『流星群の夜』

8月12日。
今宵は、ペルセウス座流星群がいちばんよく見られるという日。

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午後9時半。一度外に出てみた。
家の近くの路上の、街灯の光の当たらない暗がりの中で北北東近辺の空を見上げる。
この時間帯は、まだ近隣の人々も起きている。
去年、この界隈では、なにごとにつけ頼りにされていた、ある男性が亡くなった。
お年は82くらいでいらしたと聞いたかな。
お風呂の湯船の中で脳卒中を起こし、家族に気がつかれた時には
危篤状態であったという。元気なころは、本当に頼りになる、
立派な、落ちついた紳士でいらした。
根無し草の習性が抜けず、地域の人間関係などに疎いわたしは、
その人のことをどこかの学校の校長か教頭という感じかな、と思っていたが、
消防士でいらしたという。
一寸の気の緩みもない、それでいて周りに細やかな気配りの出来る、立派な方だった。
それが、晩年、ふとしたはずみで車で事故を起こされた。本人も大けが。
同乗していた奥さんはその時のショックで、それ以来口がきけなくなってしまった…!
その話を洩れ聞いたとき、わたしもかなり衝撃を受けた。

ああ!人生って、なんという悪戯をするのであろうか!
あんな立派な一家が!
息子さんも父のあとをついで消防士に。父君に似て沈着な人柄。
この界隈ではなにかあるとこの一家に相談を持ちかけていたものだ。
奥さんも、気丈な感じの、しかしやさしい人で、婦人会の中心的存在であった。
…その二人が、車の事故で、そんなことになるなんて…!
ことばを無くしてしまった奥さんを、ご主人はいたわりいたわり過ごしていたらしい。
わたしも葬儀の手伝いに行ったが、斎場で、言葉も出せずただ目を真っ赤にして
しきりにハンカチを使っていた奥さんの姿が痛々しかった。
慰めの言葉を受けても、ただ涙が新たに吹き上げてくるだけで、やはり言葉は出ず…。
人間の悲しみというもの。…時にこのような悪さをするのである。

しかし、ご主人が亡くなられてからは、息子さんがまた、地域の中心的存在になりつつある。

暗がりに佇んでいると、その家の二階に灯火がふと点り、若い奥さんの
姿がシルエットで見えた。無論向こうはわたしが表の暗がりに立っていることなど知らない。

ああ…!
人生の味わいの深さよ……!



…静かである。
と!ホトトギスが、上空を鳴いて渡った!
ああ、なんとぴったりの登場であろうか?!

それから10分ほど待って、
見えた。一筋の流星が!
そんなに大きくはなかったけれど、北北東の上空に。

その時は首が痛くなってきたので30分ほどで切り上げ、
11時過ぎ、再び外へ。
今度は敷きものを持ち、服装もパンツに履き替えて。
裏の川原の、草地に敷きものを広げて寝転がった。
今宵は十三夜の月が明るい。
星を観察するには不都合である。だから桜の並木が月を遮ってくれるような場所を選ぶ。
雲もうっすらかかっている。
ああ、今宵は絶好の流星群の夜というわけにはいかなそうだな…

夜8時半頃には、昼間のように鳴いていた油蝉も、さすがにこの時間には
眠りについたか、時折、何かに驚いて、ジジッ!と声を上げるのみ。
ただ、もの音と言えば、その蝉の寝ぼけ声と、川の流れが堰でたてるざあざあという音のみ。
ああ…静かだ…

と!
! 強い、大きな流れ星が一筋!
ああ!………


なにかことばに出せない感動。
しかし、その淡さ儚さ…!

