『雛祭り』 愛しき(かなしき)もの 其の十四

明日は3月3日。桃の節句である。

子供が小さい頃は、正月に始まって、七草粥、節分、桃の節句など、
年中行事は一応大切にやっていた。しかし、子供が独立して家を出てからは、
狭い家に場所をとる七段飾りを飾る気力もなくなり、もうずっと、
お雛様たちは押し入れの中に入ったままであった。

しかし、先日娘がお雛様を絵の中に描きこみたいというので、
押し入れをごそごそして、お内裏様とお雛様だけを取り出した。
で、今年はその流れで、簡単にお雛様、飾ってみました。
我が家のお雛さま。屏風もなしでごめんなさい。

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おや、お雛様の裾のあたりにあるこの箱は何?

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開けてみましょう。

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おや。箱の中で、ハンカチーフのお布団で眠っている子は誰?
20年ぶりくらいに起こしてみましょう。
「これ。起きなさい。ちょっと目を覚まして出てらっしゃい。」

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こんな子が出てきました。まだ眠くてぼうっとしています。

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そっちじゃないのよ。こっち。
ちゃんと皆様にご挨拶してね。

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こんばんは。
ここどこ?

めちゃん家(ち)よ。めちゃんはおるすよ。

ふ~ん…。…


はい。この子が誰かと言うと、実はこの子はろうそく(笑)。
今から、そう…。今から33年前くらいの雛祭りの、
デコレーションケーキの上に飾ってあった、ろうそくのお人形。
不二家か何かの出来合いのデコレーションケーキだった。
身長は5センチ。

娘が3歳の雛祭りの日。ケーキを食べ終わって、片づけをするとき、
一応この人形はクリームなどをふき取って、取り除けておいた。
「これいる?」と訊くと、娘は「いる。」と言う。

それからこの子はしばらくの間、娘のおもちゃ箱の中に、
他のガラクタおもちゃと共に放り込まれたまま、大切にもされないで
そこにいた。
が、一年くらい後のあるとき、増えてきたおもちゃを整理していて、私はこの人形を見つけ、
そばにあった屑籠の中に何気なくふと捨てた。
だって、顔はおもちゃ箱の中で擦れて汚れ、髪の毛も剥がれかけて
あまり綺麗じゃなかったから。

ちょうどその時、部屋に入ってきた娘が、私の動作を見た。

「あっ!」
娘は叫んで屑籠に突進した。
「これ。めちゃんの!これめちゃんの大事なのなの!
捨てちゃだめなの!」

屑籠から人形をすくい上げる動作の速かったこと!(笑)

「だって、もうだいぶ汚れてきたなくなってるし、第一、おもちゃ箱に入れたまま、
ずうっと遊んだりしてなかったじゃないの」
私がそう言っても、娘は小さな人形を抱きしめて、絶対に捨てちゃだめなんだ、と言う。

それ以来、この箱が、小さなろうそく人形のベッド兼住まいになった。
娘は進学のため家を出た時もこの人形を持って行った。
数度の引っ越しにもこの人形はいつも一緒。
と言って、幼いころから、ままごとや人形遊びは好まない娘。
別に可愛がるというわけでもない。
ただ、捨ててはだめ、なのだそうである。

世田谷区は下北沢というところに、昭和の頃のしっかりしたアンティーク家具を扱う店が
あった。娘が、猫の『にゃー』をかまっていた頃のことである。
そこで娘は、飾り棚付きの茶箪笥を買った。
それからずっと、この子は、箱に入ったまま、その茶箪笥の、襖つきの小部屋のような
ところに入っている。

今回記事にするために娘のところから借りてきた。
「これ、ちょっと借りてっていい?」
私が尋ねると、娘はきっ!と言う感じで振りかえって、「なぜ?」と訊く。
その顔が、32年前のあの日とまったく同じ(笑)。

私が増え続ける荷物を少しでも減らそうと、要らない衣服や鏡台の中の
古いアクセサリを捨てようとしていたとき、娘が飛んで来て私の手から
ひったくるようにしてすくい上げた紅い玉のネックレス。
あの時も同じ顔をしていたな。
だってそのネックレス。私が1970年代くらいに買ったただのプラスチックの、
やたらに大玉の流行遅れの真っ赤なネックレス。もういらないと私は思ったのだ。
でも、娘にとっては、母の鏡台を開けると一番に目に飛び込んでき続けた、
いわば、私という母親そのものを象徴するようなものであったらしいのだ。

