『本の美しさ』 私の「もの」がたり 其の八

先日の記事で、『小口の美しい本が買いたい』と書いた。

小口というのは、本の背の反対部分のこと。
私は、表紙裏表紙、見返し、扉…などといった、本の装丁の主要部分にも
もちろん魅力を感じるが、さして凝った本でなくても、この小口が綺麗に揃った
本やノートというものにもすごく心を惹かれる。

たとえばこの本などどうだろう。

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ねっ。小口が綺麗でしょう?
男の方のダークな色のジャケットの袖から一筋きりっと覗く
白いワイシャツの線みたいに綺麗でしょう?

本の表紙、ケースなどの体裁はこう。

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レースのカーテン越しの午後の光の中で撮ってみた。
本の中身も、ケースの白黒だけの渋い装丁も、実は白い部分が純白ではなく、
ごく淡いクリーム色を帯びていて美しい。
すてきな本でしょう?

と、書くと、うちにはこういう装丁の極めてセンスのいい本ばかりを
集めてあって、書棚はこういう本ばかり、と思われるかもしれないが、
実は、私の本棚には文庫本が多い。(笑)。
書店に行けば、今でも、装丁に意匠を凝らした魅力的な本はたくさん売られている。
が、何かひとつ強く惹きつけられない。
反発をかうかもしれないが、やはり一昔前の本のほうが装丁などに深い味があったと
私などには感じられてならない。

残念なのは、今言ったように、我が家にはそういった装丁のすてきな本がほとんどないことで、
2代3代と続いた家の出で、古い書棚には父母の、そして祖父母の読んだ本などが今もうず高く積んである、
などという人の話を聞くと、本当にうらやましくなる。

それで思い出すのは、以前、娘が住んでいた東京世田谷は下北沢の近く。
池ノ上という駅の近くにあった、『十二月文庫』というすてきな古本屋のことである。
せいぜい間口一間半ほどの小さな古書店。
ささやかにカフェもやっていて、入口脇のコーナーに小さなテーブルと椅子が置いてあり、
陽だまりの中で物色した本などを見ながら、コーヒーを飲めるようになっている。

私と娘が、散歩の途中で初めてこの古本屋兼カフェを見つけた時には、扉を開けて中に入った途端に、
たぶんオイストラフ演奏による、タルティー二『悪魔のトリル』が耳を撃ってきた。
それはもう、耳を撃った、というほどの鮮やかな印象。

見れば、小さな店の古本の棚の奥に、レジ台を兼ねるカウンター席があって、
そこに、30代?位の女店主が一人番をしていて、
その女性が、レコードをかけていたのである。

本は、と見て行くと、まず、童話、絵本、古今の小説、ちょっとした学術書、写真集など、
印象としては、どこに焦点のある古本屋かわからない、素人っぽい品揃えであった。
素人っぽい。・・・・そう、その言葉がぴったりする。
おそらく、であるが、おそらく、今、クラッシックのレコードを書けながら店番をしている
この若い女性店主の、家にあった本をそのまま売っているのではないか、という感じであった。
たぶん、彼女が、幼いころ読んでいた童話。
たぶん彼女のお父さんが集めた学術書。
たぶん彼女のお祖父さんが若いころ読んだ文学書・・・。
ささやかなおもちゃなども控えめにディスプレーしてあった。

C.V.ゲオルギューの『二十五時』、新保満著『石をもて追わるるごとく』など、
私よりさらに一世代か二世代前の人々の思想、教養書、といったような本が多かった。
いまどきの大型化した古書店などと違い、本の天地や小口に丁寧にやすりをかけ、
ビニールカバーやパウチをかけて新しくきれいに見せる、といった手入れもしてない。
本当に、ある古い家の古い書棚の本をそのまま持ってきて並べたという感じ。

