』 私の「もの」がたり 其の四

12月25日、クリスマスの朝のことだった。
今から50年も前。私は小学6年生だった。

クリスマスの朝と言っても、靴下の中にプレゼントが入っているわけでもなく、
普通の日の朝と何も変わりはない。
でも、私にはそれでも何か普段とは違う気がする朝だった。

窓の外は、灰色の冬空。寒い朝である。
朝ごはんの支度ができ、母は小さな丸いちゃぶ台に母子二人の茶碗などを並べていた。
私はもう一週間ほど前から準備していた手製のクリスマスツリーをうっとり眺めていた。

今は100円ショップに行ったって、プラスチック製ではあるが
そこそこの大きさのクリスマスツリーや、可愛らしいオーナメントを
たやすく手に入れることができる。
しかし、私が小学校のころは、家でクリスマスツリーを飾る人などというのは、
経済的に豊かで、敬虔なクリスチャンでもあるという家庭か、商売をしている家に
限られていたように思う。

しかし、クリスマスに対する憧れは、かえって今の子達よりも逆に強かったかもしれない。
私は戦後の生まれ。戦争に負けた日本に、豊かなアメリカの文化が大きな波のように
なだれ込んできた時代に子供時代を過ごした。
読んだ本は「小公女」や「クリスマス・キャロル」「赤毛のアン」などというもの。
自分の実生活とは遠い存在だったが、西洋の絵本、小説、映画などで見る
クリスマスの光景は、全くため息が出るようにうらやましく、輝かしく思えた。

私もクリスマスツリーが欲しい!!
そう熱烈に願ったが、飾りものは自分で作れるとしても、肝心のツリーがない。

ところが、その一週間ほど前のある朝のことである。
私は母に言われて物置に炭を取りに行った。
冬中炭で暖を取るので、炭は俵で買ってある。
その俵をのぞき込んで、ふと、一番上に、杉の枝を丸めたものがあるのに気付いた。
当時は、炭が割れてしまわないようにするための緩衝材として、杉の枝を丸めたものを
一番上に乗せてあったのである。

これ!樅の木みたい!

私は枝を手に取ると、母のところへ駆けもどった。
「これ、ちょうだい!」
理由を聞くと、母は笑って「いいよ。好きにしなさい。」と言ってくれた。

さあ、それから!
私は丸まってしまった杉の枝を一所懸命反対方向に巻き戻した。
杉の枝はもうほとんど乾燥してしまっている。
乾燥した枝は折れやすい。
私は枝をしばらく水につけておき(もちろん青々とした色に戻ったりはしない)、
少し柔らかくなったところを、慎重に慎重に巻き戻して真っすぐにしようとした。
学校に行く前にお箸を数本添え木として結わえつけておき、矯正してみた。

努力の甲斐あって、杉の枝は、先の方がまだ少し曲がってはいたが、
なんとかクリスマスツリーの代用品にならなくもないほどにはピンとなってくれた。
高さは60センチくらいはあっただろうか。

木の準備をするのと同時に、飾りものを作る。
折り紙を買って、中に一枚ずつ入っている金紙銀紙で、
子供にしては出来の良い立体的な星を作った。
たまに帰ってくる兄には煙草の銀紙を捨てずにとっておいてもらう。
母に頼んで、お小遣いを少し貰って、おもちゃ屋さんで、モールを買う。
これで、赤白のねじねじ模様のキャンデーを作る。赤と緑のモールで、
ステッキも作る。
厚紙を切って、お菓子の家らしきものも工夫して作る。

私は手先は小さい頃から器用だった。
だから、クリスマス飾りは結構満足のいくものに出来あがりつつあった。

ああ、しかし!
私が一番欲しい飾りものがない!
それは、正式にはなんというのか未だにその名を知らないが、あの、丸いガラスの玉である。
クリスマスツリーになくてはならない、あの、赤や緑や青、金銀などの輝くガラス玉。
しかし、どうやって手に入れていいのか私はわからなかった。
デパートに探しに行くなどということも、子供の私に思いつくはずも無く。
またたとえ思いついたとしても、母にそんなもの買ってなんて頼めはしない。

そんなときである。
姉がたまたま帰ってきた。
姉は前にも書いたとおり、当時華やかだったキャバレーで住み込みで働いていた。
「なんだ。そんなものがあんた、欲しいの。」
なんと姉は次に帰って来た時に、赤と緑と金のガラス玉を一個ずつ手渡してくれたのである!
恐らくそれは、姉が店の大きなツリーから、くすねてきたものなのではなかったろうか。
今なら話してももう時効かな。
子供の私には姉がどんな手段で手に入れてくれたかなんて気が回らない。

まあ、嬉しかったこと!
憧れのガラス玉が手に入ったのである!
私が大喜びで、ツリーの仕上げに、3つの美しく光る球を飾ったのは言うまでもない。

さてその朝。
「さあ、ご飯にしよう。」と母。
「待って、待って。」
うっとりとツリーを眺めていた私は最後の仕上げに、ろうそくを一本、
ツリーの傍に立てた。ろうそくと言っても、赤や黄色の小さなろうそくなど
あるわけがないから、普通の、停電の時のための大きなろうそくである。
ろうそくに火が点ると、私のツリーはますますすてきに見えた。

満ち足りた気持ちで、美味しく朝ごはんをいただいていたそのとき!
チンチンチン!と、私の背後でとてもきれいな音がした。
何だろう、この澄んだ音は!

