『冬の雨』

深夜、一人で起きて本を読んでいると、ぱらぱらと雨粒が地面をたたく音が
聞こえてきた。
閉ざしたカーテンを少しめくって、雨が降りだしたことを確かめる。
暗くて雨粒は見えないので、街灯の明かりで地面が濡れて光っているのを
確かめる。

そのうちに、激しい雨音になってきた。
冬の雨。
晴天の日が多く、連日、乾燥注意報が出ることの多い東京では、
珍しい冬の雨。しかも夜の雨。

乾燥しきった地面には、植物には、恵みの雨であろう。
インフルエンザなどの予防のためにも、雨はありがたい。

しかし、やはり何かさびしい音である。
「氷雨」などという歌を思い出す。
恋に破れた女が、一人酒場で酒を飲む。
外は冷たい冬の雨・・・・。そんな内容の歌。

暖かい部屋に幸せでいる人には、なんということもない静かな平和な音であろう。
しかし、もの想う人には、耐えがたく寂しい音であるかもしれない。

わたし?
雨音を聞いて寂しいと思うのだから、もの想う人の仲間のほうかな(笑)。

そうそう。百人一首の恋の歌で、私がこの間挙げた

逢い見ての後の心にくらぶれば 昔は物を思はざりけり

という歌と並んで、私が恋の歌として巧いなあ、と思うのがこれとこれ。

忍ぶれど 色に出でにけり わが戀は 物や思ふと人の問ふまで

                                          (平 兼盛)

忘れじの行く末まではかたければ 今日を限りの命ともがな

                                          (儀同三司母) 

下の歌は、「君を忘れないでいつまでも愛するよ、という貴方の約束ですが、
貴方はいつ心変りしてしまわれるかわかりません。いっそあなたに愛されている今のうちに、
死んでしまいたいとさえ思います。」というような意味の、激しい恋の歌。
ここまで深く愛されると、男の人というものはかえって気持ちがひくのであろうか、
それとも、可愛い女、と愛が増すのであろうか。
まあ、歌による遊びではあるのだけれど、それにしても激しい恋。
「髪結いの亭主」という映画を見たとき、この歌を思い浮かべた。
恋する心は、洋の東西を問わないと言うことであろう。



先日、NHKで万葉集の特集を見た。
万葉集には上記3首とまた違う、素朴すぎるくらいの、そして激しい恋の歌がある。
万葉集をちゃんと読んでみようかなと思っている。                                             

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テーマ : 思うこと
ジャンル : 学問・文化・芸術

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Re: neronekoさんへ

neronekoさんらしいご選択ですね(笑)。

天皇の前で歌比べをする。
『しのぶれど』の平兼盛は光孝天皇の子孫。『恋すてふ』の壬生忠見は、地方の下級役人。
どちらの歌も優劣つけがたく、たまたま天皇が『しのぶれど』のほうをふっと口ずさみになられた。それで兼盛が勝った。負けた忠見のほうは、失意で食事ものどに通らないほどになり
それがもとでやがて亡くなった、ということですが。
これ、マンガ百人一首辞典で仕入れた知識よ(笑)。

そういうことを知りつつ読むと、忠見の心が、身近に感じられて、
昔の昔の人とはもう思えなくなりますよね。
後々の人が多くこの2首を比べて論じているそうですが、
私がこの歌になんとなくこれまで感情移入できなかったのは、『まだき』という言葉が
『まだ』、という意味に思えて意味がとれず、?、と思っていたから、というだけの理由で(笑)。『早くも』という意味だったんですね。

恋すてふ わが名はまだき立ちにけり 人知れずこそ思いそめしか

やはりいい歌です。

デュラス、ありがとうございます。読んでみます。

No title

どちらを取るか本当に迷いますね。

どちらも良いのですが、下の句が特に素晴らしいと思われる「恋すてふ」を取りましょう。
なんだか負けてしまった歌のようですし、彼岸花さんも「忍れど」で、僕までそれでは可哀想なので。

デュラスは「愛人」か「北の愛人」です。
不正確で申し訳ありません。
しかも、言葉も正確ではないと思います。
でも、ニュアンスは合っていますので、ご容赦下さい。

Re:neroneko さんへ

しのぶれど、の歌と、恋すてふの歌は、村上天皇の前で行われた歌合せのとき、
競い合った歌で、壬生忠見の『恋すてふ』はいい歌にも関わらず負けてしまったんですよね。

neroneko さんなら、どちらに判定を下されますか?(笑)
私の個人の好みでは、『しのぶれど』のほうが感情にぴったりします。

額田王の歌はすごいですよね。
二人の兄弟天皇に愛された女性。
もう三人が晩年になってから、いわば戯れ歌として歌われた、という説もあるようですが、
そんなことは抜きにして、フィクションの歌としてもすごい情念。
そのまま素直に、激しく秘めた恋の歌、として読みたい気がします。

そうですか。neronekoさんの中学時代の淡い想いと重なってらっしゃるんですね。
忘れられない歌。
でも、本当、口に出して読んだ時の語感がすごくいいですね。
昔は天皇の前で披露したりするとき、どういう読み方をしていたのでしょうか。
今の歌会始のような読み方だったのかなあ。

日本には素晴らしい文化があるんですねえ。
短い言葉の中に、これだけ豊かな感情を盛り込めるとは。
俳句の、さらに無駄をそぎ落とした切れ味のよさも好きですが、
忍ぶ恋のせつなさ、などを表すには、この三十一文字がいいですね。