さあ。またお布団に入りましょうね。
お雛様が終わるまでここにいなさい。
終わったらまた箱の中で眠るのよ。

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この子の名ですか。
名前は『あずさ』

4歳の娘がつけた名前。
なんでだか知りません(笑)。
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ジャンル : 学問・文化・芸術

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Re:手帳さんへ

> お嬢さんぴちぴちっとして利発な方だったんですね。

ありがとうございます。利発かどうかはともかくとして(笑)、記事を書くときに、
娘のそのぴちぴちっとした性格の部分を出したくて、書いたのだった気がします。
だから、手帳さんに、そういう風に敏感に感じ取っていただけると
とっても嬉しいです。今でも、意志のはっきりした子ではあります(笑)。

> 私の母は「赤毛のアン」が好きと言う割には夢見る私を許せないようでした。
> 友達が欲しくてたまらなくて、でも出来ない私に
> 「友達なんて頼れないんだから!期待しては駄目よ!家族がいるじゃないの!」
> と頓珍漢な慰めをしてくれました。
> 心から、思いやりを持って。

ここのところを読んで、本当に微笑ましく。
すてきなお母様ですね。私も「赤毛のアン」は大好きなのです。
手帳さんのような豊かな感性を持ったお嬢さんをお育てになるお母さまは、
どんな方かな、と思っていましたが、これでなんとなく像が結べる気がします(笑)。
「赤毛のアン」をお好きということは、夢見ることがお好きな女らしい方。
でも、一方でシビアな目もお持ち。
しかし、そのシビアさを直に出すほど単純な方ではない。
知性に裏打ちされた、優れたユーモア感覚で物事を見る。……

どうですか?(笑)手帳さんのことを言ってる気もしますが。

きっとね。お母さんのやさしさというものも、一人一人違う味わいを持って
いるのでしょうね。
一人の中でも変容していきます。
私は今は大甘な母ですが、子供が小さい頃は、とても厳しい母親だったんですよ。
信じられますか?外出先でぐずったりしようものなら、一睨みで黙らせていました(笑)。
だから、全然ぐずらない子に(笑)。


『人の優しさは幾色もある』…。ほんとですね。私もそう思います。
私はブログを始めてから、そのことを特に強く感じます。
お会いする方、お一人一人のやさしさが皆違うんですよ。
私が悲しみに沈んでいたとき…
くいっ!と強く「悲しむんじゃない」と言ってくださっているような
強い優しさもあれば、穏やかな言葉でこころをふ~っと癒してくれる優しさもある。
無言で遠くから、でも絶対に見ていてくれる、と伝わって来るそんな優しさもある。
いろんな優しさをいただきました。

No title

お嬢さんぴちぴちっとして利発な方だったんですね。
そしてうらやましいな、彼岸花さんのようなお母さんを持って。
私の母は「赤毛のアン」が好きと言う割には夢見る私を許せないようでした。
友達が欲しくてたまらなくて、でも出来ない私に
「友達なんて頼れないんだから!期待しては駄目よ!家族がいるじゃないの!」
と頓珍漢な慰めをしてくれました。
心から、思いやりを持って。
不思議ですね。人の優しさは幾色もある。
彼岸花さんはわからないものを、わからないままに受け止めてあげたのですね。

Re: 依里さんへ

> 丁寧なコメント頂いたので、私も拍手返信を練っている最中です(笑)

楽しみにしています(笑)。


ああ、やはりそうでしたか。
私は短いコメントの中に、ふっと依里さんの声を聞いたような気がしたのです。
これでもね、長いこと生きてますから、なんとなく、悲しみの気配はわかるのです。

でも、依里さんは立派です。
『行動は気持ちを引き摺り込んでしまうことがある』って本当。
ネガティブな文章。それが自分の負の感情をさらにあおる。
そんなことならいっそ、すっぱりとその余分なものは切り捨ててしまう。
自分の立ち姿を崩さない、という依里さんの強い意志を感じます。

『すっくと立つ』というのは美しいことです。

私はいまだにそれができません。

でもね、ときどき、ほんとにときどき、それどもどうにもならなくなったら、
どうぞ彼岸花をお訪ねください。
たまにぐずぐずになってみるのも、あとがさっぱりすっきりしますからね。
覚えていてくださいね。





きっといろいろな想いがおありなのでしょう。

No title

拍手コメントありがとうございました。
丁寧なコメント頂いたので、私も拍手返信を練っている最中です(笑)