振りかえってみた。
私のツリーが燃えていた。
乾燥した杉の枝に、あまりに近くに置き過ぎた大きなろうそくの火が燃え移ったのである。
「ああっ!」私が悲鳴をあげ、立ち尽くしていると、母がすっ飛んできて、
燃え上がる杉の木を傍にあった座布団で倒し、上から何回か押さえて火を消してくれた。

私の大事なツリーは一部が燃えて黒焦げになってしまった。
私のあの綺麗なガラス玉も全部。
ガラス玉?いったいあれは何の素材だったのだろう。
あんな綺麗な鈴を振るような音をたてて燃えるとは。
あんなに美しかったそれは、一部が溶けかかったように無残に焦げてしまっていた。


正月、皆が揃ったとき、兄や姉に笑われたが、
ああ、私にとってあんな悲しいことはなかった。
今でも、丸いガラスの飾り玉を見るたびに、あのチンチンチン!という
涼しげなようなきれいな音と、その時の悲しみを私は思い出す。
子供の抱える悲しみ。
それは言葉にするすべを知らないだけに、大人が思うよりずっとずっと深く
記憶に残るものである。

さて。私の今年のクリスマス。
一応ツリーを飾りました。
憧れの丸いガラス球も勿論飾っています。
クリスマスソングはエルトン・ジョン。
静かなイブを過ごそうとしています。
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テーマ : 思うこと
ジャンル : 学問・文化・芸術

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Re: えめるさんへ

そうなの~。
折角頑張って枝を一所懸命たわめ直して、
(それでも微妙に曲がったツリーでしたけどね。笑)
飾りも工夫して作ったのに。

でもね、雪の代わりに母に綿を貰って、乗せてたのね。
化繊綿ではなく、昔のしっとり重い綿でしょう。
意外とこれが燃えにくくて、大きく燃え広がるのを
防いでくれたようでした。母が素早かったし。

半分焦げたくらいで済んだんだけど、なぜかガラス玉は3つとも
燃えたというか、半溶けになってしまってました。
しくしく・・・・

でも何となく笑えるでしょう?

えめるさんのツリーはどんな感じに飾り付けなさるのかな。

「何年か後にはまた……きっと!」
すてきなすてきなクリスマスツリーをお飾りになるよう、
彼岸花、祈ってる!
ねっ?

ツリー

あんなに頑張って作った、思いがたくさん詰まったツリー。
もえちゃうなんて……! その黒こげ、哀しかったですね。
杉の葉も、油分が多いから火がついたら大変でしたね。もの凄ーく勢いよくもえるんですよ。
でもなぜか、どこかユーモラスな読後感でした。
もしかしてそれ、クリスマスの魔法なの? ^б▽б^

ツリーの飾りつけ、私もかなり凝るほうです。
今いる場所ではできないけど、何年か後にはまた……きっと!
もちろんお金かけない方面でーす^・ω・^

Re: れんげちゃんへ

あれえ???
さっき確かにお返事書いたんだけどなあ。どこに行った?
あれえ???
もう一度書きますね。

なんだかかわいそうなんだけど、笑っちゃうでしょう?
自分でも今考えると可笑しくなります。
大真面目に作ったんですけどね~。

チンチンチン!ってとっても綺麗な音だったのよ。
あ、これ読んだ人、燃やしてみたりしちゃダメよ(笑)。

さっき、れんげちゃんのところに行って、ケーキ勝手に食べてきました。
美味しかった!来年も作ってね。




Re: そらまめさんへ

うわ~~ん!
豪快に笑い飛ばしてくれるのも嬉しいけど、
一緒に泣いてくださるのも嬉しいよ~~~ぅ。

そうなの、そらまめさんも手作り派だったの?
小さい頃同い年くらいで知りあってたら、二人で夢中になって
それぞれ違うもの作ったりしてたかもですね(笑)。
そらまめちゃんはどんなもの作るのがお好きだったのかな。
彼岸花ちゃんはもっぱらお人形関係でした。
今はいろいろやりますけど。下手の横好きで、どれもこれも素人芸です。

クリスマスツリーには今でも憧れるなあ。
飾ってる時は今でも楽しいです。
子供のころの沈丁花、おっと!彼岸花に持って帰ってやりたいです(笑)。



No title

うっうっ・・・。
私は少し悲しかったです。
私も手作りで色んなモノを作る子供でしたから。(苦笑)

でも大事に至らずに良かったですね。
火は怖いですから。

No title

ロウソクが出てきた時、(こ、これはヤバい!)と思ったぁ~~~~~!
悪いけど、爆笑! チビ彼岸花ちゃん、オモロかわいい。
悲しいけど、幸せなクリスマスの思い出だね。
そのツリーも心配!ロウソクは離してね。(笑)

。∠(*゚∇゚*)☆メリークリスマス☆└*・ェ・*┘
プロフィール

彼岸花さん

Author:彼岸花さん
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『しだかれて十薬忿怒の息吐けり』

『南亭雑記』の南亭師から頂戴した句。このブログになんともぴったりな句と思い、使わせていただきます。
十薬とはどくだみのこと。どくだみは踏みしだかれると
鮮烈な香りを発します。その青い香りは、さながら虐げられた若者の体から発する忿怒と抗議のエネルギーのよう。
暑い季節には、この強い歌を入口に掲げて、私も一民衆としての想いを熱く語りましょう。

そして季節は秋。
一足早いけれども、同じく南亭師からいただいた、この冬の句も掲げておきましょう。

『埋火に理不尽を焼べどくだみ荘』

埋火(うずみび)は、寝る前に囲炉裏や火鉢の燠火に灰をかぶせて火が消えてしまわぬようにしておいた炭火などのこと。翌朝またこの小さな火を掻き立てて新たな炭をくべ、朝餉の支度にかかるのです…

ペシャワール会
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