万葉集、読み直そうと思って、とりあえず、一巻買いました(笑)。
角川文庫の新版万葉集というもの。
私は古文漢文は弱いので、現代語訳の部分だけ読みそうですが(笑)。

『忘れじの』の歌は、王朝の女性ならではの歌ですね。
男の人が訪ねてきてくれるのをひたすら待つしかないわけですから。
男はあちこちに女がいて、その間を蝶のように渡り歩く。
待つ身のつらさ。そうして、想いがかなった時の嬉しさ。
それはでも、今も、どこの国であろうが変わらないかもしれません。
一番幸せなこの時を、永遠にとどめておきたい、と願う気持ちは、
良くわかる気がします。
『永遠も死ぬということを知った』
M・デュラス。『愛人』か何かに出てくる言葉でしょうか?


No title

忍れど…、確かに上手い歌ですね。
恋すてふ…、と対になっていて、この二首が百人一首の中でも最も巧みな歌だと思います。


茜さす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る

万葉では額田王のこの歌が好きです。
(万葉についても)あまり知識がないので、有名なこの歌です。

中学校の教科書に載っていて、そのころの淡い思いと重ねて読んだ思い出があります。
見つかってはならない恋というのがありました。
歴史をコンテクストに読む一般的な解釈だと、見つかってはならない切実で不道徳な事情がありますね。

そんなことは無視しても、いい歌だと思います。
言葉の音感がことごとく良いです。
忍れど…や、恋すてふ…などと同じく、忍ぶ恋、忍ばなければならない恋の淡い感じも好きです。


今日を限りの…、については、ひとつの文学的真実のような気がします。
死んでしまいたい、とは、この時間が永遠であって欲しいということですね。
デュラスが「永遠も死ぬということを知った」と書いていたのを思い出しました。

Re: そらまめさんへ

高校で百人一首大会ですか。楽しそうですねえ。
強制的にせよなんにせよ、詩とか歌とかを若い時代に丸暗記して、
それが、生活の折々にふと出てくるっていいですよね。
その時は文句を言っていても、いざ大会になって、
クラスの名誉がかかったりしてくると、俄然みんな燃えたりして。
中学、高校時代っていいですねえ。

そらまめさんは考え深い方だといつも思うけど、
高校の頃から、そうだったのね(笑)。
ものごとの意味や背景の物語が気になる・・・・・  
百人一首はそういうドラマ性に満ちています。
私は覚えるだけは小さい頃から覚えてたけど、それぞれの歌の
背景や意味をよく知ったのは、大人になって、子供に、
『マンガ百人一首事典』というのを買ってやってからです(笑)。
これがね、面白いの!マンガなんてって馬鹿に出来ない面白さ。
その歌の生まれた背景や、作者のことが漫画で楽しく読めちゃう。

『瀬をはやみ・・・』の歌。
大人っぽい歌が高校生の頃からお好きだったのね(笑)。
ロマンチックですよね。そして情熱的。
こういう歌を男女の間でやり取りするって憧れません?
「悲劇的だけど最後はハッピーエンドな情熱的な恋愛」
いいないいなあ!

恋は一生のもの。若い時だけのものじゃない。
彼岸花今頃それに気付いた。ちと遅すぎた感が・・・(汗!笑)
だからね、せめていろんなものごとに恋しようと思って。
月や流星や、青い蜜柑や、黒いしなやかな猫や冬の雨や、
ひとのあたたかい心や、いろんなものに。


No title

百人一首は高校生の時に習いました。
毎年必ず大会があるのでカナリの頻度でテストがありました。
丸暗記というより、その意味や背景の物語ばかり気になる脱線タイプ。
一番気に入っていたのが(ウル覚えなので調べました・失笑)
  
  『瀬をはやみ 岩にせかるる滝川の
         われても末に あはむとぞ思ふ』  

(岩にせき止められた滝川が二つに分かれてしまってもいずれ再び合流する
ように、例え今あなたと別れたとしても再び会いたいと思います。)

生まれ変わりや、悲劇的だけど最後はハッピーエンドな情熱的な恋愛に
憧れていた学生時代が懐かしい・・・・。(笑)
プロフィール

彼岸花さん

Author:彼岸花さん
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『しだかれて十薬忿怒の息吐けり』

『南亭雑記』の南亭師から頂戴した句。このブログになんともぴったりな句と思い、使わせていただきます。
十薬とはどくだみのこと。どくだみは踏みしだかれると
鮮烈な香りを発します。その青い香りは、さながら虐げられた若者の体から発する忿怒と抗議のエネルギーのよう。
暑い季節には、この強い歌を入口に掲げて、私も一民衆としての想いを熱く語りましょう。

そして季節は秋。
一足早いけれども、同じく南亭師からいただいた、この冬の句も掲げておきましょう。

『埋火に理不尽を焼べどくだみ荘』

埋火(うずみび)は、寝る前に囲炉裏や火鉢の燠火に灰をかぶせて火が消えてしまわぬようにしておいた炭火などのこと。翌朝またこの小さな火を掻き立てて新たな炭をくべ、朝餉の支度にかかるのです…

ペシャワール会
http://www1a.biglobe.ne.jp/peshawar/pekai/signup.html
国境なき医師団
http://www.msf.or.jp/donate/?grid=header02
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