『本の運命__付記』

先回の記事について、調べたことやわかったことを少し。

本の間に入っていた、一円札の新札。
肖像の主である人物について「武内大臣って誰?」と、無責任に書き飛ばしていたが、
この際だから、と反省して少し調べてみた(笑)。

武内大臣。
  武内宿禰(たけうちのすくね・たけのうちの-・たけしうちの- 、
  景行天皇14年(84年) - 仁徳天皇55年(367年)4月?)は、
  『古事記』『日本書紀』で大和朝廷初期(景行・成務・仲哀・応神・仁徳天皇の5代の天皇の時期)に
  棟梁之臣・大臣として仕え、国政を補佐したとされる伝説的人物。
  建内宿禰とも表記される。
  紀・巨勢・平群・葛城・蘇我氏などの中央諸豪族の祖とされるが詳細は不明。
                             (以上、Wikipediaによる)

そっかあ!建内宿禰(たけのうちのすくね)、のことかあ!
そう書いてくれて、そう読めれば、なんとなく私にだってわかったのにな・・・。
そう思ったが、実はたけのうちのすくね、だって、どんな人かよくは知らなかった彼岸花(笑)。
でも、肖像の主がはっきりしてすっきりした。
すっきりついでにもう一つ。
この、ピカピカの一円札。一体いつのものか、そしてどのくらいの価値があるのか、と
皆さんもお思いになりませんか? 調べてみました(笑)。

お札には「日本銀行兌換銀券」と書いてある。
つまり当時は、一円相当の銀と交換できたわけである。
今でも、この紙幣は通用する。ただし、価値は額面通り、一円!(笑)

ではいったいいつ発行されたものだろう、ということで一円札の歴史を調べてみた。
一円札には、旧一円券、改造一円券、い号券、A号券の4種があるらしい。
旧一円券は1885年(明治18年)発行。絵柄は大黒天。
札を丈夫にするために、こんにゃくを混ぜて作られていたため、虫やネズミに食べられるという
欠点があり、そのために出されたのが、改造一円券。
改造一円券は、絵柄は武内大臣。
い号券は1943年(昭和18年)発行。
絵柄はやはり武内大臣。戦局が悪化したため、物資が不足になり、
きわめて粗悪な紙幣であったらしい。
A号券は、絵柄は二宮尊徳。1946年(昭和21年)発行。

さて、私が手にしているこの武内大臣の一円札。
改造一円券なのか、い号券なのか。
い号券だったらがっかりだな。
なぜならば、先回の記事で書いた、私のロマンチックな想像が否定されてしまうから。

どんな想像をしていたか。
この紙幣が挟まっていた外国人向けの冊子は、1936年(昭和11年)5月に、國際観光協會が
東京日本橋丸善で売り出したものである。発売所は丸善と東京駅構内にあったジャパン・ツーリスト・
ビューロー、すなわち日本旅行協會。
昭和11年と言えば、二・ニ六事件のあった年。日中戦争突入の前年である。
時代は不穏な空気に包まれていたはず。英米等との関係も悪化しつつあった。
しかしまだ、英米からの観光客はあったとみえる。というのも、それでなければ、
この本のような英文の観光案内が新たに出版されるわけがないから。

さて、ここからは私のたくましい想像世界(笑)。
日本橋丸善、あるいは東京駅で、ひとりの外国人がこの本を買う。
最初は男性を想像していたが、着物の美についての本だから、ひょっとすると、女の人かも。
どんな人だったかな。キャサリン・ヘップバーンのようなすらりと背の高い、
いかにもインテリ女性という感じの人だったかもな。
胸や腰の膨らみ、そしてウエストのくびれなど体のラインを強調した、きりりとした
タイトスカートのツーピースを着てたかな。旅先だからパンツルックだったかな。

彼、または彼女は、日本での仕事を抱えていて、落ちついたのは神戸の街である。
なぜ、神戸か、と言うと、この本が次に人手に渡ったのが、神戸の海岸通り一丁目にあった
J.L.Thomspson & Co.,Ltd という会社にであったということが、小さな書票で読みとれるからである。
当時の神戸。神戸から芦屋、宝塚、西宮などにかけて、『阪神間モダニズム』と呼ばれる、
和洋折衷の華やかでお洒落な文化圏を形成しかかっていた頃である。
 
『 昭和初期の1930年代になると、海に面して神戸郵船ビル以東、香港上海銀行、海岸ビル、
  商船三井ビル、オリエンタルホテル、神港ビル、チャータード銀行といった
  石造建築が連続する洗練された都市景観を形成していた。』(Wiki による)

ああ!浪漫的!(笑)
海岸通りのその洋書店には、世界から日本を訪れていた外国人たちが本を売ったり買ったり
しに来て、また当時の新興文化人、富裕層の日本人なども訪れていたかもしれないな。
しかし…。

私の想像はさらに続く。
翌年日本は、日中戦争に突入。アジアへの侵略(敢えて私はそう言う。)を強めていく。
欧米列強との関係は悪化。独伊の友好国以外の西洋人は、次々に日本を離れ本国へ帰っていく。
この本の持ち主も、日本を離れることを決意。神戸の住居をたたみ、家具調度品なども処分。
日本で買い集めた書籍なども大事なものを除き、このJ.L.Thompson & Co.,Ltd という書店に
処分を頼んだのではなかろうか。
綺麗な一円札を、本の間に挟んだことは忘れたまま・・・・。

大量に処分されたもののうちの一冊であろう、ということは、古書店の店主がお札に気付かなかった、
というところから、判断したわけで(笑)。
そうしてそれは、さらに、東京神田の一誠堂という古書店に。書票が貼ってあるからわかる。
そこからさらにどうやって我が家に来たか、は、記憶がないのである。

さて、彼岸花古書探偵の推理はさらに続く(笑)。
この一円札。先にあげた4種の一円札の中のどれに属するか、と言うと。
改造一円札というものにあたる。
私はこれを調べていくうちに、これが、い号券だったらいやだなあ、と恐れていた。
い号券は絵柄はやはり武内大臣。昭和18年発行。
太平洋戦争まっただ中である。
そうすると。戦争に突入する前の、まだ英米向けの本が発行されていた頃に、ひとりの
英米圏の人がこの本を丸善で買った、という私の美しい想像が崩れてしまうではないか(笑)。

だがご安心。い号券はもっと粗悪で、しかもデザインが私のとは違っていた。
それでは私の改造一円券はいつ発行されたものか、と言うと、
実は2回にわたって出されている。最初のものは1886年(明治22年)発行。
ただし、これは漢数字で通し番号が振られているらしいから、私のとは違う。
1916年(大正5年)8月15日発行。これだな!!
ここから先発行されたものには通し番号がアラビア数字で振ってあるのである。

このお札がオークションなどで好事家の間でどのくらいの価値があるのかも、
ついでだから調べてみた(笑)。
改造一円券。漢数字の明治22年のものなら汚れていても一万円くらいの価値。
私のもののようなアラビア数字のものだと、未使用のピカピカでも、せいぜい千円(笑)。
んまぁ、そんなところだな。

でも、そんなことはどうでもいいのである。
要するにこれは、ロマンなのだから。
私の想像をかきたてる、美しいロマンなのだから。

さらにもう一つ。
J.L.Thompson & Co.,Ltd という書店。
これがまた、強く想像をかきたてないだろうか?
戦前の神戸の雰囲気。ああ!憧れがかきたてられないか?
海岸通り一丁目。どんな風景で、どんな感じの店だったのだろう・・・・。

で。検索してみたのである。

虚しく関係ない項目ばかりが延々と続く。
Thompson はThompson でも違う人ばかり・・・・。Ltd だけでつながっているまったく関係ないものまで。
もうこの古書店は、神戸にもどこにもないんだな。
もうばかばかしいからやめよう・・・。
そう思っていたときに、あった!!
J.L.Thompson & co.,Ltd  Kobe.....
これだこれだ!
Books on Japan というページにたくさん、日本についての外国書籍のリストが載っている中に、
一冊、根付についての本が、1928年11月に、J.L.Thompson & Co.,Ltd から出されている。

ん?とすると、ここは古書店ではなく、出版社?
想像がガラガラと崩れていく(笑)。

でも、この本を出したのは確かに國際觀光協會で、売ったのは丸善と東京駅構内だ。
どういうこと?
でも、いいや。
いいではないか。
たった一冊の本の間に挟まっていた一円札が、これだけ楽しい想像をさせてくれるのだから。


束の間、いたずらな想像を膨らませて、憂さは忘れて・・・・・



海岸通りの風景今昔に興味のある方は、こちらをどうぞ。
http://www5f.biglobe.ne.jp/~yamamura/koube_kaigandouri_motomachi.htm

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ジャンル : 学問・文化・芸術

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Re: 乙山さんへ

そうですね。時々挟まってますよね。
レシート、チケットの類が一番多いでしょうか。

大抵は、その人を感じさせないものが多いんですが、
たまに、その本の前の持ち主の存在を身近過ぎるくらい
感じさせるものがありますね。

ずっと以前、割といい本置いている古書店で、
スクラップ帳のようなものを見つけたんですよ。
古本の山に埋もれていた。
そこには、スケッチのようなもの、何かのデザインの下書き、
メモ、チケットなど、いろいろなものが貼ってあったり、挟んであったり。

さすがにそれはあまりにも生々しくて、しげしげと覗きこむことも
できませんでした。

今回の記事は、ちょっと遊んでみました(笑)。

持ち主の痕跡

彼岸花さん、こんばんは。
買った古本に何かが挟まっていること、わりとありますよ。
栞代わりに使っていたと思われる紙片に、なにか書き込みがしてあったり。
だけど昔のお札が挟まっていた経験はありません。
忘れられたものたちから、想像と推理を働かせるところが、
彼岸花さんらしいですね。

Re: neroneko さんへ

気持ち悪くないですよ。
その感じよくわかります。
ただ同居人の方にしてみれば、たとえ小学生の筆跡であろうと、
異性の書いたものをneronekoさんがじっとご覧になっていれば、ちょっと
複雑な気分にもなろうというもの。その気持ちもわかります(笑)。

私も昔、『耳を澄ませば』のような気持ちになったことはありますよ。
学校で本を借りたら、好きな子が私の前に借りている。嬉しいですよね。
そんなことが偶然重なったりしたら!

古本の間には結構いろんなものが挟まっていることがあります。
切符とか、展覧会の半券とか、メモとか、押し花とか(笑)。
特に、内容に関するメモなどは、その人の人柄や、本のどこに興味を
持ったか、が分かって、何よりも生々しいです。
つい先日買った本の中にもそういうメモが。

彼岸花本屋探偵は、まったく想像で元の持ち主を語っていますので、
おそらく事実はこれとはまったく違っていただろうと思います。
でもね、案外合ってるかも。もしお札を挟んだのがもっと後の時代の
日本人なら、なにもこの少し小汚い本の間に挟むことはないですよね。
もっと適当な本があるはず。
私はたぶん、その外国の人が、丸善か東京駅で、この本を買って、
お釣りの中にこの新札が入っていた、とみるんですよ。
日本に来たばかりのその人は、日本の新しいお札を見慣れてない。
おお、Japan の綺麗な紙幣、珍しいねー!、と思ってそのまま
買ったばかりの本の間に挟んだんじゃないか、と(笑)。

No title

以前、図書館で借りてきたエンデの童話集に、女の子らしいメモ帳の切れ端が挟んであったことがありました。
何かのレシピだったと思うのですが、小学生の筆跡で、材料の配分などが書いてありました。
何だろうと思ってしげしげと見ている僕を、同居人が気持ち悪がって、そのメモを捨ててしまいました。

「耳をすませば」というアニメに、自分が借りた図書館の本の貸し出し記録の名前が気になる、という描写がありますが、何となくそれに近い不思議な感情があったかも知れません。
確かに気持ち悪いですね(笑)。

古本の以前の持ち主を想像して、探してみる。
(少し違うかも知れませんが、)「アメリ」みたいで面白いです。
プロフィール

彼岸花さん

Author:彼岸花さん
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『しだかれて十薬忿怒の息吐けり』

『南亭雑記』の南亭師から頂戴した句。このブログになんともぴったりな句と思い、使わせていただきます。
十薬とはどくだみのこと。どくだみは踏みしだかれると
鮮烈な香りを発します。その青い香りは、さながら虐げられた若者の体から発する忿怒と抗議のエネルギーのよう。
暑い季節には、この強い歌を入口に掲げて、私も一民衆としての想いを熱く語りましょう。

そして季節は秋。
一足早いけれども、同じく南亭師からいただいた、この冬の句も掲げておきましょう。

『埋火に理不尽を焼べどくだみ荘』

埋火(うずみび)は、寝る前に囲炉裏や火鉢の燠火に灰をかぶせて火が消えてしまわぬようにしておいた炭火などのこと。翌朝またこの小さな火を掻き立てて新たな炭をくべ、朝餉の支度にかかるのです…

ペシャワール会
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