前コメント、本当は長く書いていました。
けれど、ネガティブなそれを見て、書き直してしまいました。
悲しいから泣くのではない、泣くから悲しいのだ、と誰かが言ったように、行動は気持ちを引き摺り込んでしまうことがありますから。。。

Re: 乙山さんへ

『見たことがないものなのに、
自分のものでもないのに、
なぜか愛着とでも呼ぶべき感情を抱いてしまいます。』

乙山さん、
そんなふうに思っていただけるととてもうれしいです。
あずさも喜んでいることと思います。

小さな、汚れた、ろうそくのお人形。
でも、とても可愛いです。
なぜ、捨てようなどと思えたのか、と、自分で逆にそれが不思議です。
少し傾いて立つその姿。
小さな影を後ろにひいて。

今回記事にしようと、娘のところから連れ出してきて、箱から出してやって
よかったなあ、と思っています。
33年という月日。存外に短いもののような気がします。
まだ人形も、箱も、お布団がわりのハンカチーフも、
当時の姿と殆ど変わらず、色鮮かなのを見るとそう感じてしまいます。

でも実際は、33年という月日は十分すぎるくらい長いんですよね。
その間、私にも娘にもいろんなことがありました。
この人形は、茶箪笥の小部屋で、うとうとといつも春の夢を見ながら、
きっと夢うつつに、それらをすべて聞いていたに違いありません。

もの・・・ 
ものって不思議です。

この子は来年も雛祭りの時、お雛様たちと一緒に、
ちゃんと外に出してやろうと思うようになりました。
ありがとうございました。

Re: 依里さんへ

依里さん。
ちょうどそちらにうかがっていたところでした。

依里さんの想い、なんとなくですが、察せられるような気がするのですが。
私の勘違いかな。

短いコメントだけに、依里さんの心が伝わってくるような気がするのです。
 

とても可愛い

小さな布団をちゃんと着て、寝ているところ、
おかっぱ頭になっているところも、
可愛い感じです。
愛着を持ってしまうと、どうしても捨てることができません。
見たことがないものなのに、
自分のものでもないのに、
なぜか愛着とでも呼ぶべき感情を抱いてしまいます。

No title

想い出の品。
ちょっと羨ましい気がします。

Re: れんげさ~ん。

れんげさ~ん。あずさですぅ。……

れんげさん、こんばんは。ご無沙汰しています。
あずさはね。あんまり言葉を知らないのです。
何しろ、ろうそくですからね(笑)。
頭のてっぺんにはちゃんと芯があります。

だから代わりにわたくしが(笑)。

記事を書き終わって、ふと気づいて、検索してみたんですよ。
そしたら、娘が『あずさ』と名付けた理由が分かった。
狩人の『あづさ2号』という歌が、その年の春、丁度出ていた(笑)。
れんげさん、知ってらっしゃるかなあ。娘よりお若いだろうから
ご存じないだろうな。
『あづさ2号』は、我が家の近くも通って行っていたのです。

褒めていただいたお礼に、れんげさんにお送りします!
狩人『あずさ2号』
http://www.youtube.com/watch?v=S3myO0aQDBQ

No title

あずさちゃん、こんばんわ~!!

くぅ~、いいねぇ♪ 心温まるよぉ~。
ステキなお雛様見れましたぁ~、満足です!!ありがと~っ♪
プロフィール

彼岸花さん

Author:彼岸花さん
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『しだかれて十薬忿怒の息吐けり』

『南亭雑記』の南亭師から頂戴した句。このブログになんともぴったりな句と思い、使わせていただきます。
十薬とはどくだみのこと。どくだみは踏みしだかれると
鮮烈な香りを発します。その青い香りは、さながら虐げられた若者の体から発する忿怒と抗議のエネルギーのよう。
暑い季節には、この強い歌を入口に掲げて、私も一民衆としての想いを熱く語りましょう。

そして季節は秋。
一足早いけれども、同じく南亭師からいただいた、この冬の句も掲げておきましょう。

『埋火に理不尽を焼べどくだみ荘』

埋火(うずみび)は、寝る前に囲炉裏や火鉢の燠火に灰をかぶせて火が消えてしまわぬようにしておいた炭火などのこと。翌朝またこの小さな火を掻き立てて新たな炭をくべ、朝餉の支度にかかるのです…

ペシャワール会
http://www1a.biglobe.ne.jp/peshawar/pekai/signup.html
国境なき医師団
http://www.msf.or.jp/donate/?grid=header02
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