『基本に戻って考える』其の二 『TPP と混合診療』

TPPに反対している者…私を含めてであるが、その反対理由の一つに、
『アメリカは混合診療の全面解禁を要求してくる。混合診療が認められれば、
自由診療が増え、健康保険による診療が縮小していって、高度で高額な先進治療を
受けられる者と、貧しいために、縮小した健康保険診療しか受けられない者と、
貧富の差によって、診療の格差が生まれてきてしまう。
そして、いつかは、日本が世界に誇るべき、国民皆保険制度が崩壊してしまう!』
…ということへの畏れがある。

TPP推進論の最先鋒である前原氏などは、アメリカが要求してくるかどうかさえ
わからないものを反対する人々はむやみに恐れている。
ありもしないものを恐れるというのは、TPPを、いもしないお化けのように
ただ恐れているだけだ。そう言って揶揄した。

ところが昨日、政府は、保険診療と保険外診療を併用する「混合診療」の全面解禁が
TPPで取り上げられる可能性を初めて認めた。

それでは『混合診療の全面解禁』がなぜ日本にとって将来禍根を残すことに
なりかねないと私が反対するのか。

ご存じだと思うが、日本では、国民健康保険や会社などの保険で診療を
受けることと、保険診療では認められていない、たとえば最先端の高度医療や
治験中で認可がまだされていない薬を治療に使ってみることの出来る自由診療、
すなわち保険外診療を併用することが、原則認められていない。
もし、癌などで基本的治療は保険を利用して受け、最先端の高度の医療は
保険外で、と望んでも、保険外診療を併用することを患者が選択したら、
医療費は、保険が本来適用される部分まで、自由診療の料金が適用され、
患者は高い医療費を請求されることになる。

…随分理不尽なシステムではないか!
混合診療を推進したい人々はここを問題と考える。混合診療を全面解禁すれば、
基礎的なものは保険で、高度なものはまあ、自由診療で、と選べて、患者の
医療費負担は随分軽減されて、どれほど助かるかしれない、と。

私も、そうだなあ、と思う。
それではなぜ、混合診療の全面解禁に反対するのか…。

例えば、歯科の例をとるとわかりやすいかもしれない。
軽い虫歯で歯医者さんに行く。それなら保険で大抵はやってもらうだろうから、
私たちの負担は2割か3割で済む。ところが入れ歯をしたいと考える。
保険で入れ歯を、と頼む。ところが医者は、インプラントなど、今は
優れた入れ歯の方法がありますよ、と紹介するだろう。
インプラントは目立たないし、歯茎に埋め込むわけだから、丈夫で簡単に
抜けてしまったりしない。
患者は迷う。なんとなく、医者は、健康保険で入れ歯を作ると言うと、
なんだ、貧乏人か!と思って、手抜きの治療しかしないんじゃないかなあ。
それだったら、老後の生活費に取っておくつもりの退職金の一部をつかって、
保険がきかなくて高額にはなるけど、インプラントの方にしてもらうか…!
…そう考える。

このようなことが、他の病気の治療でも起こってくるかもしれないのである。

別にいいじゃないか。医者だって、保険のきく治療だからって、そう手抜きの
治療はすまい。
日本人はそう考える。ところが、ところが、である。
TPPに加入し、おそらく力関係から言って、アメリカのルールが強引に採択され、
アメリカの保険会社が日本の市場にどんどん参入し、また外資系の病院が
つくられ増えて行き、製薬会社もどんどん参入してきたらどうなるだろう。
日本の、昔から何となくある『医は仁術』などという医への信頼はいつか根こそぎ
覆されてしまうかもしれない。
アメリカの保険会社や大病院、企業というものは、国民の利便などということより、
無駄を徹底して省いて利潤を追求していくのが大事というやり方である。
保険に入っているのに、これは保険の適用外だと病院への支払いを拒否されるかもしれない。
あなたが腎臓移植を受けたり心臓手術を受けたら、元気になって職場復帰しようとしても、
保険料の高額化をなるべく抑えたい会社は、再就職を拒否するかもしれない。
大病院の経営者は、徹底して無駄を省くことを医師に要求してくる。そしてお金のかかる
高額医療を患者に勧めるようプレッシャーをかけるであろう。
人員削減を徹底的に図るせいで、医師や看護師の負担が増大し、医療過誤も
増えるかもしれない。

もし、日本政府がこうしたアメリカの保険会社、病院、製薬会社などの
横暴に気づき、それを制限しようとしたとする。
するとそれらの会社は、日本政府を国際機関に訴えることが出来るのである。
そのような条項がTPPには入ってくると見られている。
前の記事で書いたが、アメリカと韓国のFTAにすでに、その恐ろしい例を見ることが出来る。

それに関連した条項をもう一度ここにコピーしよう。

(5)ISD:Investor-State Dispute Settlement。
韓国に投資した企業が、韓国の政策によって損害を被った場合、世界銀行
傘下の国際投資紛争仲裁センターに提訴できる。韓国で裁判は行わない。
韓国にだけ適用。

(6)Non-Violation Complaint:
米国企業が期待した利益を得られなかった場合、韓国がFTAに違反していな
くても、米国政府が米国企業の代わりに、国際機関に対して韓国を提訴で
きる。例えば米の民間医療保険会社が「韓国の公共制度である国民医療保険
のせいで営業がうまくいかない」として、米国政府に対し韓国を提訴するよ
う求める可能性がある。
下線文韓米FTAに反対する人たちはこれが乱用されるので
はないかと恐れている。


世界銀行傘下の国際投資紛争仲裁センターという、第三者機関に訴えるなら
公正な判断をしてくれるのでは、と思うだろうが、ところがどっこい!
この組織は、『投資』の利便を図るための国際組織であって、韓国民の
医療への願いなど、また、韓国政府がこれまで折角努力して作りあげてきた
国民医療保険の歴史など知ったことではない。
韓国は、そのアメリカの民間医療保険会社に大きな迷惑をかけたとして、
敗訴し、そこの会社に膨大な額の賠償金を支払うことを要求されるのである…。

一般庶民のセーフティネットである、国民医療保険はこうしてぐずぐずになって行く…
では、そんな条項は、そこだけ辞めればいいじゃないか、と思うかもしれないが、
それが出来ない仕組みになっている。

(2)Ratchet条項:
   一度規制を緩和するとどんなことがあっても元に戻せない、狂牛病が発生
   しても牛肉の輸入を中断できない。
 

韓国の識者が、日本はTPP加入を急ぐな。韓国のこれからを見て学べ、
と、深い憂慮をこめて忠告する所以はそういうところにある。


ありもしないTPPお化けをやみくもに恐れているというのではなく、
日本でも現実にそういう恐ろしいお化けが上陸してくるかもしれないということである。

アメリカの息のかかったそうしたものを選ばなければいいではないか。
ということも言えそうだが、
(5)のISD条項というのはそんな国民の選択とは無関係に、
日本政府や県や市町村、また企業をアメリカの企業が訴えてき、多額の賠償金を
むしり取られるかもしれないもの。あるいは国民健康保険のようなセーフティネットそのもの、
日本が世界に誇れる国民皆保険制度が脅かされる、ということになりかねないものである。

また、私たち自身が、お金さえ余裕があれば、よりよい医療行為を受けたいと
願う。それは当然である。また、医者の側も、点数の決まった保険治療よりも、
自由に診療報酬の決められる保険外診療を勧めたくもなるであろう。
…こうして、徐々に徐々に、保険外診療のシェアが伸びていくと、
保険診療は効率的でなくなり、加入者は減ってやがて経営的に苦しくなっていくであろう。
国や地方公共団体、企業にとって健康保険制度が重荷になってくる…
今でさえ、それらの団体にとっては、保険料の支払いが負担なのである。
TPP推進派の本当の狙いは、保険制度を壊してしまって、楽になりたいからだ、という
極端な論まであるくらいだ。 

国民皆保険制度は、アメリカ資本の参入とアメリカルールの押しつけ。
また日本国民自身が、自由診療を望むことなどによって、徐々に
こうやって先細りになり、やがて崩壊してしまうかもしれない!
…それを、TPPに反対する者は、憂慮しているのである……。

まさか、極端な!と思うかもしれないが、日本は今はまだ、自分を中流階級だと
思っているひとが多いであろう。お金を出してより高度な医療を受けられる人も
多いだろう。
しかし、中流であること、などは、脆いものである。
かつて私などがその豊かさに憧れた、アメリカの中流階級の暮らし、……
それが、新自由主義経済によって、一挙に下層の暮らしに転落する例が多くなっている。
その彼らを民間の高額の医療保険金の支払いが苦しめる…支払いが滞れば、
一挙に無保険という最悪の状態に転落である。

『自由』という言葉は、極めて聞こえがいい。
『グローバル』という言葉も、とてもすてきそうだ。

しかし、新自由主義でものが多国間で交流して人も流れる…貨幣も回る…
一見よさそうだが、それが、冷酷な企業の論理、大国の国益、しかも大金持ちにとっての
国益で、ぐいぐいと進められていくとき、弱者はますます搾取されるという構造は、
何もTPPを待たずとも、これまでのアメリカのやり口を見れば、容易に想像できるのである。

次の記事で、アメリカの医療制度について語り、極端に『医』の世界で
自由化が進むとどういう国になるのか、といったことを書いてみたい。

それを教えてくれたのは、この本である。


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堤未果さん。『ルポ 貧困大国アメリカ』
この本は2008年度日本エッセイスト・クラブ賞を受賞している。
私は、この本を、2年前読んで大変にショックを受けた。
そのころ私は、原発のことを一所懸命調べていた。
そして、医療制度の崩壊ということも、原発事故ということも、
根っこは同じだ、と痛感した。
堤未果さん。お顔を拝見するととても若いかたである。しかし、すごい取材力!
世の中にはこんな人もいるのだなあ、と2年前はただ感心していたのだが、
ごく最近、彼女がフリージャーナリスト、故ばばこういちさんのお嬢さんだと知った。
驚いた。なるほどなあ、と思った。

ちなみに、診療に関してですが、私自身の理想を言えば、
保険診療で、先進医療を享受することが出来る…、その幅がもっともっと
広がって行けばいいなあと考えています。
まあでも、それもまた、国や地方自治体、企業の保険制度自体が
負担オーバーになってしまうだろうし。
バランスが難しいところです…。


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Re: メルロンさんへ

メルロンさん。こんにちは~♪

おお~!
これ、すごい生情報です。本というものも、いくらしっかりした人の本でも、
100%丸々、信用してはいけないと、いつも思っています。
どんなに公平なつもりでも、やはり、その人のバイアスというものは
かかっていると思うからです。
そういった意味で、堤未果さん以外の情報もしりたいなあ、と思っていた
ところなんですよ。だからすごくありがたいです。
これ、次の記事で引用させていただいていいでしょうか?

本当に、アメリカの医療事情はひどいんですねえ。
ヒラリー・クリントンさんが生涯の仕事として、国民皆保険制度を
やりたがっているけれど、医師会や、製薬会社や、その他もろもろの
団体から反対を受けて、一向に進みませんね。
日本もこうならなければいいが、と本当に心配です。
知れば知るほどぞ~っとしてくるようです。たかが盲腸で700万円!
家族が一人少し重い病気になると、中流から転落というのも
本当なのかな、と思えてきますね。

メルロンさん。ありがとうございます♪
こうやって、教えていただいたり情報交換したりして、国民が賢くなって、
国が変なことしないよう、しっかり見て行かないとだめですね!
これからもどうぞよろしく~♪

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Re: 大門先生へ

いよいよもうすぐ東北ですかぁ。
すごい企画ですねえ!きっと多くのかたが喜んで迎えてくださいますよ。

旅の様子。また聞かせていただけるの、楽しみにしています。
行ってらっしゃ~い!!!