でも、何か、温かいのである。
書店全体が午後の陽ざしを窓から取り込んでいるというだけでなく、温かいのである。
女性店主は無口な感じで、決して愛想がいいわけではないが、なぜか居心地は良かった。
さて、このちょっと不思議な古書店兼カフェで、その時何を買ったか、私は記憶がない。
娘は『悪魔のトリル』といい、非常に鮮やかな印象を受けたらしいので、買った物を
覚えているかもしれないが。
「いつかまた来て、その時はコーヒーでも飲もうか」と言いながら店を後にしたが、
その後娘は池ノ上を去ったので、私はそれきり、この店を訪ねていない。
(娘はその後2回ほど行ったようである)

今回この記事を書くにあたり、まだあの小さな店があるかどうか検索してみた。
そうしたらあった!
やはり心惹かれる方が多いようで、『十二月文庫』で検索すると、
何件か出てくる。店はその後、隣の店舗を買い取ってぶち抜きにし、
前よりずっと広くなったようである。
おそらくあの時の本の品揃えのまま店を続けられるわけがないから、
『悪魔のトリル』をかける女店主の嗜好と感覚で選んだすてきな本が
今はぎっしり詰まっているのではないだろうか。
カフェも少しだけ拡張したようである。

もう一度訪ねて、私好みの、凝った作りのすてきな古本を探してみようかな、という気もするが、
いやいや、あれは幻の本屋、あの時のままの素朴な思い出のままに、
と思う気持ちも、また一方で、ある。


さて。と言っても、私が好きな、私が愛せる!と思う本は、
ハードカバー、箱入りの立派な作りの昔の本だけなわけでもないので。

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ご存知、ハヤカワポケットミステリーブック。
と言っても、この本自体は、私もある人に紹介されて、Amazonを通じて買ったばかり。
この装丁を見、この少し縦長の本を手にした途端に、「愛せる!」と思ってしまった。
写真が下手で、この本の小口と天地の美しい黄色がはたしてよく出ているだろうか。
なにイエローと表現すればいいだろうか。
山吹色?カナリアイエロー?日本水仙のラッパの部分の色?

ピシッと裁断された、天地、小口の美しさ。
そこに塗られた本当に綺麗な黄色の美しさ。
いまどきのショッキングイエローなどではない、何か深みのある黄色である。
表紙は各本ごとに、違う油絵風の絵が使われている。

今でもこのシリーズ、大きな書店に行けばあるのだろうか。
そう思って、実は今日、私の街でも大きめの書店に行って確かめてみた。
あった。数は少ないがまだ出ていて、置いてあった。
でも少し心細くなる品揃え。買う人も少ないのだろうか。

ある時代の空気、ある時代の香りをとどめて、美しい本、愛せる本だと私は思うのだが。






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ジャンル : 学問・文化・芸術

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Re: neronekoさんへ

neroneko さんが反応なさるだろうと思ってました(笑)。
いいでしょう。
バタイユ全集このシリーズでは本当は15巻まであるらしいんですよ。
でも私が持ってるのはこれだけ。
これも実は古本屋さんで買ったものです。
でも、美本です。

本は小口からどうしても汚れますよね。
でもそれは仕方のないこと。
読まれて愛されてこそですから。
でも今日図書館に行ったら、借りようとしたへミングウェイの本のあちこちに
折り目がついているの。別のへミングウエイの本を見ると、
またそれにも折り目がついている。どうやら同じ人物が借りているのでしょう。
こんなのは、読書家にあるまじき行為ですよね。
自分の本なら勝手ですが、図書館の本をそんなことするなんて。

あ。つい怒りをぶつけてしまいました。ごめんなさい(笑)。

金井美恵子はあまり読んだことないんですよ~。
今度読んでみようかな。
検索で、表紙、見ました。やわらかい感じの装丁ですね。
愛する本は手元に置いておきたいですよね。
私も基本、文庫になってから読むことが多いので、自分の気に入った本は
ハードカバーの初版本であったら、という気持ちはよくわかります。
あとね。好きな本と図書館でしか会えない、というのも悲しいですよね。
今はすぐ、絶版になってしまうから。

No title

「眼球譚」をお持ちということだけで嬉しくなってしまうのはなぜなんでしょう。
装丁がお洒落ですね。
いいなあ。
箱付きというのもいいですね。
僕のは文庫版です。
「眼球譚」こそハードカバーで持つべき本ですね。

家にある本のほとんどは、小口が手垢で汚れています。
なるべく汚さないように読みたい本もあるのですが、なかなか思うようにいきません。
ハードカバーは古本屋で買うことが多いので、カビのような赤い斑点があるものさえあります。
その中で唯一配本と同時に購入したのは「金井美恵子全短編」で、装丁もなかなかいいのですが、もっさりとした若い男が買うのは恥ずかしかった記憶があります。

Re: 乙山さんへ

私はこの本を手にした時、普通の文庫本よりかなり縦長の版型とその持ちやすさ。
そうして何より、この、天地、小口の美しい黄色の色に魅かれてしまいました。
本文の紙も、わずかに黄色みを帯びていて、開いた時の印象もすごく
綺麗ですよね。
本当に、男の方の少し大きめのジャケットのポケットなどになら、
ちょっと気軽にしのばせて持って歩ける、といった作りです。

ハヤカワの他の本には、塗ってないんですね。
なぜこのシリーズに・・・・?
でも、キャンバスに油絵というタッチの表紙といい、とても魅力的な本ですよね。
廉価版でもこんなにすてきな本にできます、といういい例のような気がします。
きっと本の大好きな人々が最初に企画したのではないでしょうか。
私も謂れを調べてみたくなりました。

昔は天地小口に金箔塗りの豪華な全集本などよくありましたね。
子供のころはそういう本にも憧れていました(笑)。

Re: 鍵コメさんへ

ありがとう。ご心配おかけしてしまったでしょうか。

この記事を読んで、なぜこの本を?とか、あれ?一部内容が削除されたようだな
と疑問にお思いの方も、他においでかもしれないので、
鍵コメさんへの答えをあえて公開させていただきます。

まず、2冊写真を挙げた本の内容については、追及なさらないでください(笑)。
純粋に、装丁とか本の小口の美しさに関する記事です(笑い)。

ですので、最初は、「バタイユ『眼球譚』です。」という一文を入れていましたが、
まあ、単にすごいポルノの本にも思われかねない本なので、あえてここは
装丁だけを見てほしいということで、著者、タイトル紹介の一文をを削除しました。
ご存知の方はご存じだろうし、調べる方はお調べになるだろうし、ということで(笑)。

ハヤカワミステリーのほうも、内容はこの記事の狙いではないということで、
タイトルをあえて出していません。小口の美しさだけを見てほしいということなので。

あと、玉木正之さんの『二十五時』という本との出会いをお書きになったコラム記事
についての紹介文を最初は載せていましたが、ご指摘の通りあとで削除しました。
それでなくても長い私の記事なのに(笑)、さらに読んでください、と他の方の記事まで飛んでいただくのもなあ、と思って、紹介文とURL等を削除しました。

『二十五時』という本については、こちらは逆に、内容的に私はもっと深く触れたいという
想いもありまして、今回はいいかなと。
いつか、この本については、内容について書きたいなと思う本です。

というわけで、実はあまり深い意味があって、記事の一部を削除したわけでは
ありません(笑)。
ご心配をおかけしてしまいましたね。
でも、ご配慮、とっても嬉しかったです。ありがとうございます。

なぜか黄色

彼岸花さん、こんばんは。乙山です。
ハヤカワポケットミステリーは、なぜか昔から小口や天地が黄色に塗られていますね。
とくに小口は汚れやすいので、黄色に塗られているとそれが目立たない利点があるのではないかと思います。
ほかに、小口や天地に彩色した本は見かけません。
ハヤカワポケットミステリーの黄色がミステリーなのです。
まだ、ネットでは調べていません。

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暑い季節には、この強い歌を入口に掲げて、私も一民衆としての想いを熱く語りましょう。

そして季節は秋。
一足早いけれども、同じく南亭師からいただいた、この冬の句も掲げておきましょう。

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