去年私は、流れ星を、来るとも来ないともわからぬ気まぐれな恋人を待っている気持ちのようだ、
とブログに書いた。
本当にそんな感じなんだよなあ。流星というものは。

一晩待ったって、来てくれるかどうかは、なんの約束もないのである。
…だが、それはいきなりやってくる。
まるで気まぐれな若き神のように。


この晩は、12時過ぎまで、一時間、草原に寝転がっていたけれど、
見えたのは、この2筋の流れ星だけであった。
でもいいんだ、わたし。
あんなにきれいな、大きなくっきりした流れ星、みることが出来たんだもの。
ちゃんと願い事もできたもの。

…時折ひとは通った。大抵が、夜のジョギングをする人々である。
上の道を車が数台。
草原に寝転がっているわたし。人にはどう見えたのだろう…
でももういいの。何の制約もない。何の気遣いもいらない。
わたしはしたいことをするの♪

ただ…屈強そうなドーベルマンを2匹連れた40代くらいの男性が、
わたしが足音を聞きつけて身を起こしたのに驚き、
犬の手綱を強く引っ張って、草原の脇を通っていった。
20分ほどのち、その人がまた戻ってきた。
わたしが身を起こすと、「大丈夫ですか?」と、声をかけてきた。
声音が優しいひとである。
わたしは暗がりの中で破顔一笑。

「ペルセウス座流星群です。流れ星を観測している。」
そういうと、その人もぱっと笑って、「ああ、そうですか!」と言う。
空を見上げながらさらに2言3言会話を交わす間、獰猛そうなドーベルマン2匹はおとなしい。
「犬を置いたら、わたしも見てみますよ!」
そのひとは明るくそう言って、犬に引きずられながら、川原の暗闇に消えた…。

また、人目はばかることなく寝転がる。
ああ、なんという自由!
頭上はるかな暗がりに広がる宇宙とわたしと…。
宇宙の長い長い、広い広い、時間空間のスケールからすれば、
なんとちっぽけなこのわたし。
…でも。
ここに、この夜の草原に、変人のように一人寝転がっている、このわたし、という存在。
それは誰にも冒されない、わたし、である。
今、こうやって、認識しているわたしという人間。
その命がどんなに果敢なかろうと、わたしというものがかつてここにいた、ということ。
それは確かな事実なのだ……!



…それから約30分。寝転がって待ったけれど、流れ星はその後、
わたしを訪れてはくれなかった。
風が涼しく、草原はひんやりとして肌寒いほど。

今夜の流星との逢引はこれでおしまいにするとしよう……
敷き物をたたんで立ちあがった。




         『流星群の夜』

  今宵私は、流れ星に凌辱されました。

  今宵私は、流れ星に懐胎させられました…。










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Re: 乙山さんへ

乙山さん。こんばんは。

わたしも今、外から帰ってきたところです(笑)。
でも、わたしも今夜はみることが出来ませんでした。
ここら辺は鱗雲が空一面に広がって。でも、月は出ている。
月が明るすぎるからかなあ。星自体が見えませんでしたね。
でも、昨日は、そんな悪条件にも関わらず、あんなにくっきり見えたんだけどなあ…!

乙山さん。ご覧になれるといいですね。

カニグズバーグ。
わたし、『クロ―ディアの秘密』とか『ティ―パーティの謎』は
読んだのですが『流星の夜』は読んでないんです。
これはぜひ読まなくっちゃ!『ほんとうはひとつの話』の中にあるんですよね。

流星を見るのは疲れます。いっそ覚悟を決めて、寝転がって見ないと、
首は痛くなるし。
ああ、明日用事がないなら、今晩一晩中でも、草原に寝転がっていたいんですけれど、
そうもいかないので戻ってきました。
今回を逃すと、次は10,11,12月のオリオン、獅子座、ふたご座流星群と続きますが、
どれも、それほど活発な流星群ではないみたいですね。

ああ、でも、流星を見るのは幸せです!
乙山さん、ありがとうございます。

カニグズバーグ、流星の夜

こんばんは。
流星の話を聞いて、乙山はカニグズバーグの「流星の夜」を
思い出しました。岩波少年文庫に収録されているほか、
中学校の国語教科書にも掲載されていた話。