Re: 愛希穂。さんへ

TPP。反対派の議員さんも頑張ったけれど、結局、党を離脱する!と
いうほどの覚悟はなかったようですね。
『提言』。いったい何ですかね。あんなに盛りあがった割には尻すぼみだなあ。
自民党の農政族にもっと頑張ってほしかったなあ(笑)。
選挙のときだけでなく、こんな時こそ、農民の側に立たなくてどうする!
という感じですね。
…それにしても…アメリカとの関係を悪くしたくない…とただそれを恐れて、
こんな協定、結んでいいんでしょうか…!
もっと詳しいTPPの情報を集めて、将来にわたる精緻な分析をして
それでもなお、というのなら、まだしもですけれどね。
それでも私は、反対!!!
野田さんはオバマさんの機嫌取りだけのために参加!って言い張っているような。
国民の方を向いていませんね。オバマさんと米倉経団連会長のポチ!

内政では泥にもぐる泥鰌を決め込み、なんで海外に向けてだけ
美しく聞こえる歌を歌う小鳥になりたがるだろうか!

グローバル、という言葉も英語で言うとなんだかいかにもよさそうだけれど、
極めて肯定的なイメージで日本で捉えているのとは、おっしゃるように、
海外での受け取り方は違うようですね。
強大な国のルールの押しつけと我儘と同義語のような…

それにしても、…このまま参加、となるのでしょうか…
残念で心配です。

No title

行って来ますぅうううううううううう!

No title

TPP議論、大詰めですよね。
今朝、いつも見ているテレビ朝日でTPPについて取り上げていました。
解説者に元経産省官僚を呼んでいました。露骨な賛成派ではありませんでしたが、でも、賛成派であることに変わりはなく、TPPに参加表明すべきとの必死な感じが哀れでした。

何を要求されるか分からないし、要求されたとしても、アメリカのいいなりの現政権にまともな交渉ができる能力があるとも思えません。
きちっと国民にメリットもディメリットも包み隠さず公開して、議論を高めて、それでもどうしてもTPPに参加したいのだ、という声が大きいのであれば、その時はそれで仕方がないかもしれませんが、何の議論もなされず、自らのメンツだけで事を進め、マイナスの結果だけ国民におしつけられるのは、もういやです。

イタリアのように、「野田辞めろ」のデモでもあったらいいのでしょうが・・・。
「グローバル」と言いますが、世界の人は今、その「グローバル化」に反対して始めているとも聞きます。
英語の響きに欺されず、これをしたら、どういう結果が予想されのか、それを選択した結果の責任を自分は取れるのか、自分でちゃんと考えて決断できるようにならなくてはいけませんね。
そのところが全然できないで、全てをお上任せにしてきた結果が、自戒を込めてですが、今の日本なんですよね。

原発事故を通して、国やマスコミや官僚がどんなに国民を欺していたか、特にどのマスコミも政府の意見を支持しているときは、誤魔化しがあるとよ~く分かった今、なおさらTPPにはとんでもない裏を感じてしまいます。

TPP反対派の議員さんたちにはあきらめずに頑張ってほしいですね。
プロフィール

彼岸花さん

Author:彼岸花さん
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『しだかれて十薬忿怒の息吐けり』

『南亭雑記』の南亭師から頂戴した句。このブログになんともぴったりな句と思い、使わせていただきます。
十薬とはどくだみのこと。どくだみは踏みしだかれると
鮮烈な香りを発します。その青い香りは、さながら虐げられた若者の体から発する忿怒と抗議のエネルギーのよう。
暑い季節には、この強い歌を入口に掲げて、私も一民衆としての想いを熱く語りましょう。

そして季節は秋。
一足早いけれども、同じく南亭師からいただいた、この冬の句も掲げておきましょう。

『埋火に理不尽を焼べどくだみ荘』

埋火(うずみび)は、寝る前に囲炉裏や火鉢の燠火に灰をかぶせて火が消えてしまわぬようにしておいた炭火などのこと。翌朝またこの小さな火を掻き立てて新たな炭をくべ、朝餉の支度にかかるのです…

ペシャワール会
http://www1a.biglobe.ne.jp/peshawar/pekai/signup.html
国境なき医師団
http://www.msf.or.jp/donate/?grid=header02
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