流星を、ひと目見てみようとベランダに。
ほぼ満月に近い月がひときわ輝いています。
雲はほとんどないはずなのに、
どういうわけか星が見えませんね。

あっ、気のせいか、南の空の低いところに
何かが光って走ったような……
流れ星かどうか、確認できていません。
また後ほど、ベランダに行ってみますね。

Re: waravinoさんへ

こんばんは。いい夏をお過ごしでいらっしゃいますか?^^

残念ながら、今年のペルセウス座流星群は、あまりいい観測条件じゃないんですよね~。
明日が満月で、月が明るいし、雲もうっすらとかかってる。
waravinoさん、海にいらしてご覧になれたかなあ。
夜半から明け方にかけて、と言いますよ。
その、数年前の流星群?どの時ですかねえ。
話によれば、ほんとすごかったらしいですものね。
わたしはその時たぶん、家のベランダにござを敷いて、頭をつきだすくらいにして
見ていたと思います。蚊取り線香にラジオ、ウイスキー水割りとおつまみ。(爆笑)
でも、視界が狭かったせいか、降るように、とまではいきませんでした。
それでも楽しかったなあ…。

初冬の獅子座流星群を見たときは、その大きさに感動しました。
あんな大きな流星、その前にも後にも見ていません。

さて。わたしもそろそろ出動してくるかな!(笑)
どうですかしら、waravinoさんがご覧になれているといいなあ……

ペルセウス座流星群

『流星群の夜』

  今宵私は、流れ星に凌辱されました。

  今宵私は、流れ星に懐胎させられました…。




・・・・聖マリア?^^;



冗談はさておき。
今宵・ペルセウス座流星群ですか!
10数年前に大規模な流星群があった時。
見損っているんですよね。
もう二度とないようなイベントだったのに!

今から海へ行って。
広い空を眺めることにします!!
教えてくださって。ありがとう!!^^)/

Re: さおるさんへ

さおるさん。こんばんは。

ふふ。変人1号、2号…。いいですねえ。
さおるさんは私以上に、わたしが喜ぶ言葉をご存じね。^^

わたしたち。変人道を貫きましょうね。手帳さんもね。
わたし時々「えらいやっちゃ、よいよいよいよい!」って、一揆につながりそうな踊り
踊るかもしれないけど、その時は放っておいてね。(笑)

今晩も川原に寝転がりま~す!(爆笑)

変人二号

彼岸花さんは、なんて素敵な変人であらせられるのだろう…。

私もせいぜい見習います。

Re: NANTEIさんへ

ふふ。最後の二行。いいでせう?(笑)

『花火と紛うほどの獅子座流星群』!!!
うわ~ん!いいないいなあ!!!
そういうの、一度でいいから見てみたいです!
うち、車がないからなあ…
来年あたり、いや、今年の獅子座流星群の頃、どこか旅にでも出てみるかな。

『あまりにも絶後の光景だったので、

懐胎した句は翌日流産してしまいました(大笑!』

大爆笑!
わたしは、今朝になってみると、想像妊娠だったことがわかりました(爆)。


No title

最後の二行、いいなあ^^。

今夜は一番多く見れるというから。

さてどんな二行詩になるのでせう^^。

私はその昔、九十九里の浜まで行って、
花火と紛うほどの獅子座流星群を浴びていました。

あまりにも絶後の光景だったので、

懐胎した句は翌日流産してしまいました(大笑!
プロフィール

彼岸花さん

Author:彼岸花さん
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『しだかれて十薬忿怒の息吐けり』

『南亭雑記』の南亭師から頂戴した句。このブログになんともぴったりな句と思い、使わせていただきます。
十薬とはどくだみのこと。どくだみは踏みしだかれると
鮮烈な香りを発します。その青い香りは、さながら虐げられた若者の体から発する忿怒と抗議のエネルギーのよう。
暑い季節には、この強い歌を入口に掲げて、私も一民衆としての想いを熱く語りましょう。

そして季節は秋。
一足早いけれども、同じく南亭師からいただいた、この冬の句も掲げておきましょう。

『埋火に理不尽を焼べどくだみ荘』

埋火(うずみび)は、寝る前に囲炉裏や火鉢の燠火に灰をかぶせて火が消えてしまわぬようにしておいた炭火などのこと。翌朝またこの小さな火を掻き立てて新たな炭をくべ、朝餉の支度にかかるのです…

ペシャワール会
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国境なき医